第6話1-5:だったら、私が能力者になるわ

 街の機能が止まった。

 街を動かす原動力である炎がなくなり、街が滅びようとする。あらゆる街の明かりが消え、廃墟のような様相になった。私の人生の中でもなかったことだ。


「なるほど、炎の能力者による火力発電で街が潤っていたのですね。そして、それがなくなった今、街の機能が停止したわけですか」


 縄で縛った敵たちの横で、テイは私の説明を理解した。テイは冷静にいるというか、他人事だから興味がないように私には見えた。実際に私がテイの立場なら、知らない街のことなんかどうでもいいけど悩むふりだけはする。


「ほかの能力者は……?」


 捕まえた能力者は戦意喪失などで働くようには全く見えなかった。だから、今回捕まえられなかった能力者とかを頼るしかない。しかし……


「無理だな。ボスが負けたことで逃げた。逃げ足だけは早いようです」


 テイの発言と同じことを思った。心を砕く作業は私も願っていたことだが、後の反乱が起きないようにするために必要だが、協力を仰げない問題もあった。私は熟考する時間もない中、思考が足早に考えた。


「だったら、私が能力者になるわ」


 私は水圧で特殊能力者になろうと望む。先ほどのグロイ映像が頭に浮かんだのは発言の後だった。今、街のどこかが崩れ落ちた音がした。


「それはダメです。ほかの方法を考えましょう」


 少年はそれを止めて、町を出るなりほかの方法を求める。しかし、そうこうするうちに街が崩壊を始めている。もう方法も時間もない。


「どうして止めるのよ」


 私はテイに抵抗するつもりだ。街の圧政が終わったのはテイのおかげだが、街自体が終わろうとしているのもテイのせいだ。こいつの言うことなんか聞いてられるか。


「失敗したらどうするんだ。見ただろ、グチャグチャになった成れの果てを」


 テイからはもっともらしい説得の言葉が出てきた。それは私もさっき考えたことである。しかし、それはもう覚悟したことだ。


「あなたみたいに、自分の能力を持った人には関係ないでしょうね」


 私は八つ当たり気味にイヤミを言った。所詮は部外者の人間にはこの街が滅びるかもしれない危機的状況なんて理解できないのだ。嫌になっちゃう。


「僕のは能力でなく技術ですし、関係ないことはないです……」

「そうじゃい。関係ないことないんじゃい」

ドクロの首飾りが喋った。テイが話している最中に、テイが首に飾っているドクロが喋った……ドクロが喋った!?

「どどど、ドクロが喋った!?」


 ドクロが喋った。


「兄さん。人前で喋ったらダメですよ」


 テイはドクロを手で覆いながら今までにないくらい焦っていた。強敵との戦いで死にかけた時にもないくらい焦っていた。そこには幼さが感じられた。


「兄さん!? これが?」


 どうやら、ドクロがテイの兄らしい。しかし、兄がドクロとはこれ如何に? 私は理解しようと思考を滑らせた。


「ちなみにあっしは、能力者になれず死ぬこともできない成れの果てじゃい」

「あーもう、情報量が多すぎるわよ!」


 頭の中で思考がスリップした。



「――つまり、お兄さんは能力者になれなかった成れの果てであり、2人はお兄さんを元に戻す方法を探す旅をしており、テイは努力によって能力とは違う技術を得た、と。そして、私がお兄さんのような成れの果てになることは断固阻止であり、テイのように自分の努力で何かをしろ、と。そういうことね?」


 私はテイとその兄から事情を聞いた。それに対して自分なりに理解したことを確認した。自分でもどこまでが正しいのか不安だった。


「そうです。まぁ、元に戻す方法には生きた人間が必要なのかもしれませんし、あのアジトにあった機械が関係しているのかもしれませんが、それはまだわかりません」


 テイから正解の言葉を頂いた。自分のなかでは突拍子のないことで雲をつかむような実感のないことだが、おそらく正しいのだろう。テイたちには私にはわからない苦労があるということだ。


「うーん。でも能力者にならないとなぁ」


 たしかにテイたちの言いたいことはわかるし、ドクロにはなりたくないし、そもそも死にたくもない。しかし、そうは言ってもだ。この街を解決する代案がない。


「そもそも、能力者だって成れの果てと同じなんです。人間じゃないんです」


 テイは追加して述べる。能力者になること自体がよくないと述べるようだ。ドクロや死体にならなければ大丈夫だと思っていた私には少し戸惑う案件だ。


「そうなの?」


 私は聞くことにした。それが何かの解決策になる可能性があったからだ。テイは私が会話に食いついたことに嬉しかったのか、声が明るくなる。


「そうです。成れの果てにも3種類あります。一つ目は人間とほぼ同じ姿で特殊能力が使える能力者、二つ目は人間あらざる姿で特殊能力も使えない成れの果て、三つ目は死体です。能力者と死体以外のことを便宜上は成れの果てと言います」


 学校の授業みたいだった。または、博物館の学芸員の説明か。興味あることとは少しズレた情報が私の耳へとベルトコンベアのように流れてきた。


「――ということは、あの能力者たちも人間ではないということ?」


 私は解決策とは関係ないから興味がないが、形式上聞いた。テイはもしかしたら私が考え直しそうだと思って、一生懸命に話しているのかもしれない。でも、もしかしたら、彼ほどの実力者なら私が気がないことに気づいて知らないふりをしているのかもしれない。


「そうなります。知らない者や気にしない者もいますけどね。でも、恵まれている能力者になっても、それが嫌で苦しむ人もいます……」


 いろいろ言ってくれるのはありがたいが、そろそろ話を切り上げたい。退屈に話半分にテイを眺めていたら、その戦闘で多少はだけている黒いピチピチの服が気になり始めた。前から気になっていたが、改めて気になりはじめたらテイの話が頭に入ってこない。


「――真面目な話をしてくれるのはありがたいんだけど……服装が気になって話が頭に入ってこないわ」

「どうしてです? かっこいいでしょ?」


 テイは驚いて自分の服を見下ろしていた。話を聞いていないことか、服装のことか、どちらに驚いていたのだろうか? 私は少し笑った。


「美的感覚が成れの果てね」


 自然と出た言葉だが偶然にも、成れの果て、という言葉がリンクした。だからどうだというような出来事だが、笑いのツボにはまったらしい。私は人知れず腹筋が割れそうだった。


「――ともかく、能力者になるのはやめたほうがいいです」


 テイは仕切り直すように言った。少し恥ずかしそうに頬を染めながらも体面を取り繕う努力が見えた。その努力に報いるためにも、解決策にならない興味ない話から解放されるためにも、私は口だけでも同意することにした。


「わかったわ。あなたがそこまで言うのなら……」


 私は明るく演じた顔で途方に暮れる。

 少年は何かを察したような暗い顔を我慢して町を去る。

 少年は明るい光の先進み、私は暗い影の中に残った。


「さて、面倒くさい奴いなくなったし、能力者になろうかなぁ」


 私はアジトに踵を返した。


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