第20話3-1真っ暗


 目を覚ますと真っ暗でした。

「――どういうことだ?」

「その声はドペカか」

「その声はご主人様?」

「そうだ。ここはどこだ?」

「わかりません。僕が知りたいくらいです」

「なるほど。それは困った。体も動かない」

「僕も動きません」

「これは前代未聞だ」

 ご主人様は静かに嘆いていました。

「経験ないのですか?」

「ある訳無いだろ。ドペカもないだろ?」

「拷問で経験があります」

「あるのか?」

 ご主人様は聞きました。

「ええ。そのままボコボコにされました」

「ボコボコというのは、具体的に何だ?」

「殴る蹴る、つねる切る、剥ぐ抜く、様々です」

「それからは?」

「解放されたと思ったら再び拷問、くじで殺される人を決める、殺された方が楽だと発狂するものを生かす」

「他には他には?」

「――目を輝かせていません?」

 御主人様は食いついてきた。

「これは失礼。知らないことには興味がないので」

「興味ない?」

「興味ありまして」

「どういう言い間違いですか?」

「興奮してつい」

「ついじゃないですよ」

 僕は溜息を吐きました。

「とにかく、この状態は拷問に近いです」

「ということは、私たちも?」

「そうかもしれませんが、ちがうかもしれません」

「他にはどういう可能性が?」

「拘束とか、いたずらとか」

「いたずら?そんな子供みたいなことを?」

「あくまでも可能性ですよ。たぶん違います」

「どうして言ったんだ?僕をからかっているのか?」

 口調からして純真な興味探求ですが、少し苛立ちました。

「すみません。いたずらは忘れてください」

「そうか。忘れる」

「それで、可能性が高い拘束の方ですが、もしそうなら目的は何なのでしょう?」

「私かドペカかというところからだね」

「そうです。仮に僕の場合は、理由が分かりません。特にメリットはありませんし、拷問目的ならその場で殺せばいいだけです」

「そうしたら、足がつくのでは?」

「どうせ人間に生きる権利なんかないので、うやむやにされるだけです」

「そんなものかい?」

「そんなものです。メドューサ以外はゴミも当然です。そんなシステムです」

「嫌だなぁー。だから私はメドューサが嫌いなのだよ」

「厭世主義ですか?」

 僕はどこかで聞いた難しい言葉を発しました。

「そうだね、厭世主義かもしれないね。まぁ、私に限らず多いよ、そういうものは。特に勉強してきた頭でっかちには多い印象だ」

「でも、ご主人様は違うと思います」

「それはフォローというものだね。このタイミングなら確実に」

 僕は言葉を飲み込みました。

「フォローありがとう」

「フォローではないですけど、とんでもないです」

「正直が一番なのに」

「でも、頭でっかちだと仮にしても、それは悪いこととは限りません」

「どういう理由で?」

「行動することはたしかに大切だと思います。不言実行だとか、やらない善よりやる偽善とか、口だけなら何とでも言えるとか言うのは事実です。しかし、そればかりがピックアップされて口だけのものが悪いと決めることは良くないと思います」

「一般論に反論するのかい?」

「メドューサの世界の理かもしれませんが、その理の外にいる人間の立場からしたら理でも何でもないです。メドューサにとって便利な言い逃れであるだけです」

「ははっ。人間らしい意見だ」

 ご主人様は吹き出していました。

「笑うことですか?バカバカしいですよね」

「いいや、貴重な考え方だよ。私は自然とメドューサたちとしか話してこなかったから、ファッション厭世主義でしかなかったようだ」

「ふぁ……なんですか、それ?」

「ドペカほども世の中を嫌っていなかったということだよ。頭でっかちさ」

「そんなことないですよ。頭でっかちだなんて」

「そういえば、頭でっかちのメリットをまだ聞いていなかったな。何がある」

「簡単です。行動しないから、人間をボコボコにしないんですよ」

「なんだいそれ、バカバカしいねぇ」

 ご主人様は少しご機嫌でした。

「すみません。バカバカしいですよね」

 僕は耳を赤くしました。

「いいや。そういうバカバカしいことが真理であり大切なんだ。それでいいと思うよ。むしろ、そういうものを求めていた」

「そうですか」

「さて、次はどんな話をしようか」

「この状況の脱出方法を話しましょう、そろそろ」

 僕は話を戻したかった。

「脱出方法?そんなことでいいのか?」

「そんなことでいいのです」

 そんなことって……

「うーん。わかったよ」

「ところで、僕が目的ではないという話をしていましたが……」

「そんな話だっけ?」

「そうですよ。かなり脱線したから忘れていましたがね」

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