第4話1-3:どうして私も一緒なのよ
炎の能力者のアジト。炎のような形と色で作られた悪趣味な外観だ。その印象は、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いから来ているのかもしれない。
「――どうして私も一緒なのよ」
私は、赤い内装に目を散らしていた。このアジトに入るのは初めてだから、新鮮さや不安や身長深さで身の心も砕けそうだ。そんな私の気も知らずに、横の少年は私同様に暴れられないように縄で縛られているのに能天気だった。
「いいじゃないですか。そうしないとひどい目にあうらしいですよ」
私は少年と一緒に敵のアジトで取調べを受けていた。赤く塗装されたイスに各々が座っていると、同じく赤く塗装された机の向こう側にトサカみたいな男が笑顔で腰掛けている。部屋の周りには部下らしき赤毛のものたちが背筋を伸ばして立っていた。
「ひひひ、それでお前の名前は何ていうんだ?」
トサカみたいな男は少年だけを見ていた。私のことなんか眼中にないのだ。被害にあいそうにないことは嬉しのだが、少し寂しい。
「僕はテイといいます」
テイは面接にした就活生みたいに緊張した面持ちだった。こういう場に慣れていないのか、外で戦っていた時の余裕の雰囲気はなかった。幼く感じた。
「テイ、お前の能力は何だ?」
逆に圧迫面接のように凄みを増したのはトサカみたいな男だった。周りの部下たちが威圧を増す働きをしていることも起因している。テイが唾を飲み込む動作が消えた。
「僕の能力……というか技術と自分では言っているのですが、これは分解する技術です。例えば、水を水素と酸素に分けることができます」
テイは水を一瞬で消した。それはマジックのようだった。水が消えたところから風みたいなものを感じたが、水から作られた酸素と水素だろうか?
「ひひひ、けったいな能力だな」
私もそう思った。おそらく、炎を回避したのもこの能力が関係しているのだろう。それがどう関係しているのかを思案しながら、耳の集中は続けた。
「技術です。けったいな能力といったら、君たちの火の能力がそうだと思いますが」
能力ではなく技術であることを強調していた。私には分からないが、テイにしかないこだわりがあるのだろう。トサカみたいな男もピンと来ていない様子だった。
「そうだな。この生まれ持った能力はけったいだ」
大きな声で笑いました。心なしか、テイの発言を理解していないことをごまかしているように見えた。私が理解できていないからそういうふうに見えただけかもしれない。
「僕は生まれ持った能力ではないですよ。修行によって手に入れました」
テイはやはり意識していた。私には理解できないこだわりがあるのだろう。その黒いピチピチの服も何かしらのこだわりなのか?
「ひひひ、それはすごい、勤勉だねー」
トサカみたいな男は肘を机について褒めていた。それには慇懃無礼の印象を思えた。それに対してテイは丁寧語だけど口調は無礼な感じで言葉を発した。
「君たちは勤勉ではないのですか?」
言葉が板についてきたというか自然となっているというか、テイにとって丁寧語は敬いの感情はないのだろう。ただ単にそういう口調というだけだろう。表向きはいい人そうに聞こえるが、他人とそうは変わらないのだろう。
「そりゃーそうだろ? 生まれながらに能力の差があるんだから、努力するだけ無駄さ」
トサカみたいな男は鼻をほじって取れた糞を指ではじいた。その男の言葉は私にとってクソみたいなものだった。内心憤る私の横でテイは静かに息を吐いていた。
「――それで、僕をどうするつもりですか?」
テイは目をまっすぐ向けていた。多少睨んでいるように見えた。しかし、その印象は私が憤りからそう見えただけかもしれない。
「俺たちの仲間になれ。そのためには炎の能力者になれ」
その言葉が今回の肝だろう。私を無視してテイに言っているその言葉で私は仲間ハズレの悲しさを感じた。怒りと悲しみが混じって、睨みつけたのは私だろう。
「生まれ持ったものですよね、その能力って」
テイは冷静に聞いた。その目は相変わらずまっすぐトサカみたいな男に向けられていた。興味があるのだろう。
「だから生まれ変わるんだ」
トサカみたいな男は鼻息荒くしていた。鼻くそが飛んできて私はしかめっ面を思わずした。その鼻くそを気にしているのかしていないのか、テイは聞く。
