3-11. 王女襲来
「お、王女様!?」
俺は急いで手を放す。
「痛いじゃない! 何すんのよ!」
リリアンが透き通るようなアンバー色の瞳で俺をにらむ。
「こ、これは失礼しました。しかし、こんな夜におひとりで出歩かれては危険ですよ」
「大丈夫よ、危なくなったら魔道具で騎士が飛んでくるようになってるの」
ドヤ顔のリリアン。
絶対リリアンの騎士にはならないようにしようと心に誓った。毎晩呼び出されそうだ。
「とりあえず、中へどうぞ」
俺はリリアンを店内に案内した。
「ドロシー、もう大丈夫だよ、王女様だった」
俺は二階にそう声をかける。
リリアンはローブを脱ぎ、流れるような美しいブロンドの髪を軽く振り、ドキッとするほどの笑顔でこちらを見てくる。
俺は心臓の高鳴りを悟られないように淡々と聞いた。
「こんな夜中に何の御用ですか?」
「ふふん、何だと思う?」
何だか嬉しそうに逆に聞いてくる。
「今、パーティ中なので、手短にお願いします」
「あら、美味しそうじゃない。私にもくださらない?」
そう言いながらテーブルへと歩き出すリリアン。
「え? こんな庶民の食べ物、お口に合いませんよ!」
「あら、食べさせてもくれないの? 私が孤児院のために今日一日走り回ったというのに?」
リリアンは振り返って透明感のある白い
孤児院の事を出されると弱い。
「分かりました」
俺はそう言って椅子と食器を追加でセットした。
リリアンは席の前に立つとしばらく何かを待っている。そして、俺をチラッと見ると、
「ユータ、椅子をお願い」
なんと、座る時には椅子を押す人が要るらしい。
俺は椅子を押しながら、
「王女様、ここは庶民のパーティですから庶民マナーでお願いします。庶民は椅子は自分で座るんです」
「ふぅん、勉強になるわ。あれ? フォークしかないわよ」
「あー、食べ物は料理皿のスプーンでこの皿にとってセルフで取り分けて、フォークで食べるんです」
「ユータ、やって」
さすが王女様、自分では何もやらないつもりだ。
ドロシーがちょっと怒った目で、
「私がお取り分けします」
と、言いながらリリアンの前の取り皿を取ろうとすると、
リリアンはピシッとドロシーの手をはたいた。
「私はユータに頼んだの」
そう言ってドロシーをにらんだ。
二人の間に見えない火花が散る。
王位継承順位第二位リリアン=オディル・ブランザに対し、一歩も引かない孤児の少女ドロシー。俺もアバドンもオロオロするばかりだった。
「のどが渇いたわ、シャンパン出して」
俺を見て言うリリアン。
「いや、庶民のパーティーなので、ドリンクはエールしかないです」
「ふーん、美味しいの?」
「ホップを利かせた苦い麦のお酒ですね。私は大好きですけども……」
「じゃぁ頂戴」
するとドロシーがすかさず、特大マグカップになみなみとエールを注ぎ、
「王女様どうぞ……」
と、にこやかに渡す。
いちいち火花を散らす二人。
「と、とりあえず乾杯しましょう、カンパーイ!」
俺は引きつった笑顔で音頭を取る。
「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」
リリアンは一口エールをなめて、
「苦~い!」
と、言いながら、俺の方を向いて渋い顔をする。
「高貴なお方のお口には合いませんね。残念ですわ」
ドロシーがさりげなくジャブを打ってくる。
リリアンがキッとドロシーをにらむ。
「あ、エールはワインと違ってですね、のど越しを楽しむものなんです」
「どういう事?」
「ゴクッと飲んだ瞬間に鼻に抜けるホップの香りを楽しむので、一度一気に飲んでみては?」
「ふぅん……」
リリアンは半信半疑でエールを一気にゴクリと飲んだ。
そして、目を見開いて、
「あ、確かに美味しいかも……。さすがユータ! 頼りになるわ」
そう言って俺にニッコリと笑いかけた。
「それは良かったです。で、今日のご用向きは?」
俺はドロシーからの視線を痛く感じ、冷や汗を垂らしながら聞いた。
「そうそう、孤児院の助成倍増とリフォーム! 通してあげたわよ!」
「え? 本当ですか!?」
「王女、嘘つかないわよ」
そう言ってドヤ顔のリリアン。
俺はスクッと立ち上がると、
「リリアン姫の孤児院支援にカンパーイ!」
「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」
ドロシーも孤児院の支援は嬉しかったらしく。
「王女様、ありがとうございます」
と、素直に頭を下げた。
「ふふっ、Noblesse oblige(ノブレス・オブリージュ)よ、高貴な者には責務があるの」
「それでもありがたいです」
俺も頭を下げた。
「で、今日は何のお祝いなの?」
「お祝いというか、慰労会ですね」
「慰労?」
「南の島で泳いで帰ってきて『お疲れ会』、帰りにドラゴンに会ったり大変だったんです」
ドロシーが説明する。
「ちょ、ちょっと待って! ドラゴンに会ったの!?」
目を丸くするリリアン。
「あれ、ドラゴンご存じですか?」
「王家の守り神ですもの。おじい様、先代の王は友のように交流があったとも聞いています。私も会うことできますか?」
リリアンは手を組んで必死に頼んでくる。
「いやいや、レヴィア様はそんな気軽に呼べるような存在じゃないので……」
「えぇ、リリアンのお願い聞けないの?」
長いまつげに、透き通るようなアンバー色の瞳に見つめられて俺は困惑する。
『なんじゃ、呼んだか?』
いきなり俺の頭に声が響いた。
「え? レヴィア様!?」
俺は仰天した。名前を呼ぶだけで通話開始とかちょっとやり過ぎなんじゃないだろうか?
『もう会いたくなったか? 仕方ないのう』
「いや、ちょっと、呼んだわけではなく……」
と、話している間に、店内の空間がいきなり裂けた。そして、
「キャハッ!」
と、笑いながら金髪おかっぱで全裸の少女が現れる。
俺はなぜこんなに大物が次々と客に来るのか、ちょっと気が遠くなった。
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