3-13. 月明かりのキス

 宴もたけなわとなり、みんなかなり酔っぱらった頃、レヴィアが余計な事を言い出した。

「こ奴がな、我の事を『美しい』と、言うんじゃよ」

 そう言って嬉しそうに俺を引き寄せ、頭を抱いた。

 薄い布一枚へだてて膨らみ始めた胸の柔らかな肌が頬に当たり、かぐわしい少女の芳香に包まれる。マズい……。

「ちょ、ちょっと、レヴィア様、おやめください!」

「なんじゃ? 『幼児体形』にもよおしたか? キャハッ!」

 レヴィアはグリグリと胸を押し付けてくる。抵抗しようとしたがドラゴンの腕力には全くかなわない。とんでもない少女である。

「レヴィア様、飲み過ぎです~!」

 レヴィアは俺を開放すると、

「どうじゃ? まぐわいたくなったか?」

 と、小悪魔な笑顔で俺を見る。

「そんな、恐れ多いこと、考えもしませんから大丈夫です!」

 俺はドキドキしながら急いでエールをあおった。

「ふん、つまらん奴じゃ。なら、誰とまぐわいたいんじゃ?」

「え!?」

 全員が俺を見る。

「いや、ちょっと、それはセクハラですよ! セクハラ!」

 俺が真っ赤になって反駁はんばくしていると、リリアンが俺の手を取って言った。

「正直におっしゃっていただいて……、いいんですのよ」

 リリアンも相当酔っぱらっている。真っ赤な顔で嬉しそうに俺を見ている。

「え!? 王女様までからかわないで下さい!」

「なんじゃ? リリアンもユータを狙っておるのか?」

 レヴィアはウイスキーをゴクゴクと飲みながら言った。

「私、強い人……好きなの……」

 そう言ってリリアンは俺の頬をそっとなでた。急速に高鳴る俺の心臓。

「王家の繁栄には強い子種が……大切じゃからな」

 そう言って、レヴィアがウイスキーを飲み干した。

「ちょっと、あおらないで下さいよ!」

「あら何……? 私の何が不満なの? 男たちはみんな私に求婚してくるのよ」

 そう言って、リリアンはキラキラと光る瞳で上目づかいに俺を見る。透き通るような白い肌、優美にカールする長いまつげ、熟れた果実のようなプリッとしたくちびる、全てが芸術品のようだった。

「ふ、不満なんて……ないですよ」

 俺は気圧されながら答える。こんな絶世の美女に迫られて正気を保つのは男には難しい。


 ガタッ!

 ドロシーがいきなり席を立ち、タタタタと階段を上っていく。


「ドロシー!」

 俺はみんなに失礼をわびるとドロシーを追いかけた。


      ◇


 二階に登ると、真っ暗な部屋の中、月明かりに照らされながらドロシーが仮眠用ベッドにぽつんと座っていた。

 俺は大きく息をすると、そっと隣に座り、優しく切り出した。

「どうしたの? いきなり……」

「……」

 うつむいたまま動かないドロシー。


「ちょっと飲みすぎちゃったかな?」

「王女様……放っておいちゃダメじゃない……」

 ドロシーが小声でつぶやく。

「ドロシーを放ってもおけないよ」

「不満……無いんでしょ? 良かったじゃない。王国一の美貌びぼう羨望せんぼうの的だわ」

「あれは言葉のアヤだって」

「私なんて放っておいて下行きなさいよ!」

 俺はドロシーの手を取って言った。

「俺にとって……一番大切なのはドロシーなんだ。ドロシーおいて下なんて行けないよ」

「……。本当?」

 恐る恐る顔を上げるドロシー。

「本当さ、そうでなければ追いかけてなんて来ないだろ?」

 俺はドロシーに微笑みかける。

 ドロシーは涙をいっぱいにたたえた目で俺を見る。透き通るような肌が月明かりに照らされ、まるで妖精のように美しく、そして愛おしく見えた。

 俺はそっと頭をなでる。

 次の瞬間、いきなりドロシーがくちびるを重ねてきた。

 いきなりの事に驚く俺。

 でも、熱く情熱的な舌の動きに俺もつい合わせてしまう。

 甘い吐息を吐きながら俺を求めてくるドロシー。

 負けじと俺の手は彼女の背中をまさぐる。

 月の青い光の中で俺たちは舌を絡め合わせ、しばらくお互いをむさぼった……。


「うふふ……ユータ……好き」

 くちびるを離すと、そう言ってドロシーは俺に抱き着いてきた。

 俺はドロシーを抱きしめ、豊かな胸のふくらみから熱い体温を感じる。心臓がドクドクと早打ちし、このまま押し倒してしまい衝動にかられた。

 しかし……このまま行為に及ぶわけにもいかない。

 俺が激しく欲望と戦っていると……、スースーと寝息が聞こえてくる。どうやら寝てしまったようだ。よく考えたら、ドロシーは飲み過ぎなのだ。

「くぅっ!」

 俺はホッとしつつ、同時にこのやりきれない思いをどうしたらいいのか持てあました。


 ドロシーをそっとベッドに横たえ、毛布を掛ける。

 幸せそうな顔をしながら寝ているドロシーをしばらく見つめ、

「おやすみ……」

 そう言いながらそっと頬にキスをすると、俺は下へと降りて行った。

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