第27話6-2:ありがとう
「――では、本人たちでするのか?」
研究者は息継ぎをするかのように口を開きました。重苦しい空気だったのでしょう。事実、僕もどうしたものかと思い口が動かず心臓が痛かったです。
研究者の提案を聞き、僕は自分が犠牲になろうとした
が、兄は断ります。弟である僕を犠牲にしてまで元に戻るつもりはないらしいです。
一方で同じ境遇の姉妹がいるが、自分第一で、相手のことを考えていない様子でした。妹のクウは犠牲になりたくないが、成れの果てである姉のテンが無理やり犠牲にさせようとします。妹のクウは反抗しました
が、姉のテンは命令に折れて、機械を利用しました。
――元に戻った姉のテンは、ロングヘアーに妹と同じそばかすの姿でした。成れの果てになった妹は同じようなドクロのネックレスでした。人間になったテンは成れの果てになったクウに話しかけます。
「ありがとう、クウ」
「いいいいいのよ……」
テンは笑顔で感謝し、クウは返事します。釈然としない気持ちはありましたが、これも一つの形だと思います。2人はこれで幸せなのでしょう。
と、テンはクウを両手で握りつぶしました。
「何をしているっ!?」
パラパラと砂のように砕けたクウの破片がすり出てくるテンの手を僕は見ています。何をどう血迷ったのか、理解ができません。妹を殺す姉など、しかも自己犠牲を払った妹を殺すなどあってはなりません。
「何って、証拠隠滅よ。妹を犠牲にしたなんて、バレたらやばいでしょ?」
証拠隠滅として犠牲となった成れの果てを殺したのです。自分のために実の妹を殺したのです。それがテンの言い分です。
「……妹だろ?」
僕は粉みじんになったものを指さします。それはとても人とは思えない砂でした。しかし、数分前まで確実に人だったのです。
「妹? いえ、妹だったのよ。あんな気持ち悪い成れの果てが妹のわけがないじゃない。はーはっはっは」
テンは手に包んでいた妹の死体の粉を撒き散らし踏みつけ、高笑いしていました。その笑い方は人間のそれでしたが、僕が今まで聞いた能力者の得体の知らないどの笑い方よりも不快に感じました。僕はイラつき愕然としました。
「この人でなし!」
怒りが滾る。僕は能力者を殺したくないけど殺してきましたが、今度は人でそうなりそうです。殺したい衝動を抑える気持ちが折れそうです。
「人でないのは、私の妹だった成れの果てでしょ? それと、あなたの兄も」
兄のことまでも侮蔑されて、僕は一歩殺しに出ました。
が、胸元で優しく叩く衝動を感じました。
兄が止めたのです。人殺しをしては後悔するはずだから、我慢しろと言っている気がします。僕は息を吐いて怒りの毒気を抜いて、立ち止まりました。
テンは僕の行動に首をひねりましたが、自分の障害にならないと考え無視をして、その場に佇んでいました。自分の体や声を逐一確認していました。未だに信じられない人間の体の自分を堪能しているのです。
「――おかしいわ」
テンは何かを疑問に思いキョロキョロ自分を見渡していました。特に変わったところはないように見えました。本人にしかわからない違和感でしょうか?
「どうしたのですか?」
僕は質問しました。憤りは残っていましたが、それはそれ、これはこれです。テンは無視していた僕に目を向けました。
「技術が使えないのよ。ほら、あなたも使える分解の技術。てっきり入れ替わりで私も使えるものだと思ったけど、違うらしいわ」
テンは不思議そうに残念がりました。どうやら分解の技術を使えると思ったらしいです。それは使えたと思われるクウを犠牲にしたからか、それとも自分が成れの果ての時に使えたからなのか……
「それがどうしたのですか?」
僕は再度質問しました。自分のことしか考えていないテンに憤りは残っています。憤りで足の指をピクピクと高速に動かします。
「自分の故郷に戻れないじゃないの。困ったわ」
困ったのは君の存在です。君なんか故郷に戻る資格なんかないです。僕が思うに、このまま妹と同じ場所で朽ち果てろ。
「自業自得ですよ。ここで暮らしてください」
僕はさっさと去ろうと思いました。これ以上話しても平行線です。無駄な話はさっさと切り上げるのが吉です。
「そうだ。あなた、修行してよ」
テンはいきなりいい考えだと言わんばかりに手を叩きながら言う。僕は「はぁ?」と嫌な口を開きました。テンは僕の反応にキョトンとしています。
「どうしてですか?」
僕は自分がテンの修行をする理由がありません。むしろ、嫌っているので断る理由はあります。それはテンもさすがに心情としてわかるはずです。
「どうしてって、あなたも技術を使えるのでしょ? だったら教えを請うのは当たり前じゃないの? なにか教えたくない理由があるの?」
その教えてもらって当然の態度に嫌気がしました。どこまで行っても自分勝手なやつです。妹を振り回したあとは悪気もなく僕を振り回そうとします。
「――君みたいなやつに教えることはないです」
僕は当然断りました。即効で怒りの撤退です。こんな人間のクズにできることなんか何もありません。
「何を怒っているのかしら。まぁいいわ。自分で勝手に修行するわ。妹がしていた修業を見ていたから、やり方はわかるし」
テンは興味なさそうに「あっそ」と言いたげでした。僕なんかいてもいなくてもどちらでもいいのです。妹のこともそうだったのでしょう。
「そうですか」
僕もテンのことは怒りでもはやどうでもよかったのです。
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