第26話3-7真っ暗な話
「――死ぬかと思いましたよ」
「私が盾になったようだね、結果的に」
僕はご主人様に覆われる形で床に倒れていました。後ろからの爆風に押される形で倒れ込んだようです。背中に熱さはありません。
僕は周りを見渡しました。石による狭い通路が上に向かって伸びていました、階段が星の光で斜めに切れる影を作っていました。
「地下だったのか」
「匿ったり拷問するにはちょうどいいね」
「そうですね。経験あります」
「じゃあ、私は奴隷の経験をしたということか」
「そうですね。最悪でしょ?」
「いいや、最高だ。ドペカと価値観を共有できる」
地下のようで、上に行くしかありません。僕はふらつきながら、何度もこけながらも地下からはいあがろうと進みます。下からは熱と煙が迫ってきており、僕たちを地獄に引っ張ろうと存在感を伸ばしてきます。
僕はその魔の手から逃げるように1段1段天に近づいて登ります。地獄から天国に逃げるように苦労します。現世で苦労して徳を積めば天国に行けると聞いたことがありますが、今がそれを実行する時なのでしょうか?
僕が地上に出ると、光が照っていました。
「よう、よく生きていたな」
星明かりの中に僕たちを囲む電灯の数々。周りは何もなく、だだっ広い荒野の中に僕たちが出てきた穴があるのみでした。
「あなたは?」
「さっきまでお前たちをいたぶっていたものだ」
暗くて見えにくいですが、跳ねた髪型でした。
「その節はお世話になりました」
「あぁ、ところで、どこに行くつもりだ?」
「あなたたちがいないところです。具体的には決めていないですけど」
「だったら、あの世に送ってやるよ」
銃を構える音が聞こえました。
「どうして火をつけたのですか?」
「お前らを殺すためだ。それくらいわかるだろ?」
「でも、それなら、火をつける前に確実に殺すでしょ?どうして殺すことなく火をつけたのですか?実は生かしてくれたのですか?」
「――お前、踊り食い、って知っているか?」
「火で焼いて食べる方法ですよね?苦しんでいる姿が踊っているみたいだから」
「そうだ。それと同じだ。お前たちが苦しんでいる姿を見るのが楽しいんだ」
「それは良かった。では、お礼として助けてください」
「食べ物を残すのは良くないだろ?死ね」
四方八方から銃弾が飛んできた。地下からの煙と発泡の煙が合わさって、僕たちの逃げ場を囲っていました。頭上だけが煙をどけて、星が綺麗でした。
僕が倒れこむ視界に、ご主人様が銃で打ち込まれている姿が見えました。体は小刻みに銃の音と連動し、血がしぶきのように散っていました。そして、そのまま僕の上に倒れこみましたが、僕は重さも痛みも感じませんでした。
「はっ、奴隷の身代わりになるなんて変わったメドューサだ」
そう吐き捨てられたご主人様は、僕に小声で呟きました。
「大丈夫か、ドペカ?」
「はい、大丈夫です、ご主人様」
「ごめんね、私のせいでこんなことになって」
「いいんです。僕は幸せに死ねます」
「ダメだよ、ドペカは死んだら」
「でも、もう無理です」
周りでは再び住を込める音が聞こえる。
「私、研究していたことがあるのだ、聞いてくれ」
「研究結果ですか。こんな時までも、どうしようもない方ですね」
「僕が研究していたことは、石を生物にすることだ」
「それはわかります。自分のことですものね」
「そうなんだが、少し違う」
「何が違うのですか?」
「君の右側の義眼や義足を治す方法も考えていたんだよ」
「どこまでもお優しい」
「それで、これは急なことなんだがひとつだけ可能性を感じることがあったんだ」
「それは何なのですか?」
「僕がその石と一体化するんだよ」
「――何を言っているんですか?」
「僕の目の力ではドペカの石を生物にすることができない。しかし、僕がその石と一体化して少しずつ生物に変えていくことは可能かも知れない」
「あまりにも突拍子ないことですね。どうやって石と一体化するのですか?」
「僕はね、元々は石だったんだよ。それを先代のこの能力者が生物に変えてくれたんだよ」
「……え?」
「私は先代と同じように受け渡す方法を知りたかったんだ。でも、先代がいたという知識しかなく、自分が石から生物に変えてもらった記憶しかなく、方法がわからない。困ったものだよ」
「どうして他に受け継がせようと」
「もう生きることが嫌だったんだ。よく迫害されてね」
「……」
「そして、たまたま訪れたところで、ドペカの石の義手とかを見た時に、何か惹きつけられるものを感じた。そして、その石を生物にできなかったことに興味を持った。これは運命めいたものだと感じて、君に力を授けようと思ったわけだ」
「そんな、急に、頭が、整理できない」
「君を死なせない」
弾丸の嵐
「――はっ、2体仲良く死ねてよかったな!……ん?」
砂煙の中を、僕は立ち上がりました。
「はっ、生きていたか。性懲りのない」
煙の中、僕は相手に向かい歩き始めました。
「はっ、死ね」
煙の膜を取り払うと、僕の右目が石でなくなっている様子を相手に見せました。そこから流れる涙には周りは気づいていません。僕は、あらゆるものをその右目でにらめつけました。
発砲音とともに向かってきた石の弾は全て小さな生き物に変わりました。そして、そのまま発泡したものを襲いました。周りは悲鳴の嵐。
「そ、それは?」
「僕の能力だ」
「いや、それはお前の主人の……」
「そして、御主人様の能力でもある」
「どうして、お前が……?」
「これは、僕と御主人様の能力だ」
怯え震えるそのものの周りの石を、化物に変換させました。それらは無慈悲にもそのものの目や首や腸を食いちぎっていました。僕はそれを見ながら、喪に服していました。
――
それ以降、世の中では革命が起きました。人間によるメドューサに対抗する革命です。たくさんの血が流れて、人間中心の世界ができたようです。
その世界では、メドューサが奴隷として虐げられています。人間たちは奴隷の方法を熟知していますので、そこで困ったことはありませんでしたメドューサ側が何に困ったかどうかは情報が流れてこないからわからないです。
僕は、その後も生き続けました。人間側につくこともメドューサ側につくこともなく、自分のすべき研究をしていました。未だに右目が疼きます。
僕は周りの人間からは変わり者だとして迫害を受けることがありました。しかし、奴隷の時に比べたら痒いものでした。それは、今はまだ奴隷に対する恨みが強くて人間の僕にそこまで強く当たることがないからだと思います。
今までもシステムを利用しているので、メドューサと人間との立場を入れ替えただけなのでそこまで世の中が混乱しなかったのがせめてもの安心でした。何の秩序もないカオスが一番怖いのです。そう思いながら、僕は実験でカオスから何かしらの理論を導こうと躍起になっています。
さて、実験も詰まったことだし、気晴らしに奴隷メドューサを初めて飼ってみようか。でも、そろそろ販売員が上にやってくるから、そのあとでいいか。僕は今の家の中で、誰かに襲われる心配もなく人生を興じていました。
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