第3話1-3ついてこい

「何をしている!」


 僕は急に抱えられました。ガッチリとした腕に抱えられて、足を中にバタつかせながら運ばれました。世界には僕だけではありませんでした。


「何ですか!?」


 僕は頑張って抵抗しましたが……米俵のように肩で担がれながら……米のように体を柔らかくジャラジャラと……


「動くな!じっと捕まってろ」


 そのまま後ろ向きに校庭へ運ばれた僕の目には、体育館が倒壊していく様子が見えました。内側から崩れていって、壁に天井がもたれていました。壁はそのまま重さに耐えられずに紙のように脆く外に崩れていきました。


「体育館が!」

「もっと走るぞ」


 運動場の中央まで走る運び屋を追いかけるように噴煙の波が押し寄せてきました。それは僕たちを捕まえようという意思を持っているかのように、手を伸ばしているかのように迫ってきました。僕は追手の手を払いのけるかのようにシッシと手を振りました。

 と、僕たちは転びました。僕は視界が沈み、溺れかのような錯覚に陥りました。土埃の波が僕たちを転覆させに来ました。

 ――僕の目と鼻の先に土煙は沈んで行きました。


「ゲホッゲホックシュン」


 僕は目と鼻と口から液体を出しました。水中で溺れた場合には水でごまかすことができるはずのものでした。おしっこと同じようにごまかせるものです。


「大丈夫か。ボケーっとするな」


 角刈りの若そうな兄さんが僕のほっぺを優しく叩いてきました。茫然自失の人間を正気にさせる方法なのでしょう。頬は痛くありませんでした。


「立てるか?どうだ?」

「立てます。自分で立てます」

「いけるか?」

「何がですか?」

「まだ生きたいか?それとも死にたいか?」


 僕は自殺しながら僕を守ってくれたおばあさんのことを思い出しました。自殺することもいいのかもしれませんが、助けてもらったことを申し訳なく思いました。僕は昔ほど死にたくないとは思えなくなりましたが、もう少し頑張ろうと思いました。


「生きたいです」

「よし、ついてこい」



 僕たちが学校を出たら、バッタの大群がきました。RPGゲームにおける町から出た瞬間に敵モンスターとエンカウントするようなタイミングでした。ゲームでは気づかないけど本当はこんなにも絶望的な気持ちになるのかと気を落としました。


「またバッタだ」

「待っとれよ」


 男性をよく見たら片足ほどの大きさのねずみ色のボンベを持っていました。栓を捻ってホースをバッタに向けました。手際は早くプロかと思いました。

ガスが発射される高い音。

バッタたちは次々に地面に落ちてきました。その効果に僕は口を開けて驚きました。おそらく、殺虫剤なのでしょう。


「すごい!」

「ついてこい」


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