第7話1-6
3日過ぎて6日目の朝
「え? え! え!? み、み、み、3日!?」
「そうよ。ぐっすりスヤスヤ3日間。テコでも動かなかったわ」
「そうか。何をしても動かなかったのか」
「私は何もしなかったけどね」
ダインは素知らぬ顔で読書していました。ジュンは何とも言えないことに苦笑いしました。それよりも、残り期間を気にします。
「ちょっと待てよ。あと何日だ? もう終わっているのか? でも、それならダインはいないはず。でも、修行失格を伝えるために残っていただけでは? それとも……」
「明日までよ、修行期間は」
取り乱しているジュンにダインは残り日数を機械的に伝えました。本をパタンと閉じたダインはジュンの悔やんでいる様子を見るのみでした。それはとても人間的な感情を吐露した姿でした。
「くっそ、貧血なんて情けない」
「情けないわね」
「このままじゃ、期限に間に合わない」
「間に合わないわね」
「登樹するなんて、バカなことだったのか」
「バカなことだったのね」
「……ダインはひどいやつだ」
「あなたよりマシよ」
沈黙になりました。ジュンは自分に復唱してくるダインが気になって、思っていない言葉をなんとなく発しましたが、それは復唱されませんでした。復唱ではなく彼女の本音だったのでしょう。
「……それにしても貧血なんて初めてだぞ」
「そりゃあ、あんなに血を出したら貧血の1つにもなるわよ。そんなこと、前の修行の時に気づくでしょ?」
「気づかないよ! というか、それどころじゃなかったし! というか、その時に気づいていたのなら言ってくれよ」
「というか、言ったところで意味ないわ。どうせ私が言ったところで聞かないでしょ、あなたの気質では? それに修行が間に合うことなく終わるだけよ。それなら前に進む可能性があるほうがいいでしょ? 貧血になったとしても」
ジュンは何も言い返せませんでした。学校の先生も親も言うことを聞かなかった上に、既に何回かダインの言うことを聞かなかったことを思い出しました。ジュンは体だけではなく精神までも疲れました。
「……それはそうだが」
「今日は血の出しすぎに気をつけて木登りするのよ」
ジュンの心身ともの疲れを意に返さずに、ダインはいつもどおり手を叩いて修行を促進しました。そのいつも通りの言動は安心感がありました。そのおかげでジュンは平静になり、いつもの調子に戻りました。
「ところで、これは何の修行なんだ?」
「登樹の修行よ。登るつもりでしょ?」
元もこうもない返事でした。ジュンは自分の言葉足らずのせいなのかダインの天然のせいなのか、頭の中で理由を追求しました。即で天然のせいだと結論づけました。
「そうだけど、気をつけるところがわかったほうが分かりやすいなーと」
「だったら言うけど、これは総合的に水の共鳴を鍛える修行よ。共鳴の力を強めるもよし、省エネで使えるように器用になるのもよし、木登りできるくらい鍛えられたらなんでもよしなのよ。だから、前の修行みたいに好きな鍛え方をしていいわよ」
「そんなこといわれても難しい。すぐにまた貧血で倒れてしまう」
実際、自由に好きなようにすることは大変難しいことです。一流のごく1部の人はそれでも大丈夫かもしれませんが、ほとんどの凡人は敷かれたレールの上でいることが良いというのが一般的です。ジュンは自由に生きたい気質ですが、才能が伴っているとは限らないのです。
「だったら普通に考えると、血の量を増やすか使う量を減らすしかないわね」
「使う血の量を減らすのは技術の問題として、血の量を増やすのはどうしたらいいんだ?」
「たくさん食べるとか?」
「何の解決にもなっていないと思うけど……」
たくさん食べてたくさん運動してたくさん寝ることが大切と言いますが、今更それを言われても困ります。互いに解決策が思いつかなくて、静かに見つめ合います。そのうち、背景の木に目を吸い込まれていきました。
「そうね、あとは自分で考えてね」
「うーん。どうしたらいいんだろう。うーん、考えても何も思いつかないし、言われたことをするか。とりあえず。少し血で登れるようにしよう」
ジュンは少しの血を出しましたが、全く登れませんでした。質も量も全く足りません。ため息すら出ません
「ウンともスンとも言わない」
「それはそうでしょ。自分の体が何キロあると思っているのよ。前の就業でのコップとは比べ物にならないわよ」
「このままチマチマやってられるか」
大量の血を出したジュンは再び意識を失いました。
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