2-4. 邪悪なる業火
「誰もいやしませんぜ!」
見に行った男が、奥の壁の辺りを探して声を上げる。
「いや、いるはずだ。不思議な術を使う男だと聞いている。用心しろ!」
そう言いながら、ブルザは並んでいる窓を一つずつにらみ、外をチェックしていく。
軍人らしく、その所作には訓練されたものを感じる。
俺は再度倉庫の裏手に回り、俺を探している男をそっと確認する。そして男の背後から瞬歩で迫り、手刀で後頭部を打った。
「グォッ!」
うめき声が倉庫に響く。
ブルザは男が俺に倒されたのを悟ると、
「おい! 出てきたらどうだ? お前の女が犯されるのを特等席で見せてやろう」
そう大声で叫びながらかがみ、ドロシーのパンティに手をかけた。
「いやっ!」
そう言うドロシーをまた蹴ってはぎ取った。
「いいのか? 腰抜け?」
「やめて……うぅぅぅ……やめてよぉ……」
ドロシーは泣き出してしまう。
「さぁ、ショータイムだ!」
ブルザはドロシーの両足に手をかけた。
怒りを抑えるのに必死な俺に、アバドンから連絡が入る。
「旦那様、着きました!」
俺が見上げると、空からアバドンが降りてきて隣に着地した。
俺は冷静さを装いながら言う。
「あの若い男を俺が挑発してドロシーから離すから、その隙に首輪を処理してくれ。できるか?」
「お任せください」
ニヤッと笑うアバドン。
「よし、じゃ、お前は表側から行ってくれ!」
俺はアバドンの肩をポンと叩いた。
「わかりやした!」
俺は裏側の壁をもう一発どつき、倉庫の中に入る。
「ブルザ! 望み通り出てきてやったぞ! 勇者の
俺はそう言いながら、ブルザから見える位置に立った。
「なんとでも言え、我々には貴族特権がある。平民を犯そうが殺そうが罪にはならんのだよ」
「お前だって平民だったんじゃないのか?」
「はっ! 勇者様に認められた以上、俺はもう特権階級、お前らなどゴミにしか見えん」
「腕もない口先だけの男……なぜ勇者はお前みたいな無能を選んだんだろうな……」
ブルザの
「ふーん……、いいだろう、望み通り俺の剣の
ブルザは剣を抜き、俺に向かってツカツカと迫った。
俺はビビる振りをしながら、じりじりと後ろに下がる。
「どうした? 丸腰か?」
「ま、丸腰だってお前には勝てるんでね……」
ツカツカと間合いを詰めてくるブルザ、ドロシーとの距離を稼ぐ俺……。
「ヒィッ!」
俺はおびえて逃げ出すふりをして裏手へと駆けた。
「待ちやがれ! お前も殺せって言われてんだよ!」
まんまと策に乗ってくるブルザ。
アバドンはそれを確認すると、表のドアをそーっと開けて倉庫に入った。
「ぐわっ!」「ぐふっ!」
アバドンがドロシーを押さえつけている男たちを殴り倒し、首輪の取り外しにかかる。
しばらく倉庫の裏で巧みに逃げ回っていると、アバドンから連絡が入った。
「旦那様! OKです!」
俺は逃げるのをやめ、ブルザの方を向く。
「ドロシーは確保した。お前の負けだ」
俺がニヤッと笑うと、ブルザは
「もう一人いたのか……だが、小娘には死んでもらうよ」
そう言って、嫌な笑みを浮かべながら何かを念じている。
しかし……、反応がないようだ。
「え? あれ?」
焦るブルザ。
「首輪なら外させてもらったよ」
俺は得意げに言った。
「この野郎!」
ブルザは一気に間合いを詰めると、目にも止まらぬ速さで剣を振り下ろしてくる。
その剣速はレベル182の超人的強さにたがわずすさまじく、音速を超え、衝撃波を発しながら俺に迫った。
しかし、俺はレベル千、迫る剣をこぶしで打ち抜いた。
パキィィーン!
剣は砕かれ、刀身が吹き飛び……クルクルと回って倉庫の壁に刺さった。
「は!?」
ブルザは何が起こったかわからなかった。
俺はその間抜けヅラを右フックでぶん殴った。
「ぐはっ!」
吹き飛んで地面を転がるブルザ。
俺はツカツカとブルザに迫り、すごんだ。
「俺の大切なドロシーを何回
怒りのあまり、無意識に『威圧』の魔法が発動し、俺の周りには闇のオーラが渦巻いた。
「う、うわぁ」
ブルザはおびえながら、まぬけに後ずさりする。
「一回!」
俺はブルザを蹴り上げた。
「ぐはぁ!」
ブルザは宙を何回転かしながら倉庫の壁に当たり、落ちて転がってくる。
「二回!」
再度蹴りこんで壁に叩きつけた。
ブルザは口から血を流しながらボロ雑巾のように転がった。
「勇者の所へ案内しろ! ボコボコにしてやる!」
俺はそう叫んだ。
しかし、俺は勇者の邪悪さをまだ分かっていなかったのだ。
ブルザはヨレヨレになりながら起き上がると、嬉しそうに上着のボタンを外し、俺に中身を見せた。
そこには赤く輝く火属性の魔法石『炎紅石』がずらっと並んでいた。
「え!?」
俺は目を疑った。『炎紅石』は一つでも大爆発を起こす危険で高価な魔法石。それがこんなに大量にあったらとんでもない事になる。
「勇者様バンザーイ!」
ブルザはそう叫ぶと炎紅石をすべて発動させた。
激しい灼熱のエネルギーがほとばしり、核爆弾レベルの閃光が麦畑を、街を、辺り一帯を覆った――――
爆発の衝撃波は白い球体となって麦畑の上に大きく広がっていく……。
まさにこの世の終わりのような光景が展開された。
衝撃波が収まると、中には真紅のきのこ雲が立ち上っていく。
俺は直前に全速力で空に飛んで防御魔法陣を展開したが、それでもダメージを相当食らってしまった。服は焼け焦げ、髪の毛はチリチリ、体はあちこち火傷で火ぶくれとなった。
目前で立ち上る巨大なキノコ雲を目の前にして、命を何とも思わない勇者の悪魔の様な発想に俺は
ドロシー……、ドロシーはどうなってしまっただろうか?
爆煙たち込める爆心地は灼熱の地獄と化し、とても近づけない。
「あ、あぁぁ……ドロシー……」
折角アバドンが救ったというのに、爆発に巻き込んでしまった……。
俺は詰めの甘さを悔やんだ。勇者の恐ろしさを甘く見ていたのだ。
「ドロシー! ドロシー!!」
俺は激しく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます