第18話2-5デートデート

僕たちは数分歩きました。男は相変わらず僕を横目で気にし、ご主人様は僕たちを気にせず魚を熱心に見ていました。僕はそれらを見ながら、2人の言動に注視しながら魚に注目している芝居をうちました。

 僕は男から不審に思われていないだろうか?ご主人様にもしものことがあったら守ることができるのだろうか?

 男はいつになったらご主人様を拉致するのだろうか?おそらく仲間がいるだろうが、どこに潜んでいるのだろうか?

 ご主人様はどういうふうに探りを入れるのだろうか?まさか、探りを入れることを忘れていないだろうか?

「ところで、私をモルモットにするために誘っていたって本当なの?」

「――何を言っているんだ、デメさん?」

 僕は思いました、御主人様の馬鹿、と、どうしてこのタイミング!?探りを入れることは忘れていなかったけど!

「あなたが私を実験体として拉致しようとしている情報を得ました。それは本当なのでしょうか?」

 探りを入れると言っていましたが、こんなに唐突に正直に直接に本人に聞くものでしょうか?もしかしてメデューサの世界では普通なのか?

「そんな唐突に正直に直接に本人に聞くことか?」

 やっぱり普通ではなかったようです。

「そんなことは知らないわ。本当なの、嘘なの?」

 そんなこと正直に言うわけないと思いますが。

「そうだ。デメさんを実験体として拉致することが俺の目的だ」

 正直に言うんだ……

「そうですか、わかりました。ところで、あの魚ですが……」

「え?何をしているんだ、デメさん?」

「何って、デートですよ」

 目を点にしている男に対してご主人様は飄々と答えました。何がおかしいのか分からないご主人様と、何かおかしいことはわかるが行動の意味を分からない男と、両方にどうしたらいいのかわからない僕がそこにいました。水槽からごぼごぼと酸素を魚に贈る音がしました。

「いや、どうしてデートを続けているんだ?普通は逃げるか助けを呼ぶとかだろ?」

「そうなのですか?せっかくデートに誘ってくれたのに」

「……調子が狂うよ、デメさん」

 男のメドューサはお手上げのポーズをしました。

「初めて見たわ、言葉通りお手上げのポーズを」

「俺も初めてしたぞ、お手上げのポーズを合図として」

 周りから幾人ものメドューサが向かってきました。

「なるほど、仲間を呼ぶ合図ね」

「さて、どうするのかな、デメさん」

「どうって言われてもね、さすがに拳銃を向けられたらどうしようもないわ」

 皆が石で作られた拳銃を持っていました。

「そんなことないだろ?自慢の石を生物にする能力で何とかなるだろ?」

「そんな万能ではないわ。ところで、こんな大事になっていいの?後から騒ぎになるのではないか?」

「心配ご無用。あらかじめ規制しているから関係者しかいない。それに、デメさんを良しと思わない協力者は多いんだ」

「なるほど。異端なものは排除したいものよね」

「覚悟するんだ。デメさんはもブフォ!」

 僕はその男の首を紐で締めました。

「大人しくするんだ。さもないと、こいつを殺す」

 僕はご近所さんに人質に取られた時に、人質作戦の効果の高さを実感しました。だから、僕も人質を取ろうと決めました。

「ドペカ、そんなことをしても無駄よ」

「どういうことですか、ご主人様」

 ご主人様は首を横に振っていました。

「そうだ。そいつが死んだところで関係ない」

「仕事のために死んだのならそいつも本望だろう」

「殺したければ殺せ。こっちはデメを捕まえることさえできればいいんだ」

 周りの仲間たちは突き放すように言いました。

「残念だったな、俺にはメドューサ質としての価値はない」

「それでいいのですか?あなたの命は大切にしなくても」

「まさか人間の奴隷にそんなことを言われるなんてな。お前たちは命に価値がないと教わってきたはずだが?」

 男は鼻で笑ってきました。

「ええ、習ってきましたよ、自然に。それが普通のことだと思って嫌だとも思いませんでした。でも、そんな僕の命を大切にしてくれる方もおられるのです」

 僕は馬鹿にしてくる男を笑い返してやりました。

「――もしかして、それがデメさん?」

「はい。僕の命の恩人です」

「それなら、ここで命を簡単に投げ出すのはおかしいのでは?」

「僕の命の恩人のために死ねるのです。僕の軽くない命を無駄にはしません」

「なるほど、羨ましいよ、君のことが。俺もデメさんに大切にしてもらいたかった」

「どういうことです?」

 僕は左足に力を感じなくなりました。

「?」

そして、すぐに痛みを感じました。

「!?」

 僕は左足の太ももを打ち抜かれていました。

「っ!」

「羨ましいよ。羨ましすぎて嫉妬で殺したくなったよ」

 ニヤついた男の左手には僕の足に向けた銃口から煙を上げた拳銃が見えました。僕は紐を男からハズしてしまい、そのまま崩れます。

「ほー、自力で抜け出したか、やるな」

「よくやった。お前を危うく殺すところだったぜ」

「さっさと止めを刺してやれ」

 まわりメドューサたちは熱気を帯びてきた。

「いや、こいつは拷問する。だから、お前たちはデメさんを捕まえろ」

 その号令とともに、周りはご主人様に向けて一斉射撃。

「きちんと足を狙えよ。死んだら元も子もない」

「でも、最悪死体でもいいだろ?なぁ、いいだろ?」

「解剖だけなら知れる情報に限りがあるが、それは結果論だ」

 命をなんとも思っていない発言は銃撃音にかき消されました。石の弾は水槽のガラスに当たって日々を入れますが、さすがは頑丈に作っているらしく水はこぼれてきません。その銃弾の嵐の中をご主人様は静かに佇んでいました。

「くらえ」

「当たれ」

「死ね」

 ご主人様は銃撃を受けました。

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