第13話3-3:色々な能力者がいますね

「――決勝はテイに準決勝で負けた選手が代わりに出た。まぁ、負けたけどな」


 俺は牢屋のオリの向こうにいるテイに報告した。本当はそんなことをする義務はないし間柄でもないしメリットはない。むしろ、罪人と関係があると思われてデメリットしかないのだが、周りに総スカンされるのも可愛そうだと過去の自分に照らし合わせただけだ。


「そうですか」


 テイは気のない返事だった。大会の結果に全く興味がない様子で、よく思い返したら連行される時も自分から進んで捕まりに行っていたようだった。この何を考えているのかわからない少年は、黒いピチピチの服にドクロのネックレスというよくわからない服装のままおとなしく石の床の上を座っていた。


「ところで、ここから出ないのか? お前の能力なら出られるんじゃないのか?」


 俺は看守の横で脱走の提案をした。看守は睨んできたが、こういうところではよくある言葉だとして見逃してくれた。脱走の手助けをしたら話は別らしいが、そんなことをするつもりはサラサラなかった。


「そうですね。目的のものはなかったので、そろそろオサラバします」


 立ち上がるテイに対して看守は警告し、俺はいらぬことを言ってしまったと思った。これでは俺が脱獄の手引きをしたように印象づけられる。それに、気になる発言をテイはしていたので、俺はどうせ同罪扱いされるならと怖いもの知らずの気分で訊いた。


「目的のもの?」


 テイがおとなしく進んで牢屋に入った理由であり大会結果よりも気にしている理由であろう目的とやらが気になって、看守の怒声が耳に入ってこなかった。それは金銀財宝だろうか?何かしらの名誉ある称号だろうか?大事な人だろうか? 俺には見当がつかないものだし、この謎の少年の本性を探れるものだと期待した。


「知らなくてもいいものです。ちょっと離れてください、危ないですので」


 期待はずれで、何もわからなかった。俺は思い通りに行かないショックで体が動かなかった。テイの警告を図らずも無視する形になった。

 と、テイは牢屋のオリをパンチでぶち壊した。

 曲がったオリがまつ毛に当たりました。俺のまつげは数ミリ切れた。俺はその時まで身の回りで起きていることが気づかなかった。


「……え?」


 俺は目の前にこんにゃくのように曲がった鉄の檻が迫っていたことに驚き直立不動から進まなかった。腰を抜かすことさえできずに、オリのように硬直していた。横ではテイがなに食わぬ顔で牢屋からさっそうと出てくる。


「さっさとずらかりますよ。僕に会いに来たから、君も疑われます」


 俺は返事も動くこともできなかった。そうしている間にも、看守が鉄砲で銃撃してきたが、不自然な軌道を描いて俺らから外れた。そのまま看守は次のタイミングで不自然な吹き飛び方をして壁にめり込んだ。


「お、おう」


 気が動転している俺の手をテイは取り走ります。



 俺が脱走の手助けをしているとしか見えない状況下、俺を引っ張るテイは急にブレーキをかけた。俺は不意に止まったことに対応できずに、そのままの勢いで前に顔面から滑り込んだ。大根おろしとして剃られる気持ちがわかった気がした。


「ななな、行かせねぇぜ。切り刻んでやる」


 俺が見上げると、ナイフのように銀色に尖った異形のものがいた。今まで見てきた見た目では人間と変わらない能力者と違い、いかにもナイフの能力者だと自己主張の強い見た目だった。あと、笑い方が変だ。


「ナイフの能力者ですか」


 テイは訊いた。俺と同じくナイフに見えたようだ。俺は自分の思考が安直過ぎると思ったが、安直すぎて別の能力を隠していると思ったが、直感通りだった。


「素手で大丈夫か?」


 ナイフみたいなものはそのナイフみたいな頭を振り下ろします。それがヘッドバッドの要領で繰り出されたが、テイにかわされて地面に当たったそれは地を蛇のように割くものだった。当たれば一刀両断間違いないそれは再びテイを襲う。


「真剣白羽取り」


 テイは難なく両手で頭を挟んだ。衝撃によってテイの体が少し切れたが、テイの体を覆う膜によって殆どダメージはなさそうだった。テイの後ろにはケーキのナイフカットのように簡単に切られていく鉄の地面があった。


「すると思ったぜ」


 ナイフみたいなものは頭の横からもナイフが生えてきた。それはテイの手を貫いて見えた。血が飛びちる。


「ななな、恐れ入ったか……」


 と、その生えてきたナイフが地面に落ちた。折れたようにちぎれ落ちたナイフが生えていた頭の部分から血が夕方の噴水のように鮮血に流れていた。テイはニヤリと笑いながらナイフみたいなものに勝利宣言の口調で言った。


