第30話6-5:僕は浜辺を歩きました

 1日が経ちました。

 茫然自失から僕は立ち上がりました。まだ万全ではありません。

 僕は分解の技術を使ってみました。やはりできませんでした。成れの果てがいないとできないのは本当であり、兄がいなくなったことを少し実感しました。

 もしかしたら、成れの果てがなくてもできるのではないかと可能性を求めました。僕は技術の再修行を始めます。しかし、やはり技術を使えないことに兄の死を実感しました。



 1週間が経ちました。

 その間、研究者が仲間と共に僕の面倒を見てくれました。機械や建物が戦闘で壊れたことを謝りましたが、どうせ潰すつもりだったので解体費などが浮いてよかったなどと笑ってくれた。嘘だとしても精神的に助かりました。

 僕は修行をしましたが、結局はできませんでした。このままでは外に出ても失敗して成れの果てになります。さて、どうしたものでしょう。

 やはり修行の能力を使うためには、自分と成れの果ての2つ が必要なのです。



 僕は寝転がり思考します。

 能力者だった師匠は成れの果ての兄を所持していたときには技術を使えました。しかし、僕が兄を返してもらってから技術を使いませんでした。あれは、成れの果てがいなかったから使えなかったのです。

 ということは、師匠も昔に成れの果てとともにいたということでしょう。そして、その成れの果てはもう師匠のもとにはいなかったのでしょう。その成れの果ては師匠とどういう関係だったのかはわかりませんが……

 その成れの果ては、寿命で死んだのか、旅に出たのか、師匠に殺されたのか……

とにかく、成れの果てがいなくて技術が使えない師匠は、海底に行くこともできずに地上で彷徨っていたのでしょうか? 自分の死に場所を探していたのでしょうか? それとも……

 そこに漂流した兄と会いました。僕とも会いました。その時に師匠は何を思ったのでしょうか?

 成れの果ての兄を使って海底に行くことはできたはずです。しかし、行きませんでした。僕を修行してくれたので、僕が代わりに海底に行くことができました。

もしかしたら、師匠も成れの果てや能力者を人間に戻すこの方法を知っていたのかもしれません。しかし、今となっては推測するしかありません。



 本来なら共存できるはずなのに、争っている能力者・成れの果て・人間たちがいます。

 僕も兄を取られたから、倒すしかなかったのです。

 そういうことを師匠も経験したのだろうか……



 ――僕は街の端にいました。

 外に出ようにも出られないので、何も出来ずに茫然自失するのみでした。

 そこには、たくさんの死体が流れ着いていました。

 それらを何も考えずに見渡すと、僕は何かを感じました。感じた方向に向かっていくと、見たことのあるペンダントがありました。僕は心臓が徐々に強く波打つのを感じました。

 その骸骨は、母親が持っていたペンダントを首にかけていました。

 母親のペンダントだった場合に仕込まれている写真があるのかを確認しようとしました。錆び付いていたところを無理やりこじ開けてみると、写真がありました。 僕たち4人家族の平和な写真がありました。

 母親の死骸を発見したのです。

 人として死んでいました。

 成れの果てのようないびつな骨格ではありませんでした。もしかしたら能力者になっていたのかもしれませんが、僕は能力者とは違うと本能で思いました。



 おそらく、父と母はどちらかが能力者か成れの果てになればどちらかが生き残れたが、失敗したのでともに亡くなったのでしょう。

 しかし、それで良かったと思います。



 僕はそこを去ると、街の中をあてもなくブラブラ歩くことにしました。

 すると、トンネルがありました。

 トンネルに入ると、先が真っ黒で見えませんでした。

 僕はさらに奥に進むと、地上に出ました。

 地上です。見たことのある光景でした。師匠と修行した場所でした。

 


 地上に出たのです。

 技術がなくても地上に戻れたのです。

 おそらく、その逆もできるのです。

 でも、僕にはそれをする気力はありませんでした。

 もしかしたら師匠も……



 地上は成れの果てや能力者が殆どいないと思っていましたが、もしかしたらたくさんいるのかもしれません。

 人と成れの果てや能力者が仲良く暮らす街は殆どないと思っていましたが、もしかしたらたくさんあるのかもしれません。

 成れの果てや能力者を人間に戻す方法は殆どないと思っていましたが、もしかしたらたくさんあるのかもしれません。

 殆どないと思っていたものが、実際にはたくさんあるのかもしれません。



 僕は生きています。

 目的達成しました。母を見つけたし、兄の戻し方も発見しました。

 しかし、母も兄も死にました。

 死ぬのはぼくであった可能性も高かったです。しかし、僕は生きています。生きることも死ぬことも大差はないのかもしれません。



 僕は今までの暮らしを享受することにしました。もしかしたら、今までと違う暮らしになるのかもしれません。これから先のことはわかりません。



 僕は浜辺を歩きました。

 今までの海底の旅を思い出しながら、歩きました。



 すると、海岸に打ち上げられている人と成れの果てを発見しました。

 僕は自分のことを思い出しました。

 僕はその2人のところに歩みを進めます。

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海の底はそこの膿 すけだい @sukedai

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