2-3. 奴隷にされた少女
南門まで来ると、浮かない顔をしてアバドンが浮いている。
「悪いね、どんな幌馬車だった?」
俺が早口で聞くと、
「うーん、薄汚れた良くある幌馬車ですねぇ、パッと見じゃわからないですよ」
そう言って肩をすくめる。
俺は必死に地上を見回すが……朝は多くの幌馬車が行きかっていて、どれか全く分からない。
「じゃぁ、俺は門の外の幌馬車をしらみつぶしに探す。お前は街の中をお願い!」
「わかりやした!」
俺はかっ飛んで、南門から伸びている何本かの道を順次めぐりながら、幌馬車の荷台をのぞいていった――――
何台も何台も中をのぞき、時には荷物をかき分けて奥まで探した。
俺は慎重に漏れの無いよう、徹底的に探す。
しかし……、一通り探しつくしたのにドロシーは見つからなかった。
頭を抱える俺……。
考えろ! 考えろ!
俺は焦る気持ちを落ち着けようと何度か深呼吸をし、奴らの考えそうな事から可能性を絞る事にした。
攫われてからずいぶん時間がたつ。もう、目的地に運ばれてしまったに違いない。
目的地はどんなところか?
廃工場とか使われてない倉庫とか、廃屋とか……人目につかないちょっと寂れたところだろう。そして、それは街の南側のはずだ。
俺は上空から該当しそうなところを探した。
街の南側には麦畑が広がっている。ただ、麦畑だけではなく、ポツポツと倉庫や工場も見受けられる。悪さをするならこれらのどれかだろう。
俺は上空を高速で飛びながらそれらを見ていった。
「旦那様~、いませんよ~」
アバドンが疲れたような声を送ってくる。
「多分、もう下ろされて、廃工場や倉庫に連れ込まれているはずだ。そういうの探してくれない?」
「なるほど! わかりやした!」
しばらく見ていくと、幌馬車が置いてある錆びれた倉庫を見つけた。いかにも怪しい。俺は静かに降り立つと中の様子をうかがう。
「いやぁぁ! やめて――――!!」
ドロシーの悲痛な叫びが聞こえた。ビンゴ!
汚れた窓から中をのぞくと、ドロシーは数人の男たちに囲まれ、床に押し倒されて服を破られている所だった。バタバタと暴れる白い足を押さえられ、極めてマズい状況だ。
すぐに助けに行こうと思ったが、ドロシーの首に何かが付いているのに気が付いた。よく見ると、呪印が彫られた真っ黒な首輪……、奴隷の首輪だ。あれはマズい、主人が『死ね!』と念じるだけで首がちぎれ飛んで死んでしまうのだ。男どもを倒しにいっても、途中で念じられたら終わりだ。強引に首輪を破壊しようとしても首は飛んでしまう。どうしたら……?
俺は、ドロシーの白く細い首に巻き付いた禍々しい黒い筋をにらむ。こみ上げてくる怒りにどうにかなりそうだった。
パシーン! パシーン!
若い男がドロシーに平手打ちを食らわせた。
「黙ってろ! 殺すぞ!?」
「ひぐぅぅ」
ドロシーは悲痛なうめき声を漏らす。
俺は全身の血が煮えたぎるような怒りに襲われた。ぎゅっと握ったこぶしの中で、爪が手のひらに食い込む。その痛みで何とか俺は正気を保つ。
軽率に動いてドロシーを殺されては元も子もないのだ。ここは我慢するしかない。ギリッと歯ぎしりが鳴った。
俺は何度か深呼吸をしてアバドンに連絡を取る。
「見つけた、川沿いの茶色の屋根の倉庫だ。幌馬車が止まってるところ。で、奴隷の首輪をつけられてしまってるんだが、どうしたらいい?」
「旦那さまー! 良かったですー! 奴隷の首輪は私が解除できます。少々お待ちください~!」
持つべきものは良い仲間である。俺は初めてアバドンに感謝をした。
そうであるならば、俺は時間稼ぎをすればいい。
ビリッ、ビリビリッ!
若い男がドロシーのブラウスを派手に破いた。
形のいい白い胸があらわになる。
「お、これは上玉だ」
若い男がそう言うと、
「げへへへ」と、周りの男たちも
俺は目をつぶり、胸に手を当て、呼吸を整えると倉庫の裏手に回り、思いっきり石造りの壁を殴った。
スゴーン!
激しい音を立てながら壁面に大きな穴が開き、破片がバラバラと落ちてくる。
若い男が立ち上がって身構え、叫ぶ。
「おい! 誰だ!」
俺は静かに表に戻る。
若い男は、ドロシーの手を押さえさせていた男にあごで指示をすると、倉庫をゆっくりと見回す……。
ドロシーが自由になった手で胸を隠すと、
「勝手に動くんじゃねぇ!」
そう言ってドロシーの頭を蹴った。
「ギャッ!」
ドロシーはうめき、可愛い口元から血がツーっと垂れる。
俺は怒りの衝動が全身を貫くのを感じる。しかし、あの男を殴ってもドロシーが首輪で殺されてしまっては意味がないのだ。ここは我慢するしかない。
鑑定をしてみると……
クロディウス=ブルザ 王国軍 特殊工作部 勇者分隊所属
剣士 レベル182
やはり勇者の手先だった。それにしても、とんでもないレベルの高さだ。勇者が本気でドロシーを潰しに来ていることをうかがわせる。なんと嫌な奴だろうか。こいつをコテンパンにしたら、勇者が泣いて謝るまで殴りに行ってやる!
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