第17話2-4当日

翌日の台所。

「この服でいいだろう?」

 ご主人様は白のtシャツに黒のハーフパンツでした。

「いいわけ無いですよ。何なのですか、その格好は?」

「デート用の服だ。おしゃれだろ?」

 怒鳴る僕の前でご主人様はポーズを3パターン決めていました。直立不動、両手を平行に上げる、足も少し開くの3パターン。

「本気で言っているのですか?前のものと変わらないですよ」

「そんなことないだろ。だいぶ肌を隠しましたよ」

「五十歩百歩ですよ。どうしてそんなにデート用と違う服を選ぶのですか?」

 僕はどうしようかと額を書きました。。

「そうかい?僕はこれがデート用だと思ったが、どういうものがいいのだい?」

 素朴に聞かれました。

「――僕もおしゃれには疎いものでして、詳しくはないのですが……」

「なら、これでいいではないか」

 そう押されると自信が揺らぎます。いかんせん僕はど主人様の服は着れたらなんでもいいという立場よりももっとひどい服を着れなかった立場だったので、本当は服のことに関しては何も言えなかったのです

「――いいのかな、うーん」

「では、この格好で行ってくるよ。あとは待つだけだね」

 悩んでいるのは僕だけでした。


「デメさん、水族館は楽しいですか?」

「私は楽しいですよ。あなたは?」

 ご主人様と男は水族館に行きました。今いるそこは天井の方にも水槽がガラス張りに敷き詰められている海の中を体験できるようなトンネル通路でした。魚、魚以外の海洋生物、飼育員のメドューサがいました。

「俺も楽しいですよ。あと、俺の名前は……」

「それはよかったです」

 男は相変わらず名乗ることができません。しかし、今は悲しさがなく嬉しそうです。それはそうでしょう、念願の捕獲対象が目の前にいるのだから。

「名前を聞いてくださいよー、いつものことだけど」

「ところで、どうして水族館なのですか?」

 天井を見上げながらご主人様は嬉しそうに聞きました。異性とのデートよりも、海洋学的な好奇心の喜びだと予想されます。

「デートといったら水族館デートですよ。それに、俺は魚のことは詳しいので」

「魚といったら、最近発見されたメディサオイオイササは……」

……

「……ということで、サースイワタジミルホと互換関係なんです」

 13分に及ぶご主人様の説明が終わりました。男は説明が終わったあとも石のように硬直して間抜け顔を公衆の面前でさらしていました。美しさに魅了されたのではなく、その唯我独尊なご主人様の態度に圧倒されたのでしょう。

「――はっはっ、何を言っているのか全くわかりませんー」

「そうですか?魚に詳しいと言ったではないですか?」

「すみません。デメさんよりは詳しくないです。ガチガチの研究者肌の方に知識勝負を仕掛けてすみませんでした」

「それは残念。知らないことを知れると思ったのですが」

「残念ですか。残念といえば……その……あの……」

 男は急に歯切れが悪くなりました。悪巧みをしたことに対する後ろめたさから来るものだろうか。どもるどもる。

「何ですか?何が残念なのですか?」

「どうして奴隷の人間がいるのですか!?」

 僕は指でさされました。そっちか。

「奴隷の人間ではない、家族のドペカだ」

「そういう問題ではなくて、どうしてこの人間がデートに同行しているのかということだ」

 僕はもっともだと頷きました。

「何を言うのですか?最近は当人以外も連れてするデートもあるらしいですよ」

 僕はそれもそうだと頷きました。

「――たしかに犬や人間と一緒に散歩するデートとかあるけど、俺は慣れないな」

「私はデート自体に慣れないですよ。嫌だったらやめますけど」

「いいえ、いえいえ、人間と一緒で大丈夫です」


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