3-17. 強すぎた商人

 武闘会の最終日がやってきた。武闘会は二日かけて予選、そして最終日に決勝トーナメントがある。トーナメントといっても勇者はシードなので決勝にしか出てこない。そして俺は王女の特別枠で準決勝のシードとなっている。予選を勝ち抜いた四名の中で勝ち残った者が俺と戦う段取りだ。


 お昼に闘技場へと歩いて行くと、街全体がお祭り騒ぎになっていた。


 ポン! ポン!

 どこまでも透き通った青空に魔法玉が破裂し、武闘会を盛り上げる。


 石畳のメインストリートの両側は屋台がずらりと埋め尽くし、多くの人出でにぎわっていた。武闘会はこの街最大のお祭りであり、街の人たちみんなが楽しみにしているイベントなのだ。特に今年は優勝特典が絶世の美女リリアン姫との結婚となっているため、街の人たちは口々に優勝者の予想やリリアンの結婚について盛り上がっていた。優勝候補ナンバーワンは何といっても勇者だ。人族最強の称号を欲しいままにする圧倒的強者、その強さに子供たちは憧れ、大人たちも頼りにしているのだ。

 ただ……。実際に会えば幻滅してしまうような最低の男なのだが。


 集合場所の控室へ行くとすでに四名の屈強な男たちが万全の装備で座っており、鋭い眼光で俺をにらみつけてくる。

 案内の男性は、普段着のままのヒョロッとした貧相な体格の俺を見て

「え? あなたがユータ……さんですか?」

 と、驚いた。

「そうですが?」

「えーと……これから戦うんですよね? 装備とかは……?」

「装備なんていりませんよ、こぶし一つあれば十分です」

 俺はそう言ってこぶしを握って見せた。

 すると、四名の男たちはバカにされたと思い、ガタガタっと立ち上がってやってくる。

 いかつい金属製のよろいに身を包んだ男が俺の前に立ち、にらんで言った。

「おいおい……、なめんのもいい加減にしろよ! なんでお前みたいなのがシードなんだよ!」

「俺が一番強いからですね」

 俺は淡々と返す。

「じゃぁ、今お前ぶっ倒したらシード権くれるか?」

 鎧兜の中でギラリと眼光が光る。

 何だか面倒な事になってしまったが、ちょっと気持ちがクサクサしていたので挑発してみる。

「倒さなくてもいいです、一太刀でも入れられたらシード権はプレゼントしますよ。来てください」

 俺はニヤッと笑って、控室の裏の空き地に歩き出した。

「えっ!? ちょ、ちょっと困りますよ!」

 案内の男性は焦って制止しようとするが男たちは止まらない。ゾロゾロと俺の後をついてくる。

 俺は四人を索敵の魔法でとらえた。みんな殺気がかなり高い、やる気満々だ。この武闘会で上位に入るということは大変に名誉な事だし、仕官の口にもつながるという、ある意味就活でもあるわけだ。必死なのは仕方ない。

 一人の男の殺意が一気に上がる。

 鎧の男はいきなり奇襲攻撃で俺の背後を袈裟けさ切りにしてきたのだ。

「もらいっ!」

 しかし、剣が俺に届く直前、俺は彼の視界から消える。

「えっ?」

 俺は瞬歩で彼の背後に移動すると、

「遅すぎ、残念!」

 と、言いながら、手刀で後頭部を打った。

 気絶し、倒れる男。

 と、その向こうから二刀流の長髪の男が中国の雑技団のパフォーマンスのように刀をビュンビュンと振り回し、迫ってきた。

「当てりゃいいんだろ?」

「そうだよ」

 俺はニッコリと笑って男の攻撃をそのまま受けた。


 キ、キン!

 俺に触れた刀は刀身が粉々に砕け、飛び散る。

「はぁ!?」

 驚く男に俺は、

「武器屋は選ぼう」

 と、言いながら、パンチ一発お見舞いして吹き飛ばした。

 直後、後ろから

「マジックキャノン!」

 と、叫び声がして、白く輝く野球ボール大の魔法の球が吹っ飛んできた。

 俺はその球を素手でキャッチすると、そのまま投げ返した。飛行魔法の応用で魔法のエネルギーをそのまま包んで処理する事ができるのだ。まぁ、俺くらいしかそんなことできないのだが。

「なぜ爆発しない!?」

 驚く魔剣士は自らの魔法をまともにくらって吹き飛んだ。

 たった6、7秒で三人の男たちが戦闘不能になった。

 四人目の男はその惨状を唖然あぜんとして見つめ、ゆっくりと両手を上げる。

「あれ? かかってこないんですか?」

 俺がニッコリと話しかけると、

「こんなの……勝負になりませんよ……。棄権します。」

 と、言って首を振った。

「一体どうしてくれるんだ!? 試合ができないじゃないか!!」

 案内の男性は頭を抱え、天をあおぐ。

「ごめんなさい。今日は決勝だけやればいいじゃないですか」

 俺がそう言うと、男性はキッとにらみ、

「た、大会委員長に報告しないと!」

 と言って、駆け出した。そして途中でクルッと振り返って叫ぶ。

「決勝はちゃんと闘技場でやってくださいよ!」

 なんだか本気で怒っている。悪いことしてしまった。

「善処します」

 俺はペコリと頭を下げた。段取りをぶち壊したのは申し訳ないとは思うが……、因縁つけてきたのはあいつらだし、俺のせいじゃないよなぁと釈然としない思いが残った。

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