第20話3-5

下の階に着きました。

 着くやいなや下の住人たちは有無を言わさず襲ってきました。老若男女問わず様々な人が混ざっていました。ジュンは不意のできごとに驚くがダインは冷静にいます。

「いきなりかよ? なんて野蛮な奴らだ!」

「本当に戦うの? いいのね?」

「何をたじろぐことがあるんだ? ダインらしくない」

「まぁ、やらないと出られないから、仕方ないわね」

 ダインはたじろいていませんでした。しかし、消極的でした。それはジュンからしたらいつもの街に関わりたくないダインなので気にすることではありませんでした。

 戦います。

 相手は刃物や鈍器を使ってきます。


 倒しました。

 生け捕りにしました。

 肩透かしするくらい手応えがありませんでした。

「ここも数は多いけど、たいしたことなかったな」

 ジュンは一仕事終えたように軽やかに手を叩いていました。一方でダインは今から仕事を始めるように重そうに手で前髪をかきあげました。

「そんなことより、訊きたいことがあるわ」

「そういえば、殺さずに生け捕りとは、ダインは心変わりしたのか?」

 ジュンの記憶では、ダインは襲ってきたものは例外なく殺していました。この葉でも、1つ前の葉でも、ジュンの故郷の葉でも。ダインは質問に答えることなく質問をぶつけます。

「すみません、お伺いしたいことがあります」

 ダインは住民たちに伺いました。住民たちは震えで縛られた縄が波打っていました。その中を代表して話す白髪の男の老人は震えを我慢していました。

「命だけはお助けください」

「それはあなたたち次第よ。きちんと質問に答えてね。あなたたちはどうして上の住民を襲ったのですか?」

 ダインは威厳を込めているが威嚇をしていない優しさを含んだ口調でした。老人は威嚇しようにも威厳が全くなく心が折れた口調で返します。

「それは、わしらの命を守るためじゃ。わしらは奴らに迫害されており、いつ滅ぼされてもおかしくない立場じゃ。だから、抵抗として、生き残るために革命として、奴らを倒すしかなかったのじゃ。それが失敗してこんなことになってしまい、残念じゃ。まぁ、こんなことお主らに言ったところで意味はないがな」

「教えてくれてありがとう」

 ダインは感謝しました。目を閉じて頷き納得していました。

「ちょっと待てよ。どういうことだよ? こいつら悪いやつらじゃないのかよ?」

 ジュンは急なことに納得できませんでした。上の階で納得したことが根本から盆を返されたようでした。ダインは冷たく答えます。

「んー、どうなんだろう? それは私が決めるのではなく、あなた自身で決めたほうがいいと思うわ。だから頑張って」

「ちょっと、僕も訊いていいか?」

 ジュンは住人に向かいました。

「何ですかな?わしらで答えられるなら何でも言いますので、命だけはお助けを」

 老人は今だに虐待された犬のように震えていました。先程と違う人物が質問のために出てきたのですから、一難去ってまた一難の心境でした。

「ここにいる人たちは、言ったら悪いが大して強くなかった。それは僕たちを舐めてかかったのか?」

「滅相もございません。ここに残ったものは、老人や女子供ばかりで、弱いものばかりです。強いものや男大人は皆戦いに行きました」

「それは1つ上の階にいた人たちか?」

「あなた様たちがどなたに出会われたかは存じませんが、そのものたちは上の階に行き我々を迫害してきた人たちと戦いに行きました。そのものたちが誰も帰ってきておらずあなた様がたが来られたから、恐らく全滅して迫害に来たと思いましたので、我々は戦わせていただきました」

「それでは、さらに上の階にいた一番強かったものは誰だったんだ? 上の階の住人ではなかったようだが……」

「実際に見ていないからわかりませぬが、上のものたちの仲間でないのなら我々の仲間だったのかもしれません。もしかしたら、地上の世界に増援を呼びに行くところだったのかもしれません。我々の中の伝説として、地上に我々の英雄がいるというものがあります。その伝説を信じていたのかもしれません」

 ジュンは矢継ぎ早に訊いていきました。応戦するかのように矢継ぎ早に返答が来ました。思っていたことと反対のことが知識として降ってきたので頭を痛めました。

「そういえば地上で人の死体があったが、あれは?」

「それも実際に見ていないからわかりかねます。しかし、もしかしたら、我々の英雄かもしれません」

「……それはさすがに違うと思うが」

 ジュンは痛めた頭で熟考した結果、そこまでは信じられませんでした。といっても、住民たちも可能性の1つとして語っているだけですので、その内容を正しくなかっても嘘をついたことにはなりません。

「ええ、違う可能性はあります。しかし、確実なのは、我々は上の住人に下へ追いやられた者たちだということです。それだけは信じてください」

「わかった。信じよう」

「ありがとうございます」

 ジュンたちはその住人たちを解放しました。


 ジュンとダインは上の階に向かいました。

 階段は来た時と同じく明るくて怖いくらい見えていました。しかし、ジュンの気持ちは前より暗くて何も見えていなかったことを悔やんでいる風でした。鼻息荒く足音は乱暴で土を蹴り砕こうとする勢いでした。

「ジュン、何か息巻いているけど、変なこと考えていない?」

 ジュンはダインの声に振り向いて見下ろしていました。その顔は唇を噛んで怒っていました。

「変なことって、何だよ?」

「上の住人に仕返しをする……とか?」

「よくわかったな。そのつもりだ」

 そう言い暑い頭で再び上がっていこうかとするジュンに、ダインは首に冷水を垂らすかのように言葉を投げかけました。

「あのね、再三言っているけど、あまり関わったらダメよ」

「でも、あいつらは僕たちに嘘をついて利用したんだぞ。しかも悪いことしているんだぞ。僕たちで成敗しないと」

「そう思うのは勝手だけど、もっとよく考えてから行動したほうがいいわ」

 ジュンはダインの言葉かけも虚しく、頭を冷やすことなく階段を駆け登っていきました。ダインはきかん坊の相手に虚しくなることもなく、理解されないことはいつもどおりだと達観していました。2人は会話なく神妙な面持ちで登って行きます。

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