第23話5-2:俺は強い

 翌日。


「今日はいないな」


 弟はオンがいないことで、気が抜けていたんじゃい。

 なんてことない敵にやられかけたんじゃい。

 すると指輪が光ったんじゃい。


「まぶっ」


 その眩しさに目をくらませた敵の不意を突いて、弟は助かったんじゃい。

 しかし、どうして指輪は光ったんじゃい?

 ピンチの時に光る仕様なのかじゃい?


「――本当に命を守ってくれる不思議な指輪だったんですか」


 弟は指輪に恍惚としていたんじゃい。

 再び油断をして、別の敵にやられそうになったんじゃい。

 再び指輪が光って、敵が怯んで、弟は返り討ちにしたんじゃい。


「また助かった」


 気を引き締めた弟は再び別の敵に首を捕まれ、やられそうになったんじゃい。

 連続でやられそうになったのは、単純に相手が強かったんじゃい。

 再び指輪が光ったんじゃい。



 ――しかし、この強い敵は弟の反撃に耐えて、返り討ちにして、弟の首を絞めて持ち上げていたんじゃい。


「光ると覚悟したら、耐えられないこともない。あ・ば・よ」


 弟が負けかけたら、指輪が強く光ったんじゃい。

 しかし、相手は目を細めながらもものともしていなかったんじゃい。

 殺させそうになる弟の最期の命の輝きみたいに、指輪の光だけが今までになく激しく、されど虚しく輝いていたんじゃい。


「これくらいの光、たいしたことない」


 さらに強い光がその周辺を照らしたんじゃい。

 …… 

 光が収まると、オンが敵の首を右手で絞めて持ち上げていたんじゃい。弟はもう片方の左手でお姫様のように抱えられていたんじゃい。

 鬼の形相で、筋骨隆々のオンじゃい。

 オンが召喚されたんじゃい。


「君は?」


 弟は知らないものを見た反応じゃい。

 しかし、それは知っているものだったんじゃい。

 だがしかし、知っているオンとは似ても似つかぬ雰囲気だったんじゃい。


「大丈夫、俺は強い」


 オンは鬼の形相から神様のような優しい顔つきであやしてきたんじゃい。

 オンはそのまま敵を投げ飛ばすと、遥か遠方へ星のように飛んでいき、その通過した周りは台風が通ったように全てをなぎ払ったんじゃい。

 その圧倒的な力にオイラも弟も周りの全てのものも呆然としたんじゃい。


「敵を一掃するから、待ってくれ」


 オンは軽く手を振ると、その先にいた敵たちは吹き飛んだんじゃい。

 扇風機の前の埃みたいなものじゃい。

 圧倒的に強かったんじゃい。


「すごい」


 感嘆する弟。

 と、その後ろに、敵がいたんじゃい。

 怯え驚く余裕もなく、その手が命を狩るように伸びてきたんじゃい。


「!?」


 弟は助かったんじゃい。

 オンの左手に抱えられて助けられたんじゃい。

 オンの右腕は地面に落ちたんじゃい。


「ほー、今度は助けることができたのかえ」


 その背後から襲ってきたものがオンの右腕を切り取ったんじゃい。

 いとも簡単に豆腐のように切りとったんじゃい。

 おいらたちから見て傷一つつけられそうにない今のオン右腕を、理解できないくらい簡単に切り取ったんじゃい。


「お前は!」


 オンは切り取られた右腕に力を込めて筋肉で血管を圧縮して止血し、角を折られた鬼のように怒りで血管を浮かしたんじゃい。

 その怒り方は、腕を切り取られたことへの怒りを超えたものだったんじゃい。

 何かしらの因縁が有るように見えたんじゃい。


「その様子、わたくしめのことを覚えていてくれたようだえ」


 敵は腰まである無駄に長いロン毛を腕で捲し上げ、挑発するように睨めつけたんじゃい。

 オンはその挑発には乗らずにぐっと歯を食いしばっていたんじゃい。

 目が飛び出しそうなくらい充血していたんじゃい。


「忘れるものか。このやろう」


 オンの言葉の一つ一つに血が通っていたんじゃい。

 あっしも弟も固唾を呑むことすらできなかったんじゃい。

 あまりの緊張に、乾きがおさまらないんじゃい。


「せせせ。ありがたき幸せだえ、元女王様」


 ――え? 女王様? ということは、男性であり戦闘員であり弱いものと思っていたオンは、実は女性であり10年前の統治者であり強いものなんじゃい?――


「皮肉を言いたいのか? お前のせいだろ、革命軍リーダーめ」

 

 ――え? 革命軍のリーダー? ということは、こいつが傾国を起こして今の内乱状況を作ってオンを女王の座から追い出した因縁の相手ということかじゃい?――


「せせせ。国を追われたことを恨んでいるのかえ? というか、どうして亡命しない? この国に拘るのかえ?」


 革命軍のリーダーは憎たらしい笑い声で挑発していたんじゃい。

 それは、オンの冷静さを失わせるための作戦なのは誰から見ても明らかじゃい。

 どこの世界に追い出されて恨まないものがいて、どこの世界に自分の国に拘らないものがいるんじゃい。


「外に出ることが難しいことくらいわかっているくせに。まぁ、それがなくても、お前にこの国をめちゃくちゃにされないために残っているんだがな」


 女王の威厳、その一言に尽きる佇まいじゃい。

 怒りを込めながらも冷静に国を憂いているんじゃい。

 きっといい国だったんだろうと予想できるんじゃい。


「せせせ。それはおかしいことを言うえ。この国がめちゃくちゃなのは、あなた様や元女王様側のものたちが抵抗しているからだえ。おとなしくわたくしめたちに支配されたら争いがなくなり、平和になるえ」


 革命軍のリーダーはヘラヘラと減らず口を叩いていたんじゃい。

 おかしいことに、自分から争いを仕掛けておきながら相手の方が悪いといい、自分を肯定させているんじゃい。

 そもそも笑い方が気に食わないんじゃい。


「では、お前が支配を始めたら、何をするつもりだ?」


 オンは禅問答を始めたんじゃい。

 相手の思想を引き出し、ぶつけ合う暴力のない争いじゃい。

 減らず口はどこまで高尚で人民のためである先を考えているのかじゃい。


「そうだな。とりあえず、普通の人間は殺すか奴隷かだえ」


 オンから血管が切れる音が聞こえたんじゃい。

 本来はそんな音が聞こえるわけがないから、自分の耳を疑ったんじゃい。

 しかし、交渉が決裂したことはわかったんじゃい。


「このゲス野郎」


 オンは右足を一歩後ろに退かせて前かがみになり、虎が虎の子を殺した相手に襲いかかるそうな凄みを出していたんじゃい。

 それに対して革命軍のリーダーはハイエナのようにヘラヘラとしながらも全く隙がない構えをしたんじゃい。

 戦いはさけられないんじゃい。


「わたくしめからしたら、女王様たちの考えがわからないえ。どうして能力者と能力者あらざるものを平等に扱うことをするのえ? 昔みたいに差別すればいいのえ」


 革命軍のリーダーは相変わらず禅問答の続きをしていたんじゃい。

 しかし、それは平和的解決のものではなく、ただの挑発だったんじゃい。

 オンは言葉を止め、真っ直ぐに睨み、飛び込むとともに言葉を放つんじゃい。


「お前にはわからんことだ」


 2人の拳が交わうんじゃい。

 2人の周りは爆弾のような暴風とともにあらゆるものたちをチリのように吹き飛ばしたんじゃい。

 2人は戦うんじゃい。

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