第10話1-9

7日目

「いたっ!」

 ダインは顔に木の枝が当たり、目が覚めました。

「よお、ダイン、起こしてしまってすまないな!」

 木の上にジュンがいました。

「今日はもう修行しているの? 偉いわね」

 ダインは痛みでヒリヒリする鼻を押さえながら涙目でいました。

「いいや」

「?」

「今、修行が終わったところさ」

 ジュンは木の上からジャンプしました。

「足元気をつけてね」

「何の!」

 ジュンは4つのハーケンを出して、木の高いところと低いところに2本ずつ刺して、それらを血のロープでクロスに結びました。

「これは?」

「4つの打ち付けられたハーケンと2本の紐で固定することによって、ハーケンと紐を両方とも強化するのさ。これを壊れるまで抜いて伸ばして刺してを繰り返す。ハーケンの数は3から2に減るし、ロープも丈夫になった。これで10往復保たせることができる」

 ジュンは嬉しそうに説明しました。テストで難問が解けたような小躍りした感覚です。子供らしい笑顔でした。

「よく思いついたわね」

「高枝枝バサミ」

「たかっ?」

「持ってきた高枝枝バサミを見て思いついたのさ。最近よく使っていたから愛着もあって。それに……」

 ジュンは思い出話を始めようとしました。

「そう。とりあえず、10往復してからにしてよね、思い出話は」

 ジュンの思い出話はハサミのように鋭いダインの言葉でカットされました。

――ジュン10往復しました。

「クリアー!」

「あらま、本当に1週間でできるなんて」

 元気に倒れるジュンを、ダインは少し感心したように拍手していました。昨日の段階からだと、本当にクリアできるとは思っていなかったのです。

「これで一緒に登ってもいいんだよな」

「それは、まぁ、ええと」

 ダインは言葉を濁しました。ジュンは顔を濁しました。

「なんだよ?ダメなのかよ、この期に及んで」

「技術的には大丈夫だけど、家族には言ったの?」

「――言ってないよ。でも、大丈夫だよ」

 ジュンはぶっきらぼうな態度でした。言いたくないことを聞かれました。周りに迷惑をかけないこと、許可を得ることが大切と学んだが、それを無視してここに来たのです。

「家族と会話してきなさいよ。今日1日まで待ってあげるから」

「今日までなの?待ってくれないの」

「だって、修行は今日までじゃない?」

「これも修行なの? 違うだろ」

「というか、私の滞在期間というだけよ、修業期間は」

「そんなところだろうとは思ったけど……でも、どうせ家族は反対するさ」

「そうでしょうね。まぁ、それが目的だから。私も未熟者と一緒に登樹したくないわ。だから、反対されてきてね」

「そんなこと言われて行くわけないだろ」

 押し合いへし合い、会話は平行線をたどりました。ジュンは今もどると二度と帰って来られないと思っていました。ダインは少し考えて提案します。

「じゃあー、代わりに学校の先生でもいいよー」

「なんか軽い言い方だな。家族じゃなくてもいいのか?」

 ダインの肩の力の抜いた声音にジュンは肩透かしを受けました。しかし、こちらの提案もジュンには受け入れがたいものでした。

「そうよ。だって、家族がいない人もいるもの。あなたは家族がいるのは恵まれているわ」

「でも、先生に会うのも嫌だ。どうせ先生も反対する」

「文句言わずに、家族でも先生でもいいから、早く会いにいく」

 ダインに蹴飛ばされたジュンは自分のリュックに当たりました。中に入っていた物が飛び散りました。その中には反省文の紙もありました。

「いてて。あれ? この紙、なんか書いてある」

「何よ、その紙?」

「先生から反省文を書いて来いと言われた」

「あんた、不良なの?」

「違うよ。僕は大樹に登りたいだけだ。それを学校が止めていただけ」

「そういうのを不良っていうのよ。それで、その紙がどうしたのよ」

「なんか書いているぞ」

ジュンが手にとった紙には次の内容が書かれていました。

――

ジュンがいずれ大樹を登りに行くことはわかっていたこと。

水持ちの罰の真相は、いずれ来る大樹登りのための訓練であること。

もしも大樹登りする場合を考慮して、家族から大樹登りの許可を取っていたこと。

――

「いい先生ね。家族も」

「――はい」

 ジュンが震える手で紙をリュックに戻そうとしました。すると、リュックの奥に、もう1つ手紙を発見しました。それは母親からのものでした。

そこには次のことが書かれていました。

――

 息子が大樹に行く日が来るのを覚悟していたこと。

 覚悟したいたのに、実際に来たら行って欲しくなくて止めてしまったこと。

 この手紙を読んでいるということは、大樹に行った後であり、お母さんはジュンを応援するし、お父さんにはお母さんが伝えておくということ。

 元気でいてほしいこと。

――

 ジュンは全身が震えていました。顔をクシャクシャにさせながら泣いていました。

「――では、登るわよ」

「はい」

雲が1つ浮かぶ日に、登樹することが決定しました。


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