第23話2-11:黒ミイラ②

「あいつは学生の頃から、悪いことを許せない人間だったらしい。誰かがいじめられていたら守ったし、不良に対しても訂正を求めたし、先生であっても間違っていると思ったら反論したらしい。まぁ、いわゆるクソ真面目というものだろう」

「そういう人って本当にいるのね」

「そういう人間だから、周りから疎まれるようになった。注意された人はもちろんだが、助けてもらった人ですら疎むようになったようだ。まぁ、仲良くなったら周りから自分も疎まれるというありきたりな理由だろう」

「そういう人はよくいるよね」

「それでもあいつは正義のため、というのかな?自分が正しいと思ったことをして、悪を砕き正義を助けることを志した。だからあいつは法律家になった。正義のために法律家になるというステレオタイプな人間になった」

「ステレオタイプかは知らないけど……」

 ドラマとかでよく聞く設定だけどね。

「そんなある日、あいつは人に襲われた。正義のために敵を作ってきたからだろう、仕返しや逆恨みを受けた。あいつは精神的にも身体的にも脅されることが何度もあったらしいが、それでも信念を曲げなかった」

「大変ね」

「そんな苦痛の時、あいつのところにゾンビが来たらしい。しかし、ゾンビというものは法律の範囲外だからどうしようもなかったらしい。そもそも、ゾンビというものが悪いものだという確証がないということで、すぐには敵対することもなく、逆に匿ったくらいだったらしい」

「変わりものね」

「すると、黒フードが勧誘に来たらしい。向こうからしたら、ゾンビを匿う位のやつは味方にできるかもしれないと思ったのだろう。しかし、そいつらが正義側かわからないから勧誘に乗ることはしなかったらしい」

「普通に怪しいわよね」

「そうしたら、拉致られてそのままゾンビ化させられたらしい。俺と同じようにゾンビ化には失敗してミイラになったがな。そして、正義側でないから逃げてきて、俺たちと一緒に倒そうと向かっているわけらしい」

「なんか、ようやくまともな人って感じね」

 私は地に足がついた気分だ。

「俺もまともだろ?」

「……あんまりそう思わないわ」

 私はシワが増えそうな気分だった。

「どうしてだ?」

「そもそも、生前のあなたを知らないのよ」

「そんなことより、気をつけろよ」

「そうやってはぐらかす」

「いや、本当に気をつけろ」

「何に気を……」

 ブァッシャーン!

 大きな水しぶきが私の体を包んだ。

 白ミイラは離れて回避していた。

「だから気をつけろと言っただろ?」

「自分だけ避けないでよ!」

「いや、気をつけろと言ったって言っているだろ?」

「ったく、もうー。それよりも何よ」

私は水しぶきのところを凝視した。そこからは小さな泡がプクプクを上がってきていた。そして、海面下から黒い影が大きくなっているのを確認した。

バシャー!

それらは勢いよく出てきた。そのまま2つの影は宙に滑走したと思いきや、再び海面に落ちていった。それに目を凝らすと、黒ミイラと大きな鳥だった。

「黒ミイラ?!」

「やあ、大丈夫か?」

「その大きいのは?」

「ゾンビ鳥の親玉さ。空が飛べるうえに大きいから、大量のゾンビ鳥を運んで空から落としていたんだ」

 そのゾンビ鳥の親玉は体の状態がよく、他のゾンビ鳥と違い空を飛ぶことはできそうだった。ただ、その全長10mあろうかという大きさの鳥はゾンビでなくてもそれだけで恐ろしかった。こんなのに直接狙われたらと考えたら身震いを起こし、ゾンビを落とすだけであることに少しの安心を感じてしまった。

と思っていたら、ゾンビ鳥の親玉は嘴を向けて襲ってきた。

「きゃー!」

「うるさい」

 黒ミイラは突風を起こして私ごとゾンビ鳥を吹き飛ばした。

「何するのよ」

「お前は狙っていない」

 そう言いながらも、さらに強い風を吹かせていた。

「ちょっと、何しているのよ。弱めなさいよ」

「このまま島まで吹き飛ばす」

「えぇ?!」

 私は鼓膜が強風で馬鹿になったかと思った。

「どうしてよ?」

「どっちみち島まで行く必要があるだろ?だったらこいつを倒すついでに一緒に吹き飛ばしてやる。一石二鳥だろ?」

「いや、私の命の危険は?」

「気にするな」

「気にするわよー!」

 私の声は強風の音とともに掻き消えた。台風の一部になったかのような勢いで風と水と大量の物質とともに巻き込まれて飛んでいた。それが何処に向かっているのかも分からず、流れに身を任せるのみだった。

 どうか、無事でありますように。

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