第25話3-2:青ミイラ

 そう口走ったが、目の前にいたのは青ミイラだった。

「大丈夫でしたか?」

 紳士的な口調だった。

「はい。ありがとうございます」

「いえ、あいも逃げていましたので」

 指さす先には、10以上のゾンビクマが向かってきた。

「デジャブー!」

 私は逃げた。

「どうして逃げるのですか?」

「あなたも逃げているじゃない!」

 併走する青ミイラ。

「あなたと話すためですよ。離れ離れになった久しぶりに仲間と話がしたかったんです」

「そうなの?その気持ちはわかるけど今はそんな場合じゃないわよー!」

 私はダッシュしているので、話すのがしんどかった。

「では、今の状況を解決したらいいのですね」

「そうだけど、そんなこと……」

 急に横の青ミイラがいなくなった。

 私は走る足にブレーキをかけて、後ろを振り向いた。

 その時、解けかけていたサイドポニーが顔にムチのごとく当たった。

「いったー!」

 私は顔面を抑えてその場にうずくまった。

「何しているんだ、お前?」

 その声は、先ほどゾンビクマと一緒にどこかに姿の消したものと同じ声だった。

「あなたこそ何しているのよ?」

 私は白ミイラの顔を見ずにうずくまったまま聞こえるように言った。

「何って、ゾンビクマから逃げていたらここに戻ってきたんだ」

「心配して戻ってきたんじゃないの?!」

「そしたら、俺を追いかけていたゾンビクマが青ミイラを追いかけるゾンビクマと合流したんだ」

「数が多いのはあなたのせいなの?!」

「でも、まぁ、青ミイラならどうにかしてくれるさ」

「このトラブルメーカーめ!」

 私は立ち上がって怒鳴った。

 ドバーン!

 私が走ってきた方向から爆発のような音がした。

「何?」

 私は音の方向を見ると、爆発の熱と煙が風に運ばれてきた。その爆心地らしきところでは、青ミイラと1体の倒れているゾンビクマがいた。クマは焦げていて、食された跡みたいになっていた。

「今のは?」

「そうだ、青ミイラの能力、爆発だ」

「爆発?」

「そう。言葉のとおり爆発を起こす能力だ」

「危ない能力ね」

「だからお前から離れて戦っているんだろ?」

 爆発音がよく聞こえるくらい静かな時が私の中で生まれた。

「――どうしてミイラたちみんな優しいの?」

「さぁな。ただ……」

「ただ?」

「優しいからゾンビではなくミイラになったかもしれない」

 遠くで爆発音が鳴った。

「――どういうこと?」

「ゾンビというものは、死体に魂を入れて復活させたものだ。しかし、その魂には自由はなく、復活させた呪術師によって操られている。事実、今まで襲ってきたゾンビたちも俺たちを襲うように命令されているはずだ」

「そうなの?」

「あくまでも仮定の話だ。そしてそこから翻って俺たちミイラの特徴として、呪術師の言うことを聞かないという点がある。それは、自分の信念があるということだが、奇妙なことに俺たちミイラは皆、なんだかんだで優しい性格をしている」

「自分で言う事ではないと思うけど」

「でも、事実だ。口では悪態をついたりしても、皆お前を守っただろ?それはなんだかんだで優しいし、信念があるミイラだと思う」

「そんな特徴があったのね」

 私は爆発で戦う青ミイラを見ていた。

「それで、青ミイラはどういう人だったの?」

「――青ミイラは純粋な人だったらしい。学校に入ってからは、学校で学んだことに従った。授業中はきちんと授業を受け、クラスのみんなとはきちんと仲良くし、先生の言うことはきちんと聞いた」

「優等生ね」

「でも、だからといって学校で学んだことが絶対に正しいとは思わなかった。疑問に思ったことは本やネットなどで調べて自分なりに理解していった。そのおかげで勉強は出来たが、それを鼻にかけることはなかったらしい」

「本当の優等生ね」

「そして、不思議に思ったことを探求しようと、大学に行ってそのまま学者の道へと進むことにした。その過程で、敵を作らない紳士的な話し方や、変人アピールするための謎の一人称を身につけたらしい。一応優秀な学者候補だったらしく、大学に残ることは確定していたらしい」

「嫉妬もできない優秀さね」

「だが、あるときにゾンビが研究室にやってきたらしい。そのゾンビ自体は薬品を使ったりして追い返したらしい。本人曰く、もう少しゾンビ対策を実験したかったのにさっさと退治してしまってもったいなかったらしい」

「マッドサイエンティストですか?」

「そうしたら、黒フードに勧誘されたらしい。しかし、あいつはその勧誘を断ったらしい。マッドサイエンティストの振りはするものの、実のところはきちんとした倫理観を持っているので、悪い奴らに肩入れするのを拒んだらしい」

「思ったより真面目なのね」

「そうしたら、無理やりゾンビにされそうになったらしいが、やはりゾンビにならずミイラになったらしい。あいつも俺たちと同様に強い信念を持っているからということだろう。その信念のもと黒フードから離れて抵抗して、今は同じ仲間と一緒に人類の敵である黒フードを倒しに行くということだ」

「どうでもいいけど、あなたたちがなったのはミイラではなくて、生きた包帯でしょ?」

 私の目の前で白ミイラの包帯が爆風で揺れていた。そうだ、こんな話をしている間に青ミイラがゾンビクマと戦っているんだ。その爆発する派手な戦場では私は近くに行く気にはならなかった。

「ところで、助けに行きたいとは言わないのか、今回は?」

「言わないわよ。何回も邪魔になっているし」

「それがお前のキャラだろ?」

「どういうキャラなのよ?!」

 私を馬鹿にしているのか素なのか……

「でも、いつ見てもおそろしい能力だな」

「まぁ、殺傷力はすごいわね」

 目の前で起きている青ミイラによる爆裂殺法の前では、ゾンビクマたちが逆に可愛そうだった。それでも相手は悪者だから青ミイラを応援している私の方が悪者だろうか?ゾンビクマが紙のようにちぎれていく。

 そんな爆裂死滅していったゾンビの残骸が次から次へと青ミイラの足元に埋まっていく。それは散髪後の髪の毛のようにウジャウジャとしていた。それはもう物体というよりは繊維みたいなものだった。

「これで終わりだ。『青爆』」

 青ミイラは最後の1体をツッパリのような動きで爆発させて倒した。それは地面の細切れの一部へと同化していった。青ミイラは一仕事を終えたような感じに手を叩きながらこちらに向かった来た。

そして、その背後では本当に一体化して巨大な1つのクマになったゾンビクマの塊が立ち上がっていた。

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