第22話5-1争い


 あっしは弟と一緒に争いが絶えない街にいるんじゃい。

 弟も争いに巻き込まれたんじゃい。

 平原にテントを貼って野宿するんじゃい。


「俺は強い」


 そう口にするやつがいたんじゃい。

 坊主頭に近いやつの名前はオンと言うらしいんじゃい。

 オンは何回か戦場で一緒になったが、いつも弟に助けてもらっていたんじゃい。


「オンさんは本当に強いのですか?」


 集合野営住宅で、皆で炊き出しを食べていたんじゃい。

 星が綺麗じゃい。

 あっしは成れの果てになってから、思考がまとまらないんじゃい。


「俺は強い。本当だ」


 弟の質問にオンは返事じゃい。

 煌く松明の光に月のように映るその顔は自信満々だったんじゃい。

 弟は疑って眉をひそめたんじゃい。


「そいつが強いわけないだろ」

「口だけだよ、口だけ」

「明日には死んでいるさ」


 周りの奴らはオンを馬鹿にして嘲笑していたんじゃい。

 俺も同じ気分だったんじゃい。

 弟の睨みに殺気を感じたから、寒気がしたんじゃい。


「ところで、どうして争いが起きているんですか?」


 悪しきを挫く精神の弟のよる悪しき心のものへの睨みが終わってホッと胸をなでおろしたんじゃい。

 弟の情報収集が始まったおかげで助かったんじゃい。

 あっしを元に戻すためにクセが、あっしの気まずい心境を助けてくれたんじゃい。


「10年前までは平和だったんだ。圧倒的に強い能力者が支配していたからな」


 オンは昔のことを思いだすように語り始めたんじゃい。

 しかし、それは他のものから聞いたことがある一般教養だったんじゃい。

 しょうもないんじゃい。


「その能力者はどうなったんですか?」


 弟が訊いたことにはあっしも興味があったんじゃい。

 その強い能力者のことは誰に訊いても知らないの一点張りだったんじゃい。

 あっしは期待したんじゃい。


「彼女は消息不明だ。亡くなったというのが一般的な見解だ」


 ズコー!

 お前も知らないのかじゃい。

 そんな気はしたんじゃい。


「彼女? 女性だったのですか、その強い能力者は?」


 おおっと、言われてみれば知らない情報じゃい。

 あっしは勝手に男だと思っていたんじゃい。

 ナイス、オンじゃい。


「そうだ。皆が珍しがったものだ、女王様だということをな」


 オンは少し笑って夜空を見上げていたんじゃい。

 よほどバカバカしい平和な出来事だったらしいじゃい。

 それが今や争いが絶えない内乱状態じゃい。


「それで、どうして消息不明になったのですか?」


 そう、そこが訊きたいところだったんじゃい。

 背中のかゆいところをピンポイントに掻いてくれる孫の手のように、弟の質問はあっしの疑問点をついてくれるんじゃい。

 まぁ、オンからまともな返答は期待していないんじゃい。


「いろいろな説があるが、政治的な理由が濃厚だ。権力争いで、邪魔だと思っているものがいたという噂だ」


 やっぱり知らないんじゃい。

 ほかのものと同じ無難な答えで反応に困ったんじゃい。

 聞く相手を間違えたんじゃい。


「どこでも同じようなことがあるのですね」


 弟も聞く相手を間違えたと思っている様子だったんじゃい。

 しかし、気楽で楽しそうにも見えたんじゃい。

 事実、悪者には見えなかったんじゃい。


「それからは、争いが年がら年中起きている。そのなか、俺は戦に出たというわけだ、生きるために」


 あっしたちも生きるために旅に出たんじゃい。

 お前だけが特別だと思うんじゃないんじゃい。

 特別なのはあっしだけじゃい。


「よく今まで生きてこられましたね」


 弟は呆れてように言ったんじゃい。

 何回も助けている立場からしたら、自分がいない時にどうやって助かったのかと不思議で仕方がないんじゃい。

 ある意味、一番興味があるんじゃい。


「俺は強いからな」


 とオンは豪語するんじゃい。

 自信満々に親指を立ててカッコつけるんじゃい。

 はい解散解散、じゃい。



 次の日も争いじゃい。

 敵味方が行き交い砂埃が舞う平地での戦場でオンはいつも通り戦果を挙げることができないんじゃい。

 やられそうになったとき、オンは、弟に助けてもらったんじゃい。


「また助けてもらったな」


 オンはダンディーにカッコつけた言い方だったんじゃい。

 なに自分が助けたみたいな態度でいるんじゃい。

カッコつけている暇があったら、逃げるなりなんなりするんじゃい。


「僕の近くにいてくださいね」


 弟はやれやれと言いたげな気だるさを見せたんじゃい。

 知り合いになったから見捨てることができない甘い性格なんじゃい。

 周りのものたちは――昨日オンを笑っていた者たちも含めて――次々と戦場に倒れていったんじゃい。


「いつも助けてもらっているお礼に、これを受け取ってくれ」


 オンはお礼に指輪を与えたんじゃい。

 金色に輝いていたが、貴金属に疎いあっしには価値がわからなかったんじゃい。

 いいものだと勝手に思っておくんじゃい。


「これは?」


 弟は指輪を受け取ったんじゃい。

 高価なプレゼントを受け取ることが初めてだったから、戸惑っていたんじゃい。

 指輪と言ったら、婚約指輪しか頭にない弟じゃい。


「命を守ってくれる不思議な指輪だ」


 オンから怪しい押し売り文句が出てきたんじゃい。

 タダより高いものはない、という言葉を思い出したんじゃい。

 でも、オンは頼りないけど怪しくは見えなかったんじゃい。


「だったら、君が持っていたほうが……」


 弟は指輪を突き返そうとしたんじゃい。

 命を守る指輪を失ったら、今度こそオンが死んでしまうと思ったんじゃい。

 するとオンは笑いながら両手を広げたんじゃい。


「まだいっぱいあるぞ」


 どこに持っていたのかと疑問に思うくらいの指輪の量だったんじゃい。

 掘り当てた温泉のように手から溢れそうな指輪の数々じゃい。

 指輪の物価が大暴落じゃい。


「……ありがたくいただきます」


 弟はあまりありがたく感じなかったんじゃい。

 とりあえず指にはめるとして左手の薬指は変だと思ったのか、なんとなく右手の中指にはめていたんじゃい。

 弟が指輪をはめているところを注視していたら、オンはマジックのように大量の指輪をどこかになおしたんじゃい。


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