第21話3-6
上の階に着くと、異変が起きていました。
捕まっていた人たちが捕まえていた人たちを逆に捕まえて、立場が変わっていたのです。どうやら共鳴の能力で縄を解いたらしいです。
ジュンたちも捕まりかけましたが、下から隠れてついて来た者たちが説明して、色々あって敵ではなくなったということで助かりました。ジュンは下からつけられていることに気づかず驚きましたが、ダインは気づいていたらしく驚きがありませんでした。
そして、どうして立場が逆転したかの説明として、上の階にいた人たちが増援に来てくれたというものがありました。あの一番苦戦したもの以外にも強者がいたらしいです。
なにはともあれ、地下2階のこの街では革命が起きて、地下3階の人たちが新たに主導権を取ることになるでしょう。そこから先は2人は関与しないことにしました。
地上に出た2人。
地上は相変わらず白黒の景色が砂漠のように果てしなく続いており、松明もなく寒さと闇が支配していました。寒くてガクガクと震えている青いジュンと涼しい顔で温まっている赤いダインが色を増やしました。2人が来た時と変わらぬ世界でした。
「僕が手を下すまでもなかったか。まぁ、ダインが言ったとおり関わらずに済んで良かった。そうだろ、ダイン?」
「そうね、関わる事無く終わったわね。しかも、結果としたら私たちの関わりも影響なかったことになるしね」
ダインの意味深な言い方にジュンは眉をひそめました。少しでも顔面を動かすと凍った顔の皮膚が痛くなります。痛みで少し涙目になります。
「どういうこと?」
「私たちが関与したのは地下2階の人たちに有利なことでしょ? 私たちが関与して変わるとしたら、その人たちが勝つことよ。でも、あの人たちが負けたということは、私たちの関与が関係なかったってことよ」
「なるほど。たしかにそうだ」
「前の街であなたがしでかしたことに比べたら、許容範囲ね。少し被害になった人たちがいて可愛そうだけど、大勢からしたら微々たるものよ」
「よかった。それにしても、あいつら酷い奴らだな。迫害なんかしやがって。僕たちを騙しやがるし、とことん酷いやつらだ」
静かに歩きました。ジュンは声を出すたびに顔が痛くなり肺も痛く感じましたので、静かにならざるを得ませんでした。ダインは例の共鳴の能力のおかげでそういう苦痛はありませんでしたが、元々無口な性分でしたので問題ありませんでした。
……
その静かな世界で、ダインが開口しました。
「ねぇ、覚えている? 地下1階で戦った人のこと?」
ジュンは向こうから話しかけてくることを意外に思い、なにか重大なことだと予測して身構えました。肺を痛めました。
「覚えているよ。地上に応援を探していた人でしょ?」
「どうして地下2階に手伝いに行かなかったのかしら?」
「それは、勝っていたからじゃないか? 僕たちが関与しなかったら勝っていただろうし。それに、応援を探していたとか……かな?」
ジュンは呑気に推測していました。ダインは別の質問。
「ところで、地上に応援を探す人がどうして人殺ししていたのかしら? どうして追い剥ぎしていたのかしら? どうして私たちをいきなり襲ってきたのかしら?」
「さぁ? 生き残るため仕方が無かったとか? 敵かもしれないし」
「でも、私たちは地上から落ちてきたのよ。向こうからしたら伝説の英雄の関係者かも知れないわよ」
「たしかにそうだな。僕たちが怪しかったのかな?」
ジュンは自分の推測を次々と披露していき、次々と自分でも変なことを言っている感覚になりました。ダインは次の質問。
「ほかにも、地下2階の戦士たちは本当に革命を起こそうとしたのか?」
「どういうこと?」
「避難民はどうして地下1階に避難していなかったのよ? どうして地下3階に近い危ないところにいたのよ? 普通は距離を取るはずよ?」
「それはあれじゃないか? 地表は危ないからでは? 下のほうが安全と考えたのでは?」
「それで言ったら、どうして迫害していた人たちは地下2階で迫害されていた人たちは地下3階なんだ? 地表が危ないのなら、地下深いところの安全なら、逆でしょ?」
ジュンは推測をする頭がなくなってきました。黒と白の風景で視覚をおかしくされ、ダインの説明で聴覚をおかしくされ、寒さでほかの感覚もおかしくされた気分です。暴れん坊が残した水の波紋のようにグチャグチャしたものが頭をかき乱していました。
「たしかにそうだけど」
「地上に伝説の英雄がいるなんて、本当かしら? あの地下3階にいた人たちの話はどこまで正しいのかしら? どっちの言っていることが正しいのかしら?」
「ちょっと、ダイン、何を言いたいんだ?」
ジュンの言葉をダインは待ちませんでした。
「もし地下3階の人たちの言っていることが嘘なら?」
凍てつく風が地面を殴り、ジュンたちに砂を投げつけました。2人を迫害して追い出そうとする権力者のように冷たい風の仕打ちでした。
「――迫害をしていたのは地下3階の人たちの方で、地下2階の人たちは被害者であり、抵抗して革命をしようとしていたということか?」
「……あくまでも地下3階の人たちが嘘をついていた場合の話よ、仮定の話。本当の可能性もあるわ。ただ、今の私たちにはどっちが正しいか知る術がないわ。もしかしたらどっちも嘘をついているかもしれないし、とても仲良しかも知れないわ」
「僕、確かめてくる」
ジュンは元気なく踵を返そうとしますが……
「やめなさい。どっちについても泥沼よ。あなたなんかに責任なんかとれないでしょ? それにあなたの目的はあそこにはないわ。仮になにかあなたにとって利益になるものがあるのなら行くメリットもあると思うけど、ないでしょ? だったら深く関わらないことね。ろくなことないわよ、わかった?」
ダインはいつもどおりの元気のなさで諦めさせるように言いました。
「――わかったよ」
ジュンはやるせない気持ちになりました。
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