1-15. 初ダンジョンの洗礼
届け物があって久しぶりに冒険者ギルドを訪れた。
ギギギー
相変わらず古びたドアがきしむ。
にぎやかな冒険者たちの歓談が聞こえてくる。防具の皮の臭いや汗のすえた臭いがムワッと漂ってくる。これが冒険者ギルドなのだ。
受付嬢に届け物を渡して帰ろうとすると、
「ヘイ! ユータ!」
アルが休憩所から声をかけてくる。
アルは最近冒険者を始めたのだ。レベルはもう30、駆け出しとしては頑張っている。
「おや、アル、どうしたんだ?」
「今ちょうどダンジョンから帰ってきたところなんだ! お前の武器でバッタバッタとコボルトをなぎ倒したんだ! ユータにも見せたかったぜ!」
アルが興奮しながら自慢気に俺に話す。
なるほど、俺は今まで武器をたくさん売ってきたが、その武器がどう使われているのは一度も見たことがなかった。武器屋としてそれはどうなんだろう?
「へぇ、それは凄いなぁ。俺も一度お前の活躍見てみたいねぇ」
「良かったら明日、一緒に行くか?」
隣に座っていたエドガーが声をかけてくれた。
アルは今、エドガーのパーティに入れてもらっているのだ。
「え? いいんですか?」
「うちにも荷物持ちがいてくれたら楽だなと思ってたんだ。荷物持ちやってくれるならいっしょに行こう」
「それなら、ぜひぜひ!」
話はとんとん拍子に決まり、明日、憧れのダンジョンデビューである。
◇
エドガーのパーティはアルとエドガー以外に盾役の前衛一人、魔術師と僧侶の後衛二人がいる。俺を入れて六人でダンジョンへ出発だ。
俺は荷物持ちとして、アイテムやら食料、水、テントや寝袋などがパンパンに詰まったデカいリュックを担いでついていく。
ダンジョンは地下20階までの比較的安全な所を丁寧に周回するそうだ。長く冒険者を続けるなら安全第一は基本である。背伸びして死んでしまったらお終いなのだ。
街を出て三十分ほど歩くと大きな洞窟があり、ここがダンジョンになっている。入口の周りには屋台が出ていて温かいスープや携帯食、地図やらアイテムやらが売られ、多くの人でにぎわっていた。
ダンジョンは命を落とす恐ろしい場所であると同時に一攫千金が狙える、夢の場所でもある。先日も宝箱から金の延べ棒が出たとかで、億万長者になった人がいたと新聞に載っていた。なぜ、魔物が住むダンジョンの宝箱に金の延べ棒が湧くのだろうか? この世界のゲーム的な構造に疑問がない訳ではないが、俺は転生者だ。そういうものだとして楽しむのが正解だろう。
周りを見ると、皆、なんだかとても楽しそうである。全員目がキラキラしていてこれから入るダンジョンに気分が高揚しているのが分かる。
俺たちは装備をお互いチェックし、問題ないのを確認し、ダンジョンにエントリーした。
地下一階は石造りの廊下でできた暗いダンジョン。出てくる敵もスライムくらいで特に危険性はない。ただ、ワナだけは注意が必要だ。ダンジョンは毎日少しずつ構造が変わり、ワナの位置や種類も変わっていく。中には命に関わるワナもあるので地下一階とは言えナメてはならない。
ダンジョンに入ると、
「ユータ君、重くない?」
黒いローブに黒い帽子の魔法使いのエレミーが気を使ってくれる。流れるような黒髪にアンバーの瞳がクリッとした美人だ。
「全然大丈夫です! ありがとうございます」
俺はニッコリと返した。
「お前、絶対足引っ張るんじゃねーぞ!」
盾役のジャックは俺を指さしてキツイ声を出す。
40歳近い、髪の毛がやや薄くなった筋肉ムキムキの男は、どうやら俺の参加を快く思っていないらしい。
「気を付けます」
俺は素直にそう答えた。
「そんな事言わないの、いつもお世話になってるんでしょ?」
エレミーは俺の肩に優しく手をかけ、フォローしてくれる。ふんわりと柔らかな香りが漂ってくる。胸元が開いた大胆な衣装からは、たわわな胸がのぞいており、ちょっと目のやり場に困る。
ジャックはエレミーのフォローにさらに気分を害したようで、
「勝手な行動はすんなよ!」
そう言いながら、先頭をスタスタと歩き出してしまう。
どうやら俺がエレミーと仲良くなることを気に喰わないみたいだ。困ったものだ。
一同は渋い顔をしながら早足のジャックについていく。すると、
カチッ
と、床が鳴った。
何だろうと思ったら、床がパカッと開いてしまう。ワナだ。
「うわぁぁぁ」「キャ――――!!」「ひえぇぇ!」
叫びながら一斉に落ちて行く我々。
エレミーがすかさず魔法を唱え、みんなの落ちる速度はゆっくりとなったが、床は閉じてしまった。もう戻れない。
「何やってんのよあんた!」
ゆるゆると落ちながら、ジャックに怒るエレミー。
「いや、だって、あんなワナ、昨日までなかったんだぜ……」
しょんぼりとするジャック。
「これ、どこまで落ちるかわからないわよ!」
いつまでも出口につかない縦穴に、みな恐怖の色を浮かべている。
「まぁ、終わった事はしょうがない、なんとか生還できるよう慎重に行こう」
リーダーのエドガーはしっかりと強く言った。さすがリーダーである。危機の時こそ団結力が重要なのだ。
しばらく落ち続け、ようやく俺たちは床に降り立った……。すると、床についた瞬間バァッと明るい景色が広がった。
いきなりのまぶしい景色に目がチカチカする。
なんと、そこは草原だった。ダンジョンにはこういう自然な世界もあるとは聞いていたが、森があり、青空が広がり、太陽が照り付け、とても地下とは思えない風景だった。
「おい、こんなところ聞いたこともないぞ! 一体ここは何階だ!?」
ビビるジャック。
「少なくとも地下40階までには、このような階層は報告されていません」
僧侶のドロテは丸い眼鏡を触りながら、やや投げやり気味に淡々と言った。
一同、無言になってしまった。
地下40階より深い所だったとしたらもう生きて帰るのは不可能、それが冒険者の間の一般的な考え方だった。
パーティーはいままさに全滅の危機に瀕していた。
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