第23話3-4真っ暗4
「……悪法も法のことですが」
「根性あるな」
「悪法はそれはそれで統制がとれているという利点があります。僕が思うに、一番危ないのは統制がない、ルールがないことです。何でもありになったら困ります」
「悪法で困る人はどうするんだ?」
「それはどうしようもないですし、問題だとも思います。しかし、ルールがなければ本来は困らない立場のものも困ります」
「どういうことだ?」
「例えば今の状況なら、人間は困りメドューサは困らないということですよね。だから、人間にとって悪法だと」
「そうだ。悪法だ」
「しかし、このルールがなければ、何でもありになったら、人間だけでなくメドューサも困ったことになる。このルールがある限り、少なくともメドューサは困らずに生きていける。だから、その分必要だ」
「おまえは何を言っているんだ」
そのものは声を落とした。
「だから、メドューサの幸せの分はいい法律だと」
「そこまでボケたのか、お前は!」
「ボケてはないです。みんなの幸せのためです」
「どうしてメドューサのために我々人間が不幸にならないといけないのだ。どうして俺たち人間が泣いている時にメドューサが笑うことが出来るのだ。そんなことは不平等だ。不公平だ、不要なことだ」
「それはあなたの価値観でしょう?」
「うるさい!メドューサだけが苦しめばいいんだ。今までの恨みだ。ぶっ殺していまえばいいんだ、そんなやつら」
「ダメです。最大多数の最大幸福です」
「また昔の偉人の言葉を」
「そうです。僕の言葉を聞かないでしょ?だから虎の威を借りる狐です」
「でも、最大多数の最大幸福で悪くなるところはいくらでもある。いわゆるポピュリズムがそうである。多くの残念な人々を先導して悪い方向に導いて、最大多数の最大不幸にすることもあるんだ」
「人はそんなに馬鹿ではない」
「馬鹿なんだよ。だから、今まで不幸だったんだ。それを俺たち本当に偉大なる人間が導いていくんだ、ありがたいだろ」
「それはエゴだ。それによって困っていないものも巻き込まれるのだよ」
「この世界に生まれた時点で既に巻き込まえているんだ。いまさら巻き込まれたもへったくれもないだろ。口だけなら何とでも言える」
「行動に起こすにしても、やっていいことと悪いことがあるだろ」
「それは誰が判断するんだ?人間か?メドューサか?神様か?お前のような口だけの奴が一番腹立つんだよ」
「口だけではない。きちんとこの世界のシステムの中で生きている」
「それは生きていると言わない。生かされているだけだ、奴隷として」
「奴隷で結構。あなたの言う新しい世界には何もない」
「くそがっ!」
僕は足に蹴られた衝撃を受けました。
「……」
「今の奴隷世界から自由になりたいと思わないのか、あぁ?」
「今の世界から自由になっても、また何かに束縛されたくなるだけだ」
「何を分かったふうに」
「いや、実際に見てきたよ。主人から解放された人間奴隷が大変な目にあっているところを。ほかに生きていくところがなくて野垂れ人でいる」
「それは、そいつがバカだからだろ」
「他にも、結局別の主人に奴隷として自分を売り込む人もいた。野垂れ死ぬよりはそのほうがいいという判断だろう」
「そいつはアホだ」
「そして、野垂れ死ぬおそれがないもの、一生死んだ主人の財産で細々と暮らしていけるような人でさえも、結局奴隷として自分を売っていた。自分に残された莫大な財産を放棄してまでだ。すごいだろ」
「それは作り話だろ?」
「それが本当の話なんだ。それで僕も不思議に思ったから理由を聞いたんだ。そしたら、何かにすがりたい、だって」
「なんだそれ?」
そのものが理解に険しい顔をしていることは想像できた。
「僕もわからなくてよく聞いてみたら、その人は何かに束縛されていたいんだってさ。奴隷生活で主人にすがっていたから、それに近い生活でないと不安で不安で仕方がないようです。そういう人もいるのです」
「それは、極論だろ」
「極論なら、あなたもそうだろ」
「うっさい」
僕は左腕に痛みを感じた。
「……しかし、自由になりすぎたら何かに束縛されたい人がいるのは本当です」
「だったら、メドューサではなく神様でいいだろう」
「それでもいいと思います。しかし、神も仏もない世界ですよ、奴隷にとっては。だからあなたは革命するのでしょう?」
「だったら、俺や俺たちが作った世界に束縛されたらいいだろ」
「でも、それは何も変わっていないですよね」
「あぁ?」
威圧した口調。
「今までのメドューサのいたところにあなたたちが入れ替わるだけでしょ?そうなると、結局奴隷の人はほとんど変わらない」
「俺たちは奴らとは違う。福利厚生とかきちんとする」
「今の奴隷システムもきちんとしているところではきちんとしています、少なくとも表向きは。それと同じように隠れて問題が起こるでしょ」
「それは種族の差別からくるもんだろ?人間同士なら大丈夫だ」
「そんなことないでしょ。人間同士でも争いは起きる。どうせあなたは自分の気に入らない人には虐げるでしょ、奴隷のように」
「そんなことしない。俺が憎むのはメドューサであり、この世界のシステム」
「でも、僕を今虐げている」
「くっ」
僕は頬を蹴られたようだ。
「……言っているそばから虐げる」
「お前はメドューサに洗脳されている。だから、ショック療法で治してやろうとしただけだ、ありがたいと思え」
「詐欺の常套句みたいですね」
「殺人鬼になってもいいんだぜ」
「もう何人も殺していそうですけどね」
「そうだ。お前みたいなきかん坊は何人か殺してきた」
「……なるほど、人間もメドューサも変わらないようですね」
「あんなのといっしょにするな」
「僕は今まで見てきたのです。同じ人間同士が争っているところを。僕は最近見てきたのです、同じメドューサ同士が争っているところを。僕は見てきたのです、僕を守ってくれるメドューサがいるところを」
「メドューサが人間を守るわけないだろ」
「それはあなたが経験ないだけだろ。僕も今のご主人様が初めてでした」
「まさか、そんな例外を間に受けるつもりか?ほかのメドューサも人間を守ってくれると?とんだ理想主義者だ」
「そんなことは思っていない。しかし、そういうメドューサもいると例を出しただけだ。そして、そんなご主人様を僕は守りたいのです」
「そんなに守りたいのなら、守ってみろ」
近くで何かが蹴られる音。僕は痛くない。
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