第21話3-2真っ暗2
「――それで、ドペカではなくて私が目的の場合だよね。それは僕の特殊な能力が目的だろうね、十中八九」
「この前の水族館の時のようにですか?」
「そうだよ。珍しくもなんともない。今までによくあったことだ」
「よくあったのですか」
「そうだ、嫌になるよ」
ご主人様は溜息を吐きました。
「――大変ですね」
「ドペカに比べたらたいしたことないよ。話を聞いてそう思ったよ」
「そんなことないですよ。ご主人様に比べたら」
「いやいや、ドペカに比べたら私のほうが」
「いやいや、ご主人様の方が」
「いやいや、ドペカが」
「いやいや、ご主人様が」
……
13分経過
「時間の無駄でしたね」
「そう、私は楽しかったよ」
僕は疲れていましたが、ご主人様は疲れ知らずで楽しそうでした。
「ところで、どうやって脱出します」
「うーん。目隠しがなければ何とでもなるんだけどな」
「石を生物にするのですか?」
「生物に縛っているものをちぎってもらうなり、私たちを運んでもらうなり色々とできるのに、目が見えないとは不便だな」
「そうですね。そういう能力がない僕でも不便に感じるのに、ご主人様なら尚更ですね」
「こうなったら僕は役立たずだね」
「それは言いすぎですよ。知恵をください」
僕は早く助かりたい。
「さて、この状況をどうしようか。視覚以外は大丈夫そうだが」
「といっても、動けないですけどね」
「匂いや音で判断しようか」
「と言いましても、臭い匂い以外わかりません。何の匂いかもわかりません」
「この匂いは」
ご主人様が鼻でクンクン嗅ぐ音がします。
「わかりました?」
「ここ、たぶん鳥小屋ね」
「わかるのですか?」
「私、鳥アレルギーだから肌がかゆくなるの」
「匂い関係ないじゃないですか」
僕は首を落としました。
「関係あるわよ。鼻からアレルギーになるものを取り込むのよ」
「別に口からでもいいと思います」
「食べたくないのよ」
「いや、口呼吸です」
「口呼吸といったら、良くないらしいわ」
「……何の話です?」
「例えば、口呼吸をすると口が臭くなるらしい。口の中が乾燥するからだとか、口の中にごみが入るからだとかいわれている。乾燥したら臭くなるというのは、サビ臭くなるということだ。どちらも酸素が関係しているからね」
「理科の話ですか?」
「サビというのは酸素がくっついたことをいうんだよ。乾燥は酸素がくっつくこと以外にも理由があるけど、やっぱり関係すところもあるんだよ。というか、酸素があるところに生きている私たちはどこに行っても酸素と関係ある事象に出会うんだよ」
「そうですか、その話はこの状況に関係が?」
「ないけど話したいから言うよ」
「はぁ」
マイペースなご主人様だ。
「酸素はどこにでもあって、酸素がくっつくということはどこにでも起こることだよ。そして、それが過激になったら燃えるということなんだ。燃えるというのは酸素がくっつく現象のことをいうんだよ、知ってた?」
「知らないですけど」
「それで思うんだ、私たちが縛っているものとかが燃えたら動けるのになーっと」
「どうしてそうなるのですか?」
僕は燃えたくなかった。でも、身動きできない。
「だって、縛ったものが燃えたら解放されるだろ?」
「いや、そうじゃなくて、話が飛躍していません?」
「飛躍しているよ。酸素の話から燃やす話にね」
「自覚していたのですか」
「そうだよ。ところで、脱出するために燃やしても正当防衛になるのかな?」
「だから、やめてください」
本気でやりそうだ、このご主人様は。
「でも、燃やす手段がないから無理だな」
「だったら初めから言わなくても」
「冗談を言って和ませようと」
「冗談じゃなかったでしょ?」
「……」
「本当に冗談じゃなかったのですか!?」
僕は相手するのが面倒くさくなってきました。
「こういう時、炎の能力者がいたら楽なのに」
「どこまで炎に執着しているのですか?刃物や怪力の能力者でもいいじゃないですか」
「そんな能力者いないでしょ」
「炎の能力者もいませんけど?」
「そういえば知っている?大根って白色じゃないないらしいよ」
「大根って、あの白い野菜ですか?」
話が急に変わった。顔が見えないからどういう意図かよけいにわからない。
「だから、白くないんだって、大根は」
「でも、白いですよ」
「それは、そういうふうに見えるだけ」
「?」
「ほら、よく思い出して。鍋とかに入れた大根って白くないでしょ?」
「ええぇっと、あまりそういう豪華な食事は経験がないので」
「それはごめん」
冷静に謝られた。
「でも、鍋とかに入れた大根って、何色なんですか?」
「透明なんだよ。白じゃなくて透明。だから不思議に思っていたんだよ」
「どっちなんですか、大根の色は?」
「透明だよ。僕たちが白だと思っていたものは透明だったんだ」
「それは、結局の理由は何ですか?」
「透明だけれども、光の屈折の関係で白く見えるだけだって。ほら、何もない空中に水滴の関係で虹が見えるのと同じものだよ」
「虹みたいなものですか、あの白は」
僕は何となく理解できました。
「だから思うんだ」
「何をです?」
「光の屈折で燃やせないかなって」
「どうしてそうなるのですか!?」
僕は全く理解できませんでした。
「だって、体を縛っているものを燃やしたら逃げられるよ」
「だから、燃やす以外に何かあるでしょ?」
「にしても、どうしようもないな」
「――そうですね」
僕は寝転がりながら動けませんでした。手足は結ばれ上に腕の上から体ごとぐるぐる巻きにして直立不動の形で寝転ばされているので、尻は痛くなかったです。座らされていたら大変でしたが、それは過去のいい思い出です。
まぁ、地面に結び付けられているので背中が痛いですが。
「――どうしようもないから、溢れ話して時間を潰そうか」
「今までもまぁまぁそうでしたけど」
「嫌かい?」
「――いいですけど。何かヒントあるかもしれないし」
「そうだね、学問についていいかね?」
「ご主人様は学者なんですね、そういう話が好きだなんて。いいですよ」
「――学問とは、どうやって燃やすのかを考えるところから始まりました」
「嘘つかないでください」
僕は聞くだけ損だったとすぐに思いました。
「嘘ではない。火の発明によりすべてが始まった。そして、その火の中に神様を見出したのだ。そして、神様の存在を知るために神学や宗教が始まったのだ」
「そうなのですか?」
「そうだ。やがて神の探求を宇宙、数字、言葉などの様々なところに求めるようになったのが、今の様々な学問だよ。天文学、数学、言語学などがそうだ」
「やっぱり落ち着かないです、この状況でその話をされても」
すると、遠くでドアの開く音がしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます