第32話3-9:白と黒

「お前たち!?」

「力を使い切った後に、仲間だと思った俺に意表をつかれたら、簡単に捕まってくれた」

「お前……」

「お前もこの中に入れよな」

 宙に浮いている黒ミイラが自分の足元の空気を蹴って、白ミイラに特攻してきた。そして、その体には黒い風をまとっていた。そのまま白ミイラに弾丸のように突っ込む。

「『神風』」

 白ミイラは包帯を壁に伸ばして引っ張り回避したが、黒ミイラはそのまま地面に突っ込んだ。その地面は猛烈にえぐれて、反動で地面が揺れていた。そこから出る噴煙を風でかき消して黒ミイラが姿を現した。

「『黒風』」

 黒ミイラは視覚可能なくらいの暴風を白ミイラに向けて発射した。それは直撃するが、白ミイラは包帯を器用に盾を作って防いでいた。それでも体中が風に裂かれていく。

「『千風鬼』」

 大量数の鬼の形態をした黒い風が白ミイラを襲う。ある風はこん棒で、ある風はツノで、ある風は拳で白ミイラを襲う。千差万別の大群が進軍したあとは整備された道のように小石一つ真っ平らにえぐられていた。

 そこに、白ミイラだけが膝をついていた。

「白ミイラー!」

 私は駆け寄ろうとした。

 が、黒フードの黒い粒子が目の前に向かってきた。

 あっ、これ、よけられないわ。

「はあぁああ!」

 白ミイラが私の目の前で粒子を受けていた。

「うそ?」

 白ミイラの体はボロボロになっていった。それでも、体が丈夫だからだろうか、包帯ともども原型はとどめていた。それでも、今まで見たことがないくらいボロ雑巾のように黒ずんだ破れた姿だった。

「――大丈夫か?」

「ばか、それはあなたでしょ!」

 ボロボロの声にハッパをかける私」

「――すまないな、こんなことに巻き込んで」

「何を誤っているのよ。いつものように立ち上がりなさいよ!」

 黒ミイラが風をまとわしてこっちに向かってくる。

「――だが、これだけは言わせてくれ」

「馬鹿なこと言わないで、私を助けなさいよ!」

 世界が静まり返った。

「『白乾』!」

 白ミイラは伸ばした拳を握った。すると、黒ミイラの体は大量の湯気が出てきた。それは昨日の浜辺でゾンビ貝にたいしてしているのを見たあの光景である。

「くわー!」

 黒ミイラは悲鳴を上げて地面に落ちた。

「お前が切り刻んだ包帯が、お前にくっついているんだ。この技くらい食らってくれよな、黒ミイラよ」

 白ミイラはさらに強く拳を握った。黒ミイラはさらに強く湯気を出した。私はさらに強くそれを見ていた。

「お前を倒して、黒フードも倒して、仲間を助け……」

「はっ!!!」

 黒ミイラは大量の湯気を逆流させていた。それによって、少しずつ縮こまっていた進行スピードを止めた。砂漠のような暑さ。

「風を使って来たか……」

「はっ!はっ!はっ!!」

 黒ミイラは座る・立ち上がる・歩くの動き毎に気合を入れていた。体はボロボロのようだが、それでも近づいてくる。それは化物のような驚異だった。

「この化物め」

 同じくボロボロの白ミイラはシニカルな言い方だった。自分のピンチに対してか、相手の執念に対してか、それはどういう意図かはわからない。そして、これからの展開も私にはわからなかった。

「ふしゅー!ふしゅー!ふしゅー!」

 悪魔のように一歩ずつ近づいてくる黒ミイラ。

「俺も自分の能力をもっと使うか」

 悪魔のような笑みを浮かべたように見える白ミイラ。

 ヒュー。

 2人の間に切れた包帯が落ちた。

「『白爆』!」

「『黒風』!」

 互いに相手を攻撃。その出力は今までで一番大きかった。大量の風と蒸発が大地の壁に囲まれたこの場所に天変地異のような現象を起こしていた。

「「はぁぁああ==!!」」

 互いに我慢比べしていた。風を受けながら蒸発させようとするもの、蒸発しながら風で裂こうとするもの、2体の我慢比べ。私と黒フードはそれの傍観者だった。

「ぐっ」

 白ミイラが膝をついた。

「そんなものか、白ミイラ」

 黒ミイラは風の出力を強めた。

「ぐわああー!」

「どうした、お前の能力が弱まっているぞ!」

 黒ミイラは更に風を強くした。私は吹き飛ばされないことに精一杯だった。黒フードはフードを揺らすのみで微動だにしなかった。

「やばいな」

「負けを認めるのか?」

「いいや、違う」

「何だと?」

「自分を犠牲にするのは、覚悟がやばいな」

 白ミイラは自分の体を蒸発させた。体中から大量の湯気が出てきて、周りの風を一瞬だけ吹き飛ばした。そして、その勢いのまま黒ミイラに突っ込んだ。

「このやろう!」

「くらえー!」

 が、白ミイラのタックルは風で緊急浮上した黒ミイラに回避された。白ミイラはそのまま猪のように止まらなかった。黒ミイラは鳥のように俯瞰していた。

「狙いはよかったが、残念だったな」

 そう余裕ぶっていた黒ミイラだったが、白ミイラが突っ込んでいく先を見て余裕を失った。その先には、捕らえたゾンビたちがいる棺桶があった。そこに白ミイラが機関車のように突進していく。

「はぁああー!」

「ばっ、やめ……」

 ドガガガガガー!

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