第29話3-6:赤ミイラ②

「エリート志向が強いと言われていたわ。学校では成績が優秀な人とばかり一緒にいて、そうじゃない人は切り捨てていたわ。そして、その中でも優秀な成績を取って周りから秀でて優越感に浸ることが生きがいだったわ」

「嫌な人ね」

「でも、人間というのはそういう欲があるものなのよ。私は一番にならなければ気がすまないので、一番難しい大学の一番難しい学部に入ることにしたわ。そのために周りを切り捨ててひたすら勉強したわ」

「大変ね、勉強」

「それで志望したところに入ったわ。そしたら、いわゆる燃え尽き症候群になって、何もかもやる気をなくしたわ。その時に気づいたのよ、自分は大切なものを切り捨てて生きてきてしまったことを」

「後悔ですか」

「それから私は、勉強以外も頑張ることにしたわ。遊びも交流も動物とじゃれあうことも、なんでも1番を目指したわ。そんな時、急にゾンビに出会ったの」

「それでどうなったの?」

「逃げた……のかな?きちんとは覚えていないけど、命は助かったわ。でも、そのあとに黒フードが来て、それからは逃げられなかったわ」

「ゾンビ化?」

「そうよ、ゾンビにしようとしてきたわ。でも、ミイラになって、それで私をトップにするのなら仲間になってあげると言ったら、怒られたわ。私のような優秀なものが下につくわけないじゃない」

「ミイラになってもいい性格しているのね」

「だから私は独立したのよ。そして、同じ境遇のミイラたちとタッグを組む事にしたわ。そして、リーダーだから赤色にしたわ」

「後から赤色にしたの?!」

 驚きの新事実。

「そうよ。他のみんなも後からカラーリングさせたわ」

「何処に力を注いでいるのよ!」

「――病は気からよ」

「意味分からないですけど!」

 この人はまともだと思ったのに……

「それにしても、白ミイラはいつまでカラーリングしないの?」

「死ぬまでしねぇよ」

「死んでるようなものでしょ?」

「やらねぇものはやらねぇよ」

「頑固ね。それとも協調性がないのかしら?」

「それよりも、どうするんだ、あれ」

 私は気づかぬうちに、大量の虫が周りを囲んでいた。それは台風の目の中に入ったかのようなものだろうか?とりあえず私は、赤ミイラにすがった。

「どうするのよ、これ」

「大丈夫よ、お姉さんにまかせなさい」

 知らないうちに姉属性が追加された赤ミイラは、両手を空に受けてかざした。

「何しているのよ」

「見ていたらわかるわ。それよりも……」

「それよりも?」

「ここはあたしが受け持つから、あなたたちは先に行ってね」

「何を言っているのよ?」

「一緒に行きましょ、なーんて在り来りなことを言うつもり?私はここで体力を使うから、体力が戻るまで時間がかかるのよ。どれまで敵は待ってくれないわ」

「でも」

「でももへったくれもないわ。これはリーダー命令よ。それに、向こうに行ったら、誰かが言うかも知れないわよ」

「でも、でも」

「さっさとお行き。『赤粉』!」

 そう言いながら赤ミイラが手を下ろすと、隕石みたいに大きな白い塊が複数落ちてきた。それは大量の虫たちを粉微塵にしていった。というか、粉である必要はないと思うくらい恐ろしい大きさと圧を感じるものだった。

「きゃー!」

 強大なそれは私めがけて転がってくる落ちてくる。私は飛んだり跳ねたり走ったりしながら回避していた。そこに白ミイラが合流。

「大丈夫か?」

「大丈夫に見えますか、これ?!」

 走る走る走る。

「ちょうどいい。このまま走って行くぞ」

「何処に?」

「黒フードの本拠地だ」

「いやよ。危ないじゃない。他のミイラが集まってから……」

「でも、もうこの下だが」

 私の足は空を蹴った。下には底が見えない穴が見えていた。私は最悪の状態であることを瞬時に理解した。

「こうなったら、行ってやろうじゃないーーー!」

 落ちながら声がこだましていった。

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