第23話4-2

3つ目の葉に到着しました。

そこは滅びた街が広がっていました。

廃墟が並び、隙間を草で覆われていました。水路は乾いており、ホコリが歩くたびに舞い上がります。人が暮らした痕跡は遥か昔に置いてきたようです。

地面からは常に軋む音を出し、船のように揺れていました。その度に地面の柔い部分がヒビを入れていきます。街というより、葉自体が枯れている様子でした。

「ここも、地下に人がいるのか?」

「さぁね。可能性はあるわね。足元には気をつけてね」

 足元が崩れていきました。ジュンは落ちた地面から足を上げて悲鳴をあげます。

「わっ、ホントだ! また地下に落ちるところだった」

「違うわ。そういう問題じゃないわ」

 崩れた足元はそのまま葉の一番下まで亀裂が伸び、その部分の葉自体が落ちていきました。建物が砂埃とともに小さくなっていきます。それを見送るジュンは縮こまっていました。

「前の街とはスケールが違う……」

「助かったわね。地下に落ちるどころか、大樹から落ちて死ぬところだったわよ。まぁ、共鳴の力を使えばなんとかなるかもしれないけど」

「脅すのはやめてくれよ。本当にビビっているんだから」

 ジュンは手を挙げこわばった顔で震えていました。そんなこと気にせずダインはそそくさと街の奥に進みます。地面は未だに震えています。

「さて、本当はこんな危ないところはさっさとおさらばしたいんだけど、大樹の探求のために調べないと」

 その言葉に、ジュンはいつかの登樹時の会話を思い出しました。別のことを考えると恐怖が和らぐことが起きていました。

「そういえば、ダインは大樹について調べることが目的だったんだな」

「そうよ。だから、多少危険でも少しは滞在して探索しないとね。危ないからジュンはついてこなくてもいいわよ」

「――ここまで来たら、危なくてもついていくさ(また悪い奴に襲われたら怖いから、ダインと一緒にいるほうが安全だ)」

 ジュンは本音と建前を使い分けました。

「――別にいいけど、また襲われても助けるかわからないわよ」

 ダインにバレバレでした。

「(バレてた!?)――ところで、どう調べるんだ? 人とかいないだろ?」

 笑顔でバレないように取り繕うジュンに対して、ダインは笑顔もなくバレたくないこともなく取り繕うこともなくいました。

「そういう時は、文字が残っていたらいいんだけど」

「文字って言っても、知らない文字だったらどうするんだ?」

「問題ないわよ。そのための共鳴の能力よ」

 ダインは探し物に目を光らせながら言葉に心を込めていませんでした。ジュンが今思うに、ダインが周りに興味ないことや感情が乏しい理由は、大樹の真理以外に興味がないことから起因しているのです。大樹の謎を解けていないダインと違い、ジュンは1つの謎を解けましたが、また別の謎に頭を悩ませています。

「この能力が? どうやって?」

「なにもこの共鳴の能力は大樹を登ったり戦闘で武器にしたりするだけじゃないわ。調べ物をするときにも使えるわよ」

「水と共鳴することが?」

「1つ言っておくけど、水との共鳴は色々ある共鳴の1種類でしかないのよ。私の教えてもらったところでは水が基本だったけれど、他が基本のところもあるらしいわ」

 ダインは街を右に左に目を散らします。その説明にジュンは頷きながら理解する振りをしますが、思考は追いついていません。

「そうなのか。なんか、すげぇな! それで?」

「そもそも共鳴というのは、相手と同じ感覚や考え方になることよ。だから、文字というか、思い入れが強い者と共鳴することによって、それを書いたり作ったりしたものと同じ感覚や考えを共有できるのよ。私がするのはそれよ」

「でも、水無しでできるのか? お前が習ったのは水の共鳴なんだろ?」

「簡単よ。水を使うのよ」

「?」

「見せるわ。このお店のメニューらしきものがあるでしょ?」

 ダインは立ち止まると、遺跡のものに地面から吸い出した水をかけました。そして、濡れた遺跡に手をかざしました。傍から見たら遺跡を破壊工作しているように見えます。

 ……

 少しの沈黙をダインは破りました。

「――グァンダという料理があって、それは穀物を練り物にして焼く食べ物らしいが、ここの店主は火が苦手だから作りたくなかったらしいわ」

「すっげー。本当か、それ?」

 ジュンは関心半分疑問半分でした。手をかざすのをやめたダインは疑われていることを理解しました。理解されないのも仕方がないと関心なさそうでした。

「あなたがこの能力を使えたら本当かどうかわかるけど、今のあなたには無理だと思うわ」

「やってみないとわからないだろ」

 ジュンはダインと入れ替わるように遺跡の前に立ちます。そのまま意気揚々と手をかざしました。傍から見たらダインと同じことができるように見えます。

 ……

 少しの沈黙をジュンは破ります。

「――なるほど」

「どう? わかった?」

「わからないや」

「でしょうね。急ぐわよ」

 ダインは関心も疑問も全くありませんでした。手をかざすのをやめたジュンは疑われていないことを理解し、仕方ないと思いました。

 その時、葉が割れる音がしました。事実、葉の一部が再び崩れ落ちました。巨大な葉が少しずつ小さくなっていきます。

「本当に急いだほうがいいぞ、これは!」

「まだ大丈夫よ。私は先に進むけど、嫌なら1人で戻ってね」

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