第18話3-3
――同じ穴の狢というわけではありませんが、類は友を呼ぶというわけではありませんが、ジュンとダインは同じ穴に落ちていました。奈落というわけがはなく、意外とすぐ着地できました。着地成功したダインの横でジュンは頭を打っていました。
地下に空洞がありました。真っ暗ではなく、所々に松明がかかってました。何かしら人が通る道なのでしょう。
そこでは、人が人を殺しているところでした。大の字で血の湖に浮かんでいる人は静かに痙攣していました。その前では、洞窟の壁と同じ茶色の禿げた男がこちらに目を光らせました。
「あれは、人殺し?」
「ジュン、できる限り関わったらダメよ」
「……はい」
2人は目を逸らさず後ずさりしました。できる限り関わる気はありませんよと祈りながら、怯えることもなく威嚇することもなく苦心しながら距離を取るのです。人殺しの足元で痙攣していた人は動きを止めて静かになりました。
人殺しは死体を漁っていました。追い剥ぎなのでしょうか、何か金目の物を探している様子でした。2人は自分たちに興味なくいてくれたらと期待しています。
と、襲ってきました。
「いきなりかよ? 話さえさせてくれないのか?」
「興奮しているのか見境がないのか、困ったわね」
2人は急いで後ずさりしました。それでも相手は早く追いかけてきます。距離は広がることがありません。
「襲われた場合は? どうだったっけ? ダイン?」
「なぜ嬉しそうなのよ? 襲われた場合は相手にしていいわよ」
「よしきた」
ジュンは嬉しそうに臨戦態勢に入りました。彼の中には正義心というものがあり、弱き人をいじめるものは嫌っているのです。ましてや人殺しはもってのほかです。
故郷にいた時も学校のイジメとかは嫌いでした。時にはそれをやめさせようと喧嘩したこともありました。しかし、途中で新たないじめの連鎖――いじめっ子が新たないじめの対象を見つけるか、いじめっ子が新たにいじめられっ子になるか――が起こるだけだと理解して、無情な世の中を諦めることにしました。
世の中は無情だと理解しましたが、それは自分がいる狭い世界だけの話だと希望を持ち、外に出ることを渇望したのです。しかし、外の世界も変わらぬ無情であることを目の当たりして、ともに旅をしているものに説法も解かれ、再び理解をしました。しかし、心の底では納得しておらず、青い理想に燃えるのです。
それでも力がなかったらさすがに耐え忍ぶのですが、今は共鳴の力を持っています。理想をのたまう口だけではなく、実行する力も持っています。あとは、行動で青臭い理想を証明するだけです。
「うるぁああー!」
ジュンは血のハーケンを飛ばします。人殺しはそれを難なく避けます。そのまま猪のごとく勢いよく突っ込んできます。
人殺しの背後に飛んでいった血のハーケンは血のロープに掴まれて、そのまま人殺しに方向転換して後ろから襲います。それは人殺しに直撃しました。
が、人殺しの体はひび割れていきます。人の体が人形のようにひび割れた姿は驚きに値しました。ジュンは少し怯みました。
「どぁああーー!」
人殺しは勢いに乗せて刀を振り下ろしました。ジュンは怯みながらも間一髪で見切りました。しかし、刀は伸びてきました。
ジュンの胴体が切られました。しかし、表面を切られただけなので、大事にはいたりませんでした。それでも慣れていないものには痛いものです。
「なっ!? どういうことだ?」
困惑して胸元を手で守るジュンに向かって、人殺しは追撃をかけてきました。ジュンは今度は大きく避けましたが、それでも刀が当たります。そのときははっきり見えたのは、刀が明らかに伸びたことと、人殺しのひび割れた先に別の人肌が見えたことです。
「――何かしらの能力者か?」
「教えて欲しい?」
汗を流しながら息を上げているジュンに対して、ダインは偉そうな態度を向けました。どうやら人殺しの能力がわかったらしく、さすがは師匠といったところです。その態度に頼るのは癪に障るのですが、背に腹は変えられないのです。
「教えてくれ!」
「あれは土を操っているのよ」
「土!? って、あの土か?」
「その土以外、何があるのよ?」
苛立ちをグッと喉の下に押し込んで有益な情報を得ようと話を続けます。
「どこがどういうふうに土の能力なんだ?」
「まず、あなたの血のハーケンが当たってもダメージがなかったでしょ? それでヒビが入って、中から人肌が見えるでしょ? 土を体に纏って鎧にしているのよ」
「刀の方はどう説明するんだ?」
「刀も土を纏わせており、土の伸縮で伸びているふうに見えるだけよ。その証拠として、あなたは切られた割には傷が深くないわ。切れ味が鋭い刀だったら真っ二つになっていても不思議ではないわよ」
そこまで聞いて、ジュンは根本的なある疑問を頭に浮かべました。
「というか、土の能力とかいうけど、それはいったい何の能力なんだ? 共鳴の能力とは違うものなのか?」
「いいえ、共鳴の能力よ。それ以外の能力なら、私の見当違いになるわ」
「でも、あいつ、水なんかどこにあるんだ?」
「土よ。水を含んだ土を使っているのよ。あなたにおける血みたいなものね」
「……便利な能力だな、共鳴って」
ジュンは「まいったな」と降参したい気持ちで半笑いしてしまいました。本当に困ったときは自己防衛で笑ってしまうことがあるのです。向こうからはお構いなしに突っ込んできます。
「――のやろう!」
ジュンは刀を高枝枝バサミで受け止めました。そして、そのまま刀を横下に流して地面に押さえ込み、人殺しに血のハーケンを打ち込みました。表面の土がひび割れていきました。
人殺しはそれでも突っ込んできます。後ろに引いたら余計に打ち込まれると判断し、多少のダメージ覚悟で短期決戦に持っていく計算でしょう。忍ばしていた小刀を光らせてきました。
「ぐぎぎっ!」
ジュンは血のハーケンを自分と小刀との間に挟みました。粉みじん砕けましたが致命傷から守ってくれました。そのまま反動で後ろに倒れます。
ジュンはすぐに立ち上がり、無意識にしっかり持っていた高枝枝バサミで威嚇しました。刀と違いリーチが長いので、伸びる武器への抵抗に思ったより役立ちました。血のハーケンと違い頑丈なところも利点でした。
仕切りなおして再び戦います。人殺しは狂ったように笑いながら戦っていました。それに対してジュンは戦い初めの笑顔が既になく、苦心の顔でした。
人殺し壁や天井を使っての戦いをしてきました。それらを這うように走り回り、縦横無尽に前後左右から攻め込んできます。ジュンには大樹でもできないのに洞窟ではもっと不可能な芸当でしたので、一方的にやられるものでした。
そして、ジュンの喉元に向かって人殺しの刀が光っていました。
「っ!」
ジュンは死を覚悟して目を閉じました。
が、人殺しの首が飛びました。
と、ダインが姿を現しました。
「『男の勝負に水を差すな!』とは言わないでよ。私の考えじゃないから」
ダインが倒しました。その姿はいつ度や見たことのある水の刃物の羽衣を纏った天女のようでした。ジュンは安堵のため息を心の底から出しました。
と、再び地面が崩れて下に落ちていきました。先ほどの戦いで地面が脆くなったようです。今度は2人仲良く一緒に落ちていきました。
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