第26話3-3:緑ミイラ①
「何よ、あれ?!」
私が言うやいなや、青ミイラが振り返るや否やのタイミングにゾンビクマの右手が青ミイラを旋風のごとく振り払った。
「大丈夫?」
「大丈夫です」
包帯が少しちぎれていた。
「包帯がっ!」
「あとで塩を舐めれば治る」
「でも」
「それよりも、ここからは容赦なく暴れるから、離れてください」
包帯のちぎれたところから目らしきものが消えたが、それを確認する間もなく私は離れた。そうすることがこの紳士に対する礼儀だと思った。地面に落ちる枝葉に足を傷つきながら、私は自分の無力を痛感した。
「また、私は何もできなかった」
「そうでもないさ」
白ミイラが併走する。
「あなたは一緒に闘ってもよかったのでは?」
「そうすれば俺も巻き込まれてしまう」
「あなたは青ミイラが何をするのかわかるの?」
「さらに巨大な爆発だな。というか、さっきまでは手を抜いていた。体力の消費が激しいことと俺たちがいたことが原因だな」
「そう。それで、青ミイラは大丈夫かしら」
「確実とは言えないが大丈夫だろ。あんなやつに負けるほど弱くなないはずだ」
私もそう信じるしかなかった。
「――それで、そうでもないさ、というのはどういうことかしら」
「お前がいるから、みんなが頑張るんだ?」
「それは私がお荷物だという皮肉?」
「違う、そうじゃない。お前には人を引き付ける能力があるんだ。なぜか皆がお前のために行動するんだ」
「でも、ミイラはそういうものだと」
「しかし、その程度が違うんだ。事実、お前以外の人間を何人も見殺しにしてきたし、今日まで黒ローブ退治を延期してきた。でも、お前の場合は皆が助けに行くし、お前との出会いで黒ローブ退治を決心したんだ」
「それはどういうことよ?」
「わからない。ただ、事実としてそうなっているんだ」
「そんなわからないこと言わないで」
その時、後方では大きな爆音とともに熱風が追いかけてきた。それは私たちを前へ吹き飛ばした。私は白ミイラの包帯にキャッチされながら、その大きな黒雲を作る煙の上がっている炎の海が見えた。
「何よ、これ?生きているの?」
「さあ、わからない。でも、危険だから近づかないほうがいい」
「そんな、仲間を見捨てるの?」
「酷なようだが、あんな派手なところに行ったら敵に見つかる。だから、あいつが無事だと信じて次に進むしかない」
「そんな、納得できない」
「納得できなくてもくるんだ」
私は白い包帯に包まれて身動きがとれなかった。移動は楽だが心は苦しかった。というか、初めからこうして欲しかったものである。
「どうして、今になっておんぶかだっこかわからないけどしてくれるのよ?」
「そのほうがいいと思ったからだ。文句あるか?」
「もっと早くからしてよ」
「するせぇ。海だと湿って上手くできないんだよ」
っと、私は地面に落ちた。
「いたーい。落とさないでよ!」
「落としたんでない。包帯を切られた」
「え?」
「避けろ」
私は白ミイラに蹴飛ばされた。
「前にもあった気がするー!」
私は顔面を地面にスった。今までにないくらいすごくすごく痛かった。鼻血が出るくらい勢いがあったらしい。
鼻を押さえながら振り向くと、猫らしきものが鋭い爪で突いてきた。
「にゃー!」
私は猫のような悲鳴を上げて、マトリックスのようにのけぞって避けた。その時に、私の胸元がそいつの爪で切られた、胸元があらわになった。
「お前、何目覚めているんだ?」
「違うわよ、てか、見ないでよ!」
胸をあらわにしながらブリッジしている私は、大変恥ずかしかった。
「誰もお前みたいなやつを異性として襲わない」
「乙女に失礼でしょ!」
「てか、避けろ」
私の周りを数体のゾンビ猫が飛びかかってきた。
「本当の意味で襲わないでー!」
と、ヴォーンという鈍い音とともにゾンビ猫たちは一掃された。そこには緑色の物体が伸びており、真っ直ぐに方そうだった。それが急に柔らかそうに掃除機のコードのように戻っていったところに何かがいた。
緑ミイラがいた。
「大丈夫か?大丈夫か。よかったな」
「まだ何も言ってませんけどー!」
私は体勢を戻し、ようやく一言。
「それにしても数が多いな、そうでもないか」
数十匹のゾンビ猫が木の上・岩の後ろ・すぐ近くといろいろなところにいた。
「どうしてここが?」
「あんな大きな爆発音がしたら普通は来るだろ、いや来ないか」
「どっちなのよ」
話し方に癖があるミイラだ。
「どっちでもあるし、どっちでもない」
「哲学?」
「哲学でもあるし、哲学ではない」
「きちんと話してよ」
「きちんと話しているし、話していない」
「あなた馬鹿なの?」
「お前よりましだ」
「うっさいわね!」
私は拳で殴ろうとしたが、右腕を白い包帯が巻いてきた。
「やめておけ」
「でも、一発くらいは」
「手を痛めるぞ」
「痛め?」
「緑ミイラは鉄の能力者だ。その包帯を鉄のように硬くすることができる。自分の手が鉄のように硬くないのならやめておけ」
「鉄の能力者なの?」
私は緑ミイラに確認した。
「そうであると言えるし、そうでないとも言える」
私が左手の拳を振り上げたら、白い包帯に巻かれた。
「言ってるそばから」
「だって、ムカつくのよ」
「でも、実力は本物だ。さっきのを見ただろ?」
「一緒過ぎてよくわからなかったわ」
「包帯を敵に当たる直前に鉄にして、包帯時のしなやかさと鉄の硬さによる強力な打撃をしたんだ。思ったより痛いぞ、あれは」
「痛いというより、木っ端微塵にしていますけど」
粉砕されたゾンビ猫たちの跡が地面に転がっていた。さすがにそういうものを見ることには慣れてきたが、それでも気持ちわるいものである。むき出しの内蔵・吹き出す血・痙攣する体と慣れたくないものがそこにはあった。
「おらだけで大丈夫だと思うから、いや、やっぱり無理かも。まぁとりあえず『緑鉄』」
緑ミイラはいくつかの包帯を刀のように尖らせて、ゾンビ猫の大群の中に入っていった。それは時代が時代なら百人斬りと恐れられるようなものだった。私は今の平和な時代に生きていて良かったと思った。
「よかったー……いや、よかねぇし」
「緑ミイラの真似か?」
「そうじゃないわよ。いや、結果的にそうなっているけど。でも、これは、あーもう」
私は頭を抱えてクネクネした。
「お前、大変そうだな」
「それよりも、あの緑ミイラはどういう人よ」
「んー、もう少しでミイラ昔話コンプリートだな」
「何よ、そのゲームみたいな言い方」
私はクネクネをやめえた。
「あいつはな……」
「唐突に説明入るのね」
私は頭から手を下ろした。
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