第3話1-2:サヨナラにしましょ

「――ありがとうございます」


 私は服を着た。少しホコリと砂をかぶってシワになっていた。手で払っても払っても肌に気持ち悪い粒触りが感じた。


「でも、お礼はいらないですよ」

 少年は冷めた態度で去っていこうとした。私は火照った体でそれを見送るのみだ。変に執拗な態度でいることは良くないと思った。



 そこに、でかい男が来ました。赤い髪をニワトリのトサカのように逆立てていた。筋骨隆々のプロレスラーみたいだった。


「てめーら、俺の部下になにしてくれている?」


 トサカのような男は、少年に顔を近づけてガン飛ばした。少年は怯えるのかと思ったら、顔色一つ変えずに見つめ返していた。少年を見ている私が肝を冷やして顔をグチャグチャにしていた。


「君たちが悪いことをしているからでしょ?」


 少年は指導員のように注意した。トサカのような男は眉間にビキビキと血管を浮かせた。ここまで怒るというものをわかりやすく見たのは初めてだ。


「うるせぇ!」


 トサカのような男は火を吐いた。先ほどのリーゼントの男の本気の炎が子供の火遊びであるかのような規模の大きさだった。1階の規模から2階の規模になった。


「――さっきのやつと桁が違いますね」


 炎を同じ要領でかわした少年だが、さすがに驚いた顔だった。初めて花火を見るような表情だった。恐怖ではなく、余裕のあるところに、底の知れなさを感じた。


「ひひひ、参ったか」


 トサカみたいな男はリーゼントの男と同じように不快な笑い方だった。比べると声が気持ち半分低かったが、誤差の範囲だ。口もとは熱による蜃気楼で歪んで見えた。


「参ったとは言っていません」


 事実なのだが、反感しているように聞こえた。事実は時に残酷だというが、攻撃した方からしたら攻撃が効かないような残酷な言葉だろう。トサカのような男も怒りを見せるのだろう。


「お前はなかなか骨がありそうだ。仲間にならないか?」


 トサカみたいな男は笑って勧誘していた。私の予想は外れた。なるほど、さっきの男よりは度量が広いのだろう。


「なにを言っているのですか? 嫌に決まっているでしょ?」


 少年は差し伸べられた手を払い除けた。私が思うに、今度こそトサカみたいな男は怒るだろう。しかし、そんなことはなかった。


「ひひひ、悪い話じゃないはずだ。この街を自由にできる。ただ、無理やり炎の能力者になってもらうがな」


 トサカみたいな男は少年を気に入ったのか、未だに笑っていた。無理やり炎の能力者にしてまで仲間にするつもりだ……あれ?


「能力者になってもらう?」


 少年は私が疑問に思ったことと同じことを声に出した。私も初めて聞いたのが、炎の能力者をつくることができるのか? それが本当なら、炎の能力者に虐げられている私はその能力者になって、嫌な生活から解放されたいものだ。


「そうだ。俺たちは能力者を作るシステムを知っている。しかし、そのためにはある程度の力の持ち主である必要がある。お前はその力がある。どうだ?」


 トサカみたいな男は再度手を差し伸べた。私が少年の立場なら、手を取るところだ。しかし、既に何かしらのすごい力をもっている少年は手を取らないだろうと、私の予想。


「仲間になります」


 少年は手を取った。私の予想は再び外れた。トサカみたいな男は笑う。


「……ひひひ、聞き分けのいいやつだ」


 2人はしっかりと手を握った。それにしても、先程まで抵抗していた少年が急に抵抗しなくなったのは疑問だ。私とは立場が違うのに……


「ちょっと、あなた、何言っているのよ?」


 私は理解できない。そして、やめてほしい。この人まで炎の能力者になってこの街を支配する立場になったら、私たちは余計に苦しくなる。


「だって、あの炎見ましたか? さすがにあれには勝てませんよ」


 少年はあっけらかんと言う。そうは言うけど私にはそうは見えない。結構余裕が有るように見えたが、外から見えるのと本人とでは違うのだろうか?


「だからといって、あいつらは悪者なのよ」


 私は情に訴えることにした。先程はそれでリーゼントの男を撃退する方向に持っていけた。私はその時を思い出して、か弱い困った乙女を演じた。


「そんなの知らないですよ。僕、この街の人間じゃないし」


 全く効果が無かった。そして私が思い出したことに、リーゼントの男を退治したときの少年は、攻撃に対して反撃しただけで、私の訴えは関係なかった。私は自分の勘違いの恥ずかしさで背中が痒くなり身震いして肩を上げ、その恥ずかしさを誤魔化したい気持ちも相まって、強く当たることにした。


「……あーそうですか! わかりました! あなたに頼ろうとした私が間違ってました! もうこれでサヨナラにしましょ!」


 私は呆れと憤怒の感情も入り混ぜながら、半分演技をしながら少年から去りました。


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