「僕の体をまとっている空気の膜は、それくらいでは壊れない」


 テイの手は全く傷がなく、ナイフが手を貫いたように見えたのは飛び散ったナイフと手が合わさってそう見えただけのようだ。そのままテイは刃を折る要領で顔か首を折ろうとした。それに対してナイフみたいなものは恐怖に怯えるのではなく、どこか嬉しそうに笑っていた。


「……おいおい、マジかよ。俺のナイフが逝ってしまったか」


 ナイフの能力者を倒した。


「――殺せ。敗者に情けはいらない」


 ナイフみたいなものは地面に落ちたナイフみたいに汚れをまとって倒れていた。俺は、今まで見てきたテイの様子から判断して、無常にも殺すことを厭わないと思った。というか、俺は腹いせとして殺して欲しいと思った。


「僕は殺すつもりはない。たとえそれが化物だとしても、死にたいと思うものだとしても」


 殺さず去った。



 殺さずにテイに狐に化かされたように意表をつかれた俺は、意識散漫にテイと走っていた。だからだろうか、大きな羽の音に気付かなかった。俺はテイに蹴飛ばされて、壁に飛ばされた。


「かかか。血をよこしなさい」


 俺が先程までいたところの地面に大きな針が刺さっていた。その針を口まで伸ばしている昆虫のような化物がいた。俺はでかい蚊を連想した。


「どっかで聞いたような笑い方ですね。血を吸うということは、コウモリの能力者ですか」


 俺にはコウモリには見えなかった。しかし、この手の相手に対して俺以上に慣れているテイがそういうのならコウモリだろうと納得した。この能力者は見掛けに拠らないタイプということだろう。


「蚊の能力者よ」


 蚊の能力者だった。俺は「マジかよ」と言いたげな怪訝な顔でテイへ振り向いたが、向こうは顔を背けた。俺がテイの立場でも恥ずかしくて合わせる顔がない。


「……自分からネタばらしするのですか」


 テイは自分の失態をなかったことにした。俺は内心「えー」と落胆した。蚊みたいなものはテイに合わせていた。


「かかか、そうよ、ありがたく思いなさい」


 蚊みたいなものは笑うと、大きな胸が揺れていた。おそらくメスなのだろうが、俺は欲情を芽生えることがなかった。それほど化物じみて見えたのだ。


「刺されたところから、血が止まらない」


 テイは俺の知らないうちに刺されたらしいところから血をドバドバと出していた。それはいつだろうかと思い起こしたが、俺が襲われて助けた時しか思い当たらない……俺は気付かなかったことにした。


「蚊の唾液は血が固まるのを防ぐのよ」


 蚊みたいなものは説明してくれた。先ほどのナイフみたいなものの時も思ったが、どうして懇切丁寧に自分の能力をばらすのだろうか? まるで相手に自分を倒して欲しいのかと疑う出来事だ。


「なるほど。勉強になりました」


 テイの血が止まる。これには俺だけでなく蚊みたいなものもびっくりしていた。俺はマジックを見ている気分で、相手は自分の絶対的な能力を破られたショックだったのだろう。


「な? どうしてよ?」


 その聞き方はマジシャンに種明かしを求める子供みたいに純粋な質問に見えた。敵ながら可愛く見えた。ペットのような可愛さ。


「空気の膜で蓋をしたのです」


 テイはやれやれと説明した。

と、そこにへばりついていた蚊みたいなものは至近距離から針を刺しまくった。目にも止まらぬ早業。


「しかし、穴を開けまくれば……」


 針は折れた。


「……どうしてよ? さっきは刺せたでしょ?」


 蚊みたいなものは折れた針から血や唾液などを垂れ流して、真っ直ぐに立てずに右に左によれていた。顎を砕かれたグロッキー状態を彷彿させるものだった。ここまで来たら、トドメを刺したほうが相手は楽かもしれない。


「いつも強く膜をまとっているわけではないのです。体力・気力がもたないですので」


 蚊の能力者を倒した。


「――殺さないの?」


 蚊みたいなものもトドメを求めた。それが能力者の礼儀だとしたら、どこかの国の武士道を思い出す。最近は殺さずがかっこいいという風潮がかっこいいとなっているが、殺すことも良いのではないかと俺は世間に反抗したい。


「さっきも同じことを言われました。そして、その能力者は生きています」


 殺さずに去った。



「色々な能力者がいますね」


 氷の能力者・人形を操る能力者・その他色々な能力者が次々に襲ってきました。

 彼らは皆、死を望んでいた。

 が、テイは一人として殺さなかった。

 どうして能力者は死にたがるのか? 能力者であることが嫌なわけではあるまいし。仮に嫌だとしても、自殺すればいいだけだろ?

 どうしてテイは殺さないのか? 相手が人間でないのなら、躊躇する必要なんてないのに。 もしかして、殺したり誰かの死を直面したことのないあまちゃんなのか?


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