第25話3-6明るみ
「そんな……そんな」
僕は無念さで脱力しました。
「どうした、、悲しそうな声を出して」
「だって、両目が無いのですよ」
「そうか、すまない。ドペカの義手とかを戻せる可能性がなくなったのか」
「そこはどうでもいいのです」
「では、ここから脱出する邪魔になるかもしれないことか?もし邪魔になるのなら、私のことはおいて行ってくれ」
「どうして僕のことばかり考えるのですか?自分のことを考えてください」
「それは、君が家族だからだ」
「家族……」
「そうだ。私は家族というものがどういうものか忘れてしまったし、未だによくわからないが、ドペカと一緒にいることは嬉しく感じたと思うよ。だから、恩返しとしてドペカにはこれからも幸せに生きて欲しいんだよ」
僕は唇を緩めてしまいました。こんな生きるか死ぬかの瀬戸際なのに、不謹慎にも思わず嬉しくなりました。僕は返事します。
「僕もご主人様にはこれからも幸せに生きて欲しいです。
ご主人様の上から炎をまとった天井の一部が落ちました。
「ご主人様!」
足元に炎だけが見えます。ご主人様を探そうにも、炎と熱風と黒煙が払い除けてきます。僕の上からは次々とものが炎とともに落下してきます。
そうか、死ぬのか。
僕の頭の上に炎が落ちてきました。人生の終わりの猶予のようにゆっくりゆっくり落てきました。僕の目の前は真っ暗になりました。
「大丈夫か、ドペカ」
その暗闇の正体は御主人様の焦げた体でした。僕の体を抱いて落下物から守るご主人様は炭みたいな匂いを漂わせていました。
「僕よりも、ご主人様が大丈夫ですか?」
「私は、大丈夫ではないな」
僕の体に崩れ落ちるご主人様。視界は明快になっていき、地獄の業火が広がっていました。見えない方が良かったと思う世界だ。
「しっかりしてください」
「それは無理な相談だ。私はもう虫の息だ」
「一寸の虫にも五分の魂、それだけ息ができれば十分です」
僕はしっかりと御主人様をつかみました。しかし、つかんだ部分は脱皮のようにずるむけて、空を掴む形になりました。
「ほら、もう私のことは諦めて。ボロボロだ」
「何を言っているんです。諦めませんよ」
再び強く僕はご主人様をつかみました。今度はつかみきりました。
「どうしてそこまでして私を助けようと」
「ペットは飼い主に似るんですよ」
「ドペカはペットではないよ、家族だよ」
「――子供は親の背中を見て育つのです」
僕はご主人様の重さを背負いながらドアに歩みを進めました。炎の膜をかき分けて突き進む足元にはご主人様の足を引きずる音がします。
「私をおいて逃げるんだ」
「黙っていてください」
ドアは閉まっていました。石のドアノブは熱で形をスライム状に変えていました。回しても効果はなさそうです。
「どうした、立ち止まって。重いのなら私を捨てて行ってくれ」
「そうじゃないです。ドアが邪魔なんです」
「鍵が掛かっているのか?」
「それどころじゃないです。熱でドアが変形しています」
「なるほど、鍵も機能していないわけですか」
「どうしましょうか?」
ご主人様はしばらくの無言を経て、こう答えました。
「蹴飛ばすしかないな」
「力技ですか。しかし、僕は非力ですよ」
「大丈夫だ。この熱が手伝ってくれる」
「接着剤が溶けるのですか?」
「それもあるが、熱膨張だ」
「熱膨張?」
「開かないビンのフタを熱したら開けやすくなる雑学があるだろ?熱すると密閉空間の中の空気が多くなるからだ。今のこの部屋は熱せられたビンみたいなものであり、ドアはフタと同じだ。だから、ドアは開きやすいはずだ」
「わかりました」
僕は軸足の拇指球に力を込めて、利き足を振りかざしました。
「ただ、急に開けると爆発が起きるから気をつけるんだ」
「え?そういうのはもっと早く……」
爆発がドアを吹き飛ばしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます