第15話3-5:君は死にたかったのですね

 倒れたリーダー格のところに歩いていくテイ。その足取りは鉛の重りを付けられているのではないかと思うくらい重かった。勝者の足取りには見えなかったのは動きの表情でわかったが、顔は努めて凛として表情を出さなかった。


「君は死にたかったのですね」


 俺と同じことを思っていたらしい。それはそうか。俺が気づくより早く、今までの能力者と戦っている時から、いや、俺と出会う前から気づいていたのだろう。どことなく影がありつかみどころがなかったのはそういうことか……


「どうしてそう思う?」


 リーダー格は突っぱねてきた。努めて知らぬ顔をした。その顔は願いが叶ったように穏やかだった。


「自分から能力を話したからです。それは、自分を殺して欲しい能力者がよくすることです。だからそう思いました」


 テイは静かにリーダー格の手を握り締めた。それは相手が苦労してきたことをねぎらうものでしょう。能力者の苦労を悲しんだのしょう。


「なるほど」


 リーダー格はそっけなかった。態度としては仲良くするわけには行かない。しかし、握られた手を払いのけることはしなかった。


「どうして死にたくないと嘘をついたのですか?」


 テイは手を強く握った。それは相手を慮ってのものか、自分のためか、その両方か? おそらくテイはその自分の質問の答えをすでに持っていた。


「死にたい能力者をお前が殺さなかったからだ、だから、死にたくない能力者だといえば殺してもらえる可能性が高くなると思った。あと、立場上は死にたいとは言えない」


 リーダー格は丁寧に言葉を選んで説明した。誤解を生まないようにきちんと伝えたかったのでしょう。テイは静かにうなづいた。


「なるほど。でも、僕は君を殺しませんよ」


 テイは静かにはっきり力強く言った。それに対してリーダー格は顔を向け、力強く握り返した。しかし、あまり力はなかった。


「どうしてだ? 人間と違うのだぞ?」


 その言葉を聞くと、テイは左手だけを相手の手から離し、自分の首にぶらさげられているドクロを手に持った。その行動に俺もリーダー格も疑問のていをなした。そのままテイはドクロを相手に見えやすいところに運び、こう言う。


「このドクロ、僕のお兄ちゃんなんです。能力者と同じ成れの果てなんです。能力者を殺してもいいという考えは、お兄ちゃんを殺してもいいという考えになるから嫌です」


 俺はドクロのことで驚くとともに、内心馬鹿にしたことを悪く思った。まさかあの悪趣味なドクロが変わり果てたテイの兄とは……本当なら信じられないようなことだが、ここで起きた奇々怪々な出来事で慣れたせいで簡単に信じられた。


「そうか、しかし、残念だったな」


 リーダー格は虫の息ながらも声に力を入れた。ここから逆転することは能力者でない俺から見ても無理なことだ。いや、能力者でないからこそそう見えるだけで、本当は逆転の方法があるのか?


「?」


 テイは頭の上にハテナのマークが出ていた。


「俺は身体能力を強化しているから生きているが、この能力を解除したら死んでしまうくらいにダメージを受けている。俺が生きるか死ぬかは俺のサジ次第だ」


 リーダー格は睨みつけていた。その目は怖くもあり優しくもありこの世のものでない魂の抜けたものにも見えた。もう終わりのようだ。


「――はかりましたね」


 テイはなんとも言えない顔だった。憎んでいるわけでも嘆いているわけでも哀れんでいるわけでもありません。ただ死を看取るだけの表情だ。


「ののの。しかし、お前は気を病む必要はない。人だろうが能力者だろうが成れの果てだろうが、どれもいずれ死ぬときは死ぬものだ。どれも同じさ。だから、俺もお前もお前の兄も、同じだから気にするなよ……」


 途中からリーダー格の声は聞こえなくなっていった。遠く離れていくように消えいった。テイは静かに話していた左手を再び相手の手に添えた。


「どっちみち、殺していることには変わりないですけどね」


 返事がない。能力を解いていた。

 その日、一体の能力者が亡くなったと書類に書かれた。



「――お前、これからどうするんだ?」


 監獄を出た俺はテイに聞いた。俺は別の街に行き大会に出るつもりだが、テイの行き先がわからなかった。もしかしたら気落ちしているのかもしれないし行くあてもないのなら、しばらくは一緒にいてやってもいいかなと思っただけだ。


「僕は兄ちゃんを元に戻す方法を探します」


 テイははっきりとした口調を目で言った。そうか、俺と違って兄という居場所があるのか。良かったと安心するような、いいなぁと羨むような、入り混じった感情を持った。


「……それにしても、あいつらというか、あの街はこれからどうなるんだろうね?」

「さぁ。僕は出て行くけど、君が成り行きを見て報告してくれるのですか?」

「よせやい。あの街に俺の居場所はない」


 俺はテイと別れた。俺は隣の町に行くのだが、テイはこの町や隣町があるこのエリア自体から出て行き、海を潜って別のエリアに行くようだ。テイ曰く、いろいろな街があったとしても一つのエリアができることは同じなので、この街で欲しい情報がなければ他のエリアに行く必要が出てくる、とのことだ。

 俺はその理論の意味がわかるようなよくわからないような感じだったが、詳しく聞くのをやめた。俺だって自分の嫌な過去をほかのやつに聞かれるのは嫌だ。だから、相手に根掘り葉掘り聞く奴らの気がしれない。

それにしても、監獄のものたちはどうなるか分からない。

 これから先、身体の能力者がどうなるかわからない。

 それに、俺もどうなるかわからない。

 わからないと言ったら、テイのことが結局わからなかった。が、まぁ、いいか。

 俺の進む方向は晴れていたが、テイが街から去っていく方向は何とも言えない晴れと雲の入り混じった空模様だった。


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