第9話1-8車の中

 車の中。

「何を買われるのですか?」

 僕は助手席に座っていました。奴隷売買所から運ばれたときは後ろのトランクに入れられていたので、その明るい光景に目が焼けそうでした。自分が運転していないことに申し訳なさを感じていましたが、運転免許証は持っていないので力不足です。

「行ったらわかるよ」

「晩ご飯の食材ですか?」

「さぁね」

 ご主人様はハンドルを握りながら聞き流すように運転していました。ここでこちらを集中して運転不注意になったら嫌なのでいいことだとは思いました。しかし、どこかに売られに行かれるのではないかという心配は消えません。

「何か仕事に必要なものですか?」

「さぁね」

 相変わらず上の空の返事がご主人様から流れてきます。石の壁による思ったより狭い一本道が迫ってくるように圧迫してきます。僕は心配で内蔵が圧迫させて血が止まっていくのを感じて腹の上からの指圧で刺激しました。

「新しい奴隷ですか?」

「君だけで十分だよ。それに奴隷ではなく家族だよ、君は」

 ようやくこちらを少し見ましたが、それでも僕は腹の指圧を止めることができませんでした。僕は車の揺れに酔いながら、心配の揺れに酔いながらグロッキーに首を椅子の背もたれ任せていました。時間が経ち、車は進みます。


「一体どこに行くのですか?」

「着いたよ」

 僕が車のドアからふらつき出てくると、衣服が並べれている店に出ました。黄色に塗装された石造りの店で、店頭には5%OFF等と書かれた値札がちょくちょく見られた。僕はご主人様に向きました。

「服屋ですか?」

「そうだよ」

「でも、ここ、男性用の服屋ですけど」

「そうだよ。男性の服が欲しいんだ」

 メンズと書かれたものばかりで、スカートはひとつもありませんでした。そういえばご主人様は女性なのに女性らしい服を全く持っていませんでした。それに、男性の僕に全く興味を持たないということは……

「――そういう趣味ですか?」

「たぶん、勘違いしているね」

 僕はジト目でご主人様を見ましたが、冷静に否定されました。どうやら今までも自分を男性思考であると勘違いされてきたらしい勘の良さでした。僕が思うに、その勘の良さをもう少し他にも分ければいいのに。

「じゃあ、何故ですか?」

「君の服を買うのだよ」

 ご主人様は裸に首輪だけの僕にそう言いました。基本的には人間の奴隷というものは裸が普通であるのですが、最近はそういうものにも服を着せる機運がメドューサの世界に流行っているらしいです。ご主人様は今まで奴隷の人間を飼ったことがなかったから昔の価値観ではなく最近の流行に乗ったのでしょう。

「でも、いい服ではなくても大丈夫です」

「いいや。どうせなら綺麗ですごくいい服にする」

 そういうと、OFF表示のされていないショーケース内の衣服のところに足を運んでいました。そこにはメドューサの服を超えるのでないかと思うくらい高い数字が並んでいました。僕はそんな高価なものは恐れ多くて着れる自身がありません。

「ご主人様、いいです、そんな高価なものは」

「いや、高価なもののほうがいいんだ。こういうところでケチる必要はない」

「ボロボロの服では、ご主人様に迷惑がかかるのですね」

「そういう言い方をしなくても」

 服を選びながら僕の意見に聞く耳を持ちません。僕はショーケースに映る自分の裸体を見ながら立派な服を着ている自分を想像して内心ほくそ笑んでいました。こんなちんちくりんな僕にそんなものが似合うわけがないと思います。

「ずーっと家に置いていたら気にしなくていいのですけどね。まぁ、外に出るときも気にしない方もいましけどね。昔は裸が当たり前だったらしいですし」

「そういえば昔は人間に服を付けるなんて非難されていたなー。君、詳しいね」

「まぁ、身に染みて学びましたから」

「それもそうか。ところでこれはどう?可愛いと思うけど」

 僕の過去の体験に興味がないらしく、気になった服をショーケースから取り出して僕に合わせていました。そのまま試着室に連れ込まれたりほかの衣服を持ってこられたりして、慌ただしい服選びになりました。僕は気乗りしませんでしたが、ご主人様に応えようと躍起になって喜ぶフリをしました。

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