第30話3-7:黒ローブ
――私は高いところから落ちたのに死んでいなかった。大怪我もしていなかった。それどころか、小さな怪我もしていなかた。
私のおしりの下のふわふわしたものを掴んだ。それを見下ろしてみると、白い包帯だった。私は白ミイラに守ってもらったことを理解した。
しかし、その白ミイラは姿がなかった。いったいどこにいるのだろうか?私は周りをキョロキョロと見回した。
「どこかしら?」
周りを見ても、赤くて黒い土の壁がゴツゴツと立ちはだかっているだけだった。それは巨人の門番のように私の周りを数mの距離をあけて囲っていた。なんだか、原始人に囲まれて調理されようとしている獲物の気分だった。
白い包帯のハンモックの下を覗くと、黒い闇が伸びていた。白とのコントラストがよけに黒を強調させていた。それはたいへん暗く暗く深く深く怖く怖く感じさせる闇という言葉がふさわしい空間に見えた。
その闇は落ちたら人生を一瞬で終わらせるものを感じた。だから、絶対に落ちたくないという思いが生じて、体が変な硬直と震えとフラツキを覚えた。私は白い包帯から体が滑り落ちる自分を確認した。
「嫌ー!」
と、すぐ下の地面に落ちた。
「近―!」
と、すぐに痛がった。
「うるさいな」
「わー!」
と、すぐに白ミイラだと気付かなかった。
「そんな驚くなよ」
「ご、ごめんなさい」
「別に謝る事ではない。それよりも、大丈夫だったか?」
「あなたが助けてくれたのよね、高いところから落ちるのを」
「まぁ、遅くなって、地面ギリギリのところだったけどな」
「ごめんね。私のせいで地面に直撃だったんでしょ?」
私は申し訳ない気持ちだった。
「そうだな。俺は自分が助かることだけを考えていたが、上から落ちてきたお前のせいで包帯から突き落とされたからな」
「助ける気なかったんかい!」
私はハンモック替わりの包帯をブウァンブウァンと手で叩いて揺らした。
「助ける気はあった。ただ、まずは自分が助からないと」
「それはそうだけど」
私は頬をヒマワリの種を蓄えたハムスターのように膨らませた。
「本当にそんなふくれっ面するやつがいたのか。まるで漫画だな」
「ミイラの方が漫画でしょ!」
ハンモック替わりの包帯をダンダン叩きながら頬をしぼませて抗議をした。
「そうなのか?」
「そうよ。それに今はそれどころじゃないでしょ!」
――「そうだ、それどころじゃない」
「ほら、この人もそう言っている……」
私たちは知らない声の主から離れた。
「誰だ?」
「誰よ?」
私たちは反射的に言ったが、すぐに誰なのかがわかった。
黒ローブがそこにいた。
私たちは図らずとも目的地についていた。
「誰とは心外だな。お前の生みの親だよ、白ミイラ」
「ここであったが百年目、お前を倒して終わりだ」
「そうよ、終わりよ」
「……」
黒ローブは不気味に私を見て黙っていた。
「な、なによ?」
「誰だお前?」
「誰だとは心外ね!」
私の心は傷ついた。
「お前は引っ込んでろ」
「ブフォ」
私は白ミイラに蹴飛ばされた。
「何するのよ?!」
「邪魔だから」
「だからといって、蹴飛ばさなくてもいいでしょ?毎度毎度」
「どうして欲しいんだ?」
「包帯でどかせるとかあるでしょ?」
「包帯が汚れたらどうするんだ?」
「こんちくしょー!」
私は殴りかかろうとしたが、白い包帯で飛ばされた。
「これでいいのか?」
「いいんだけど、いいんだけど……」
私は身の心も傷ついた。
「そんなことをしているから危ないんだ」
「なにがよ?」
「下を見ろ」
私は言われるがままに下を見た。すると、先程までいた場所にカビのような黒い物体がウジャウジャいた。
「これは?」
「あいつの技だ。当たったら腐るぞ」
「えー?嫌ですー」
私は黒い物体からさらに離れた。それと反比例して私の蹴った小石がそこに転がっていった。小石は一瞬で粉々になった。
「いっ!」
「危ないだろ?あいつには気をつけろよ」
白ミイラは黒フードに包帯の先を向けた。
「あなた、黒フードから私を守るために?」
「次は自分で守れよ」
白ミイラは黒フードに向かってダッシュした。黒フードに向かう白ミイラの目には黒い壁が出てきた。白ミイラは横に包帯を伸ばして自分自身を引っ張り、その黒い壁を瞬間に回避した。
黒い壁から黒い粒子が白ミイラを追いかける。白ミイラは新たに包帯を伸ばして引っ張り、ターザンのように移動していく。それに追いつこうとする黒い粒子。
白ミイラは方向を黒フードのほう変えて突っ込んだ。黒フードは自分の前に黒い壁を作った。すると、白ミイラは急上昇して回避した。
黒い粒子同士がぶつかって、互いに消滅した。それを見た白ミイラは包帯を黒フードに伸ばした。しかし、それを途中で止めて、その先に黒い粒子を確認して引っ込めた。
「よく止めたな」
「まぁね」
白ミイラは次の態勢に入った。
と、その時、黒い物体が乱入してきた。
黒ミイラだった。
「白ミイラ、大丈夫か?」
「黒ミイラか。お前こそ大丈夫だったか?」
「あぁ。だからこそ来た、助けにな」
「大丈夫だ、ここは俺だけで、それよりも……」
「それは良かった」
黒ミイラは白ミイラを鋭い風で攻撃した。それは白ミイラの包帯の大部分をズタズタに切り裂いた。冷たい風だった。
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