第一話
男という生き物は不思議なものである。演技であると知らされていながら、他人と他人の性行為に興奮を覚え、高い金を払ってそれを何度も何度も鑑賞する。本能と言われればそれで済む話なのだが、最近では本来の目的からは外れ、娯楽へと変化しているのである。勿論、その範疇は男だけに留まらないのだが。
昔から私は演技力に長けていた。いや、演技力と言っては語弊が生じるか。他人を騙すと同時に自分自身の感情を、この26年間騙してきたのだから。世間からはみ出るのを恐れ、周りの操り人形になりながら、それをさも自分の意志通りかのように振る舞ってきた。その結果として、周囲に私、森田瑠菜としての人格を形成されたのだ。
「みらんさーん!撮影15分前です!」
楽屋の重いドアが開き、プロデューサーの声が聞こえた。
今日もまた、野獣達のケツを叩く時間が来たようだ。果たして、今日の野獣は本能で動くのか娯楽で動くのか。この職についてから、この2種類とばかり遭遇する。お金目的で業界に入ったとしても、結局は本能や欲望に溺れていくのだ。
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今日も代わり映えの無い現場にスタッフ、そして私の感情。なぜ私はここにいるのだろう。こんなに周りに気を遣いながら、周りの目を気にしながら生きてきたのに。
将来の夢など生まれてこのかた一度も抱いたことがない。ただただ周りの期待に淡々と応えてきた。 ただ、こんなにも自分を押し殺してきたのだから世間一般で人生の勝ち組と呼ばれるような仕事に就かせてくれたっていいじゃないか。
撮影前は、こうして毎回自分の人生を意味もなく恨んでしまう。
自分を包み込む衣服を剥がされていくのに抵抗する。ただし、力一杯ではない。演技である。ただでさえ寒いのに冷えた手が肌に触れて少しばかり鳥肌が立つ。舌打ちは我慢した。
普段家に籠っているせいかお陰か、純白という言葉が似合う肌から、女性として隠すべき部分がつるんと露になる。咄嗟に隠そうとするが、これも演技。何万人にも晒した自分の陰部などもう陰部と呼べるほどの代物ではないのだ。ただでさえ豊満に育ってしまった身体の持ち主が羞恥心を失った以上、この仕事は天職と呼ばざるを得ないのかも知れない。豊満な身体とは対象に、中身は虚無と言うのは、いかにも無情だ。
その日の撮影も、いつものように台本通り監督が求めるような演技を淡々とこなして終了した。
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