第24話3-5真っ暗5

「何をしている!?」

「何って、ゴミを蹴っただけさ」

「ご主人様に、よくも」

「ふん」

 僕は腹を蹴られた。

「俺は優しいから、人間にはこの程度にしておいてやる」

 僕は何度も蹴られていました。今回は長く、何回も何回も。途中から痛みよりも冷静に殴られた蹴られた回数を数えていました。108回でした。

「……それはありがたい」

「ふーふー。この辺で勘弁してやる」

「……本当にありがたい」

 僕は体内に血が流れたらダメなところにも流れていることを感じました。平たく言うと内出血ですが、外出血もひどいものだと思います。目隠しの影響で確認できないのですが、今までの奴隷生活から予測はできます。

 そのものが離れていく足音。

 そのものがドアを閉める音。

 そのものが部屋の外で何かをする音。

……

「……ご主人様、大丈夫ですか」

「あぁ、君たちの理屈は理解できたよ」

「そっちではなく、体ですよ。蹴られていましたよね」

「そっちか。それも大丈夫だ。心配してくれてありがとう」

 御主人様の声はかすれていました。恐れく大丈夫ではないだろう。僕は自分の体の痛みだけでなく、ご主人様を助けられなかった心の痛みで吐きそうになりました。

……

「ご主人様」

「なんだい?」

「そういえば、焦げ臭くないですか?」

「そうか?気にならないけど」

「そうですか」

……

「ご主人様」

「なんだい?」

「そういえば、パチパチと燃える落としません?」

「そうか、気にならないけど」

「そうですか」

……

「ご主人様」

「なんだい?」

「そういえば、さっきから炎にあぶられているように暑いのですが」

「そうか、気にならないけど」

「そうですか……って、気にしてくださいよ!」

 僕は飛び起きそうな気持ちでした。しかし、縛られているので飛び起きることはできませんでした。僕は無駄に動いたので体中を電流が走ったように無駄に痛めました。

「気にすることなのか?」

「そうですよ。明らか部屋が燃えてますよ。焦げ臭いですよ」

「そうか?分からないが」

「鼻でも詰まっているのですか?」

「そうかもしれないな」

「そんなのんきに……それよりも、どうしましょう」

「これはチャンスだよ、ドペカ」

「何か策があるのですか、ご主人様」

「そうだよ。私が言ったことを覚えているかい?」

「何でしたっけ?」

「私たちを縛っているものを燃やすのだよ」

「そういえば言っていましたね」

 何回も冗談のように言っていたので腹たった記憶があります。

「でも、危険ですよ、流石に縛っているものを燃やすのは」

「でも、背に腹は変えられないだろ?」

「そうですが、いや、そうですね。覚悟します」

 僕は深呼吸しました。

「ただ、問題がある」

「問題?覚悟は決まっていますよ」

「僕たちを縛っているものは、たぶん石の鎖だから燃えない」

「そこからですか、問題は!?」

 僕は覚悟を失った。

「うーん。盲点だ」

「どうして気づかなかったのだ、僕は今まで?」

「まぁ、視覚を遮られたら判別しにくくなるというからね」

「それよりもどうしましょう。石なら燃やすことはできないです」

「いや、大丈夫だ」

「何が大丈夫ですか?石ですよ?」

「接着部分だ。接着剤を溶かすんだ」

「なるほど」

 僕は炎がありそうな方向に体を縛っているものを向けました。炎と思われる熱さの膜はすぐに僕を覆い、僕は死を覚悟しました。肺を焼かれないように呼吸を止めましたが、窒息死より焼きに燃えて死ぬのではないかと思考を止めます。

 僕はこの時に、過去の拷問を思い出しました。自分も焼印を押されたりしてきましたので、熱さには若干の免疫がありました。僕は焼き爛れていく肌に懐かしさを感じながら耐えていました、そろそろ限界でした。

 と、縛っていたものが解けました。

「んんっ!」

 僕は炎から抜け出すと、目隠しなども全て外しました。目がえぐれるほど痛く眩しさに抵抗していました。僕は思わず目を閉じました。

 閉じたまぶたの先には闇夜が続くはずですが、赤か黄色かの証明が薄く照らしていました。僕は少しずつ目を開幕させました、嫌な予感を胸に抱きながら。

目の前には頭を覆い被る波のような炎が揺らめいていました。黒煙が隠す部屋の中には鳥の肉や馬の肉が吊るされていました。どうやら、肉の保管場所のようです。

「ご主人様、大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だ」

 御主人様の目から血が溢れていました。

「どうしたのですか、その目は」

「くり抜かれたようだ」

 視神経が垂れていました。僕は吐き気を催しました。人間の目がくり抜かれているところは何回も見ましたが、メドューサのは初めてです。

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