「どうするんですか?」
トサカみたいな男は周りの部下たちに目で合図した。部下たちは動き始め、どこからか映写機を持ってきた。そして、即興で用意した白い布の上に映写機の光を当てた。
映像が流れた。
映像で機械に人を入れて実験する様子を見せられた。
失敗してドロドロに液状化したものを見て、私は吐いた。
「失敗したら死ぬが成功すればいいだけだ」
暗くなっていた部屋の明かりはつき、電源を切られた映写機がどこかに撤去された。そのついでに、私のゲロも撤去してもらった。憎き敵に対して、初めて申し訳ない気持ちになった。
「どういう仕組みですか?」
私のゲロ騒動を気にも止めず、テイはトサカみたいな男に質問した。私はゲロを吐いていることを見られることは乙女として嫌だが、全く興味を持たれていないことも嫌だった。どちらに転んでも傷つく。
「機械の中に水を入れて圧縮するんだ。能力者は水圧による人間の成れの果てだ」
説明するトサカみたいな男。聞くだけで吐きそうになる内容だった。テイをチラっと見たが、眉一つ動かさない。
「元に戻す方法は?」
テイは冷たい口調だった。それに対してトサカみたいな男も暖かい態度だった。普通なら言い方を注意しそうだが、是非とも仲間にしたいのだろう。
「そんなのは知らん。いらない部下で何回も実験したが成功したことない」
その実験の映像も見せてくれた。わざわざ撤去した映写機を再び用意するやさしさ。テイは微動だにせず、石のようにじっとしていた。
「なるほど、わかりました」
テイは何かを納得したらしい。トサカみたいな男は、仲間に招きいれることに成功したという態度で、握手のために手を差し伸べた。私は状況がよくならないと思い、ため息が強く出た。
「わかったか。それでは……」
テイは差し伸べられた手をはじいた。火花が散ったように見えた。それは私の心象から見えた幻だった。
「このアジトには欲しい情報がなかったです」
少年は縄を外し、周りの部下を倒しました。例の技術でしょう。仲間にはならないという答えを行動で答えたのだ。
「……なにをっ!?」
トサカみたいな男は体中から炎を太陽のように出した。その顔はマグマのように怒りで激っていた。灼熱地獄のような熱さが部屋を覆った。
「用済みだから内部からアジトを崩壊させます」
テイが軽く振った手の先で、吹き飛ばされたトサカみたいな男が壁にのめり込んでいた。幹部を簡単に倒したのだ。部屋には焦げ臭さが残っていた。
「……すごい」
私はその言葉が出た。それ以外に何も出てこなかった。敵を倒した爽快感やテイが味方である連帯感や自分が助かった安堵感などが色々と巻き起こったが、言葉として外に出てきたのはそれだけだった。
「――たいしたことなかったな」
テイは強がりではなく本当に大したことなさそうに呟いた。もうすでに先ほど倒した男に何一つ興味なさげだった。そんなテイに対して、私はあることを思い出した。
「あなた、勝てない、って言ってなかった?」
そうである。この少年はトサカみたいな男と対峙したときに、勝てない、と言ったのである。テイはその質問に対して思い口をおもむろに開いた。
「嘘ですよ。侵入して情報が欲しかっただけですよ」
軽い口調だった。悪びれるわけもなく、稀代の大嘘つきに出会ったかのような印象を持ったが、おそらく他人から見たらそこまでではないのだろう。私は冬の闇夜にいた時に目の前が明るくなったような感じでいた。
「あなた、たくましいのね……」
私は思わず笑みをこぼした。いろいろあったけど、テイが私の希望である。この少年がいたら私は、この街は変われるのかもしれない!
「危ない!」
テイに抱き抱えられて倒れる私の後ろから炎が通り過ぎました。テイの言葉が炎や倒れる音で掻き消えた。炎も壁に当たり、変な液体を残して掻き消えた。
「きゃっ!」
私は可愛らしい声が出た。自分でも恥ずかしいくらい可愛い声だった。しかし、そんなことは今は関係ない。
「誰だ!?」
そうだ、誰だ? 私たちは炎が飛んできた方向を見た。そこには炎の円で切り抜かれた壁越しに赤髪の細長い若者が出てくる。
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