1-17. 呪われた階段

 またしばらく行くと魔物の反応があった。草むらの中をかがんで移動し、そーっとのぞいてみると……


ゴーレム レア度:★★★★

魔物 レベル110


 今度は岩でできたデカい魔物だ。巨大な岩に大きな石が多数組み合わさって腕や足を構成し、ズシン、ズシン、と歩いている。岩タイプには『水』か『草』か『格闘』タイプだったなぁとポケモンの知識を思い出すが、この世界がどうなっているかは良く分からない。

 俺は試しに水魔法を威力控えめにして当ててみる。

「ウォーターボール……」

 三メートルくらいの水の球がニュルンッと現れると、日差しにキラキラと輝きながら草原の上を走り、ゴーレムに直撃する。

 ドッパーンと水が激しくはじけた。

 しかし……、全然ダメージを与えられていない。ゴーレムは怒ってこっちに駆けてくる。やっぱり岩に水はダメなんじゃないか? 綺麗に洗ってやったようにしか見えない。

 では、火か、風か、雷か……、どれもなんだか効きそうにない。うーん、どうしよう?

 そうこうしているうちにもゴーレムは近づいてくる。

 仕方ない、俺は来るときに見かけた小川の所まで戻ると、投げられそうなものを探す。スーツケースくらいの岩があるので、岩をよいしょと持ち上げた。


 草原の向こうからズシン、ズシンとすごい速度でゴーレムは駆けてくる。

 俺はサッカーのスローインみたいに岩を頭上に持ち上げると、「セイヤッ!」と掛け声かけてゴーレムに投げつけた。

 岩は音速を超え、隕石のようにゴーレムに直撃する。

 ドォン!という激しい爆発音とともにもうもうと爆煙が吹きあがった。

 パラパラと破片が降ってくる。どうやらゴーレムは粉々に砕け散ったようだ。

「あー、やっぱり岩には岩がいいみたいだ」

 俺はニヤッと笑った。


 その後も何匹か魔物を倒しながらみんなの所を目指す。魔物はみなレベル100オーバーであり、かなり強い。中堅パーティでは到底勝ち目がない。一体ここは何階なのだろうか?


      ◇


「階段ありましたよー!」

 遠くに見えてきたみんなに、俺は手を振りながら叫ぶ。

 エレミーは、駆け寄ってきて

「ユータ! あれっ! 服が焦げてるじゃない! 大丈夫なの?」

 と、目に涙を浮かべて言う。

「え?」

 俺はあわてて服を見ると、革のベストが焼け焦げ、ヒモもちぎれていた。

 ハーピーにやられたことを忘れていた。

「ユータ、ごめん~!」

 そう言うとエレミーはハグしてきた。

 甘くやわらかな香りにふわっと包まれ、押し当てられる豊満な胸が俺の本能を刺激する。いや、ちょっと、これはまずい……。

 遠くでジャックが凄い目でこちらをにらんでいるのが見える。

「あ、大丈夫ですから! は、早くいきましょう。魔物来ちゃいますよ」

 そう言ってエレミーを引きはがした。

「本当に……大丈夫なの?」

 エレミーは服が破れてのぞいた俺の胸にそっと指を滑らせた。

「だ、だ、だ、大丈夫です!」

 エロティックな指使いにヤバい予感がして、エレミーを振り切ってリュックの所へ走った。心臓のドキドキが止まらない。


 エドガーは、心配そうに

「階段はどこに?」

 と、聞いてくる。

「あっちに二十分ほど歩いたところに小さなチャペルがあって、そこにあります」

「チャペルの階段!?」

 ドロテはそう言うと天を仰いだ。

 チャペルにある階段は『呪われた階段』と呼ばれ、一般に厳しい階につながっているものばかりだそうだ。

 みんな黙り込んでしまった。


 強い風がビューっと吹き抜け、枝が大きく揺れ、サワサワとざわめく。


「とりあえず行ってみよう!」

 エドガーは、大きな声でそう言ってみんなを見回す。

 みんなは無言でうなずき、トボトボと歩き出した。


 アルはひどくおびえた様子でキョロキョロしているので、

「この辺は魔物いなかったよ、大丈夫大丈夫」

 と、背中を叩いて元気づけた。

 アルは、

「ニ十分歩いて魔物が出ないダンジョンなんてないんだよ! ユータは無知だからそんな気楽な事を言うんだ!」

 と、涙目で怒る。まぁ、正解なんだが。


        ◇


 無事階段についたが、みんな暗い表情をしている。

「やはりさらに下がるしかないようだ……。みんな、いいかな?」

 エドガーはそう、聞いてくる。

 どうも、階段には上に行ったり、外に出られるポータルなどもあるらしい。帰りたい時に下だけというのは『はずれ』という事みたいだ。


 お通夜のように静まり返るメンバーたち。下に行くという事は難易度が上がるという事、死に近づく事だ、気軽に返事はできない。


「まずは行ってみるしかないのでは?」

 僧侶のドロテが眼鏡を触りながら淡々と口を開いた。

 メンバーの中では一番冷静だ。

 みんなは覚悟を決め、階段を下りる。


       ◇


 階段を下りると、そこはいきなりデカいドアになっていた。高さ20メートルは有ろうかという巨大な扉。青くきれいな合金っぽい素材でできており、金の縁取りの装飾がされている。


「ボス部屋だ……どうしよう……」

 エドガーは頭を抱えた。

 ボス部屋は強力な敵が出て、倒さないと二度と出られない。その代わり、倒せば一般には出口へのポータルが出る。一度入ったら地上に生還か全滅かの二択なのだ。

 しかし、さっきサイクロプスを見てしまったメンバーは到底入る気にはならない。あのサイクロプスよりもはるかに強い魔物が出てくるわけだから、どう考えても勝ち目などない。

「戻りましょう」

 ドロテは淡々と言う。

 しかし、俺としてはまた上への階段を探し、案内し、を繰り返さねばならないというのは避けたい。とっととボスを倒して帰りたいのだ。

 そこで、俺は明るい調子でにこやかに言った。

「大丈夫です。私、アーティファクト持ってますから、ボスを一発で倒します」

「おいおい! そう簡単に言うなよ、命かかってるんだぞ!」

 ジャックは絡んでくる。

「大丈夫です。サイクロプスだって一発だったんですよ?」

 俺はにっこりと笑って言う。

「いや、そうだけどよぉ……」


 エドガーは覚悟を決め、

「そうだな……、ユータが居なければさっきのサイクロプスで殺されていたんだ。ここはユータに任せよう。どうかな?」

 そう言って、みんなを見回す。

 みんなは暗い顔をしながらゆっくりとうなずいた。

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