第22話3-3真っ暗3

「ほぁ、目を覚ましたようだな」

 低い声でした。男でしょうか?

「何が目的だ?」

「勝手に喋るな!」

 ご主人様が叩かれる音。

「ご主人様、大丈夫ですか?」

「はっ、主人の心配か。よく教育されたことだ」

「だれだ?ご主人様に何をした?」

「誰かは言わない。そして、お前の主人を殴っただけだ。

「どうして殴った?」

「どうして?そんなことに理由なんか要らないだろ?殴りたいから殴ったんだ、それ以外に何があるんだ?」

 理不尽な理由でした。

「そんなことをしてもいいと思っているのか?」

「別にいいだろ。どうしてお前みたいな人間がそんなことを言う?」

「どういうことだ?」

「人間はメドューサから理不尽な暴力を受けてきたはずだ。それがどうして理不尽な暴力に今更抵抗感がある?」

「いつまでも抵抗は忘れません」

「それは立派な反骨精神だな。しかし、それはそれとして、どうしてご主人様がやられたことに抵抗するのだ?」

「?……主人の安全を守るのが仕事ですから」

「奴隷根性というやつか。骨の髄まで染み込みやがって」

「何を?」

 少しイラッときました。

「今までメドューサの奴隷に虐げてきたのなら、それに対して反抗してもいいのではないのか?暴力をし返してもいいのではないのか?」

「そんなことには興味ないです」

「興味ない?はっ、そう言う言葉で今までも逃げてきたのだろう?」

「逃げてきた、だと?」

「そうだろ?今まで従い続けてきたことがそうだろ?逃げだ」

「逃げていない。頑張って生きてきた」

「頑張ったって、このメドューサと人間の隷従関係の世界の中の話だろ?そんなものがんばったに入らない」

「じゃあ、何をしたら頑張ることになるんだ?」

「この世界のシステムを変えることにだ」

「?」

 僕は首をひねった。

「今のメドューサと人間との間にある主人と奴隷との関係を変えることだ」

「それはつまり?」

「革命だ。メドューサを皆殺しにして人間が世界を牛耳るのだ」

 そのものは声高々に宣言した。

「――もしかして、あなたは人間?」

「そうだ。革命を起こすためにいろいろしている」

「革命なんて、そんなこと聞いたことない。信じられない」

「そりゃあ、革命運動なんてすぐに弾圧されて情報規制を敷かれる。聞いたことがないのは当然だろう」

「でも、そう言っているだけの犯罪者かもしれないだろ」

「そういう馬鹿者もいるのは事実だ。暴れたいだけの馬鹿が」

 そのものは吐き捨てるような言い方でした。

「あなたがそうではないという証拠がない」

「確かにない。しかし、そこはたいした問題じゃない」

「どういうこと?」

「我々が正しいのであって、それに逆らうやつは皆殺したらいい」

「――めちゃくちゃな考えですね」

「そうさ。めちゃくちゃさ。でも、それくらいやらないと今のめちゃくちゃな世界を変えることはできない」

「だからといって、それは関係のないものも巻き込む考えですよ」

「関係ないもの?そんなものはいないだろ。メドューサは例外なく皆が害だし、人間は例外なく被害者だ。関係ある」

「でも、優しいメドューサもいる」

「どうした?今の主人に洗脳されているのか?」

「がはっ」

 何かが蹴られる音と御主人様の痛がる声。

「何をしている!」

 僕は怒鳴ったが、体は動かないので声が小さい。

「はっ、情けない。メドューサ側に取り込まれたのか。それとも、脅されているのか?どっちにしろ愚かな人間だ」

「どっちでもなし、愚かでもない。自分の出来る範囲で頑張るだけだ」

「それが今の奴隷システムだろう?変えていかないと今後ダメだろ」

「そこでシステムを変えても、新たな問題が起こるだけだ。今ある問題に立ち向かいながら、少しずつ変えていかないと」

「そういって何が変わってきた?何百年も何も変わらず、人間は虐げられたままだ。今こそ変えないとダメだ」

「そういって失敗した人が多いのでは」

「そうだ。皆は失敗してきた。これも失敗するかもしれない」

「では、どうして続けるのですか?」

「やり始めてしまったからだ。そう今更止められない」

「そんな理由ですか?」

「そんな理由?大切なことだろ。過去の偉人たちが未来の人のために犠牲になってきたんだ。それをないがしろにすることのほうがよくないだろ」

 そのものは声を少し荒らげました。

「そんなかっこいいものですか?やっていることは犯罪ですよ?」

「犯罪?そんなメドューサが作ったルールに何の意味がある。犯罪と決め付けているそのルールのほうが犯罪だ」

「悪法も法ですよ」

「昔の偉人が言った言葉か。しかし、そんなものは便利なように歪曲されただけだろう。実際は言っていない場合も多いはずだ」

「言っていないとも限らないです」

「仮に言っているとしても、脅されて言わされている可能性もある。取り調べでもよく問題になっているだろう?」

「そんなこと、あなたの妄言だ」

「妄言で結構。どっちみち俺はあんな昔の人の言うことなんか認めない。何が悪法も法だ、ばかじゃないか、もっと抵抗しろ」

 そのものは罵倒していた。

「過去の偉人たちは大切にするのではなかったのですか?」

「あんなやつ偉人でも何でもない。ただの馬鹿だ」

「自分に合わない人は排除するのか」

「自分に合わないんじゃない。全ての人類に合わないのだ」

「僕はそこまで変とは思いませんが」

「では、お前は人類じゃない」

 僕は腹を蹴られました。

「つっ!」

「お前は敵だ。敵だ。敵だ!」

 さらに追い打ちをかけるように蹴られ続けた。

「……つっ」

「何か反論があれば、言えばいい」

「……ではいいますけど」

 僕は乱れた息を整えていました。

「さっさと言えよ」

 さらに重い一発が腹に入りました。

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