1-16. サイクロプスの脅威
エレミーの切迫した声が沈黙を破った。
「魔物来ます! 一匹だけど……何なの、この強烈な魔力! ダメ! 逃げなきゃ!!」
そう言って真っ青になって駆けだした。
「マジかよ!」「やめてくれよ!」「なんなのよ、も――――!!」
みな悪態をつきながら一斉にダッシュ!
青い顔しながら、エレミーを追いかける。
俺はみんなを追いかけながら後ろを振り返る。すると、ズーン、ズーンという地響きの後、一つ目の巨人が森の大木の上からにょっきりと顔を出したのが見えた。
キタ――――!! デカい!
身長は20メートルはあるだろうか?
青緑色のムキムキとした筋肉が巨大な棍棒をブウンブウンと振り回しながら、圧倒的な迫力で迫って来る。2メートルはあろうかという目はギョロリと血走り、俺を見据えた。
鑑定をしてみると……
サイクロプス レア度:★★★★
魔物 レベル180
おぉ、これがサイクロプス、すごい! すごいぞぉ! VRゲームで見た事はあるが、やっぱりリアルで見たら迫力が全然違う。やっぱり異世界は最高! 思わずにやけてしまう。
とは言え、レベル180はヤバい。このままだとパーティが全滅してしまう。しかし、俺が派手に立ち回るのは避けたい。どうしよう……?
俺は一計を案じると立ち止まり、転がっていた石からこぶし大のちょうどいいサイズの物を拾った。
サイクロプスは俺を餌だと思って走り寄ってくる。ズーン、ズーンと揺れる地面、すごい迫力だ。
俺は石を持って振りかぶると、サイクロプスに向かって全力で投げた。石は手元で音速を超え、バン!と衝撃波を発生させながらマッハ20くらいの速度でサイクロプスの目を貫く。
直後、サイクロプスの頭は『ドン!』と派手な音を立てて爆散し、即死した。
爆音に振りかえるメンバーたち。
「え?」「なんだ?」
ゆっくりと崩れ落ち、ズシーン!と轟音を立てながら倒れるサイクロプス。
みな走るのをやめ、予想外の事態に
全滅必至レベルの強敵が、荷物持ちの少年を前に自滅したのだ。理解を越えた出来事に言葉もない。
エドガーが俺に駆け寄ってくる。
「ユータ、いったい何があったんだ?」
「魔物を倒すアーティファクトを使ったんです。もう大丈夫ですよ」
俺はそうごまかしてニッコリと笑った。
「アーティファクト!? なんだ、そんなもの持ってたのか!?」
「ただ、高価ですし、数も限りがありますから早く脱出を目指しましょう」
「そ、そうだな……しかし、どこに階段があるのか皆目見当もつかない……」
悩むエドガー。
「私が見てきましょう。
「ユータ……、お前、すごい奴だな」
エドガーはあっけにとられたような表情で言う。
エレミーが駆け寄ってきて、俺の手を取り、両手で握りしめて言う。
「ユータ、今の本当? 本当に大丈夫なの?」
目には涙すら浮かんでいる。
俺はちょっとドギマギしながら、
「だ、大丈夫ですよ、みなさんは休んで待っててください」
俺はニッコリと笑った。
そして、近くの大きな木の陰にリュックを下ろし、
「ここで待っててくださいね」
と、みんなに言った。
アルは、
「いいとこ見せられないどころか、お前ばっかり、ごめんな」
と、言ってしょげる。
「あはは、いいって事よ。みんなに水でも配ってて。それじゃ!」
俺はアルの肩をポンポンと叩き、タッタッタと森の中へ駆けて行った。
十分に距離が取れたところで、俺は隠形魔法をかけて空へと飛んだ。上空から見たら何かわかるかもしれない。
俺はどんどん高度を上げていく。眼下の景色はどんどんと小さくなり、この世界の全体像が見えてきた。森に草原に湖……でもその先にまた同じ形の森に草原に湖……。どうやらこの世界は一辺十キロ程度の地形が無限に繰り返されているだけのようだった。一体、ダンジョンとは何なのだろうか……?
よく見ると、湖畔には小さな白い建物が見える。いかにも怪しい。俺はそこに向かった。
綺麗な湖畔にたたずむ白い建物。それは小さな教会のようで、シンプルな三角の青い屋根に、尖塔が付いていた。なんだかすごく素敵な風景である。
ファンタジーって素晴らしいな……。俺はつい上空をクルリと一回りしてしまう。
あまりゆっくりもしていられないので、入り口の前に着地すると、ドアを開けてみた。
ギギギーッときしみながらドアは開く。
中はガランとしており、奥に下への階段があった。なるほど、ここでいいらしい。と、思った瞬間、いきなり胸の所が爆発し、吹き飛ばされた。
「ぐわぁ!」
耳がキーンとする。
どうやらファイヤーボールを食らってしまったらしい。ちょっと油断しすぎだ俺。
急いで索敵をすると、天井に何かいる。
ハーピー レア度:★★★★
魔物 レベル120
赤い大きな羽根を広げた女性型の鳥の魔物だ。大きなかぎ爪で天井の
ハーピーはさらにファイヤーボールを撃ってくる。俺はムカついたので、瞬歩でそばまで行くと飛び上がって思いっきり殴った。
「キョエー!」
断末魔の叫びをあげ、赤い魔石となって床に転がった。
「油断も隙も無い……」
俺はふぅっと息をつき、魔石を拾ってその輝きを眺めた。ルビー色に輝く美しい魔石、ギルドに持っていけば相当高値で売れるだろう。だが、入手経路を問われたらなんて答えたらいいだろうか……? 止めておくか……。
さて、階段は見つけた。みんなをここへ連れてこなくては……。
俺はみんなの方へ走りながら索敵をする。草原をしばらく行くと反応があった。鑑定をかけると、
オーガ レア度:★★★★
魔物 レベル128
と、出た。筋肉ムキムキの赤色の鬼の魔物だ。手にはバカでかい
「おぉ! あれがオーガ! なるほどなるほど!」
俺はピョンと飛んで、オーガの前に出て、
「もしかして、しゃべれたりする?」
と、話しかけてみる。
しかし、オーガは俺を見ると、
「ウガ――――!」
と、うなって斧を振りかぶって走り寄ってくる。
「何だよ、武器使うくせにしゃべれないのかよ!」
俺はそう言って、高速に振り下ろされてきた斧を指先でつまむと、斧を奪い取り、オーガを蹴り飛ばした。
早速斧を鑑定してみるが……、オーガとしか出ない。
蹴った衝撃で死んでしまったオーガが消えると、斧も一緒に消えてしまった。
どうやら斧はオーガの一部らしい。魔物の武器が売れるかもと期待した俺がバカだった。
それにしてもこの世界は一体どうなっているのか? なぜ、こんなゲームみたいなシステムになっているのだろう……。
ヒュゥと爽やかな風が吹き、草原の草はサワサワといいながらウェーブを作っていく。この気持ちのいい風景の中に仕組まれた魔物というゲームシステム。誰が何のためにこんなものを作ったのだろうか……。
俺は朱色に光り輝くオーガの魔法石を拾い、眺めながら、しばし物思いにふけった。
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