第22話2-10:黒ミイラ①

 私は声帯を震わせた。空からは大量のゾンビ鳥が降ってきた。それはまるで爆撃機の爆弾のようだった。

「これは面倒くさいことになったな」

「ちょっと黄ミイラ、なんとかしてよ」

「それは無理だ」

「何故よ」

「さっきの放電にわしの力を使いすぎた。今は力がない」

「ペース配分―!」

 私はペース配分を考えない声の出し方をした。

 と、そこに黒い影が宙に見えた。

 いや、それは影ではなく、黒い包帯で覆われたミイラだった。

「まったく、俺が出るタイミングってことでいいのか?」

 黒ミイラが宙に浮いていた。

「どうして宙に?」

 私の濡れた髪の毛が少し揺れた。水分を含んで重く垂れている髪の毛がマリリンモンローのスカートのようにふわりと浮くなんて不思議なものだ。どこからそんな風が吹いているのだろうか?

「どうして宙に浮いているか教えてあげよう」

 黒ミイラはハキハキと好青年みたいな言い方だった。

「どうしてなの?」

「俺が風を操るからだ」

 颯爽と現れた雰囲気だった。

「風で浮いているってこと?」

「そうだ。羨ましいだろ?」

 嫌味のない言い方で、包帯がなければ白い歯が光って見えたのではないかと思うくらい爽快なものだった。

「羨ましいけど、今はそんな場合じゃないわ」

 空からはゾンビ鳥が落ちてきた。

「翼をもがれた鳥なんか怖くない」

「翼をもがれた鳥?」

「そうだ。こいつらを見ろよ。ゾンビだから肉とか羽がところどころ無い。これでは空を飛ぶことができない」

 海に浮かんでいる死骸のようなゾンビ鳥たちを見ていると、たしかに空を飛べそうな姿ではなかった。むき出しになった骨や溶けた表面の何かがおぞましい。私はその腐臭に気づき鼻をツーンとなった。

「ということは、このゾンビ鳥たちは落ちるしかできなかったということね」

「そうだ。本当なら空を飛びたいがそれができないということだ。それがたまたま驚異になっているだけだ」

「でも、驚異には違いないのでしょ?」

「それはそうだな。しかし、それは大きな問題ではない」

「じゃあ、何が問題なの?」

「空を飛べないゾンビ鳥が空から落ちてくることだ」

 私は首をかしげて、サイドポニーの先っぼが海面についた。

「だから、それは驚異と言ったでしょ?」

「そうじゃない。俺が気にしていることとあなたが気にしていることは違う。問題はゾンビ鳥が驚異かどうかではない」

「じゃあ、何なの?」

 私のサイドポニーは全体的に海の中。

「あのゾンビ鳥たちを落としているものがいるということだ」

「あっ」

 私はサイドポニーを海から出した。

「つまり、空の高いところに親玉みたいなやつがいるということだ。そいつを倒さない限り、俺たちはやばいままだ」

「でも、そんな高いところにどうやって……」

「俺が行く」

 黒ミイラは打ち上げロケットのように急上昇した。その姿はすぐに見えなくなり、私はポツリと1人だけ残された。見上げている。

「あいつの過去を聞きたいか?」

「何も言っていないじゃない」

 私の横に当たり前のように白ミイラがきた。

「2回も聞かれたから、また聞かれると思った」

「そりゃあ、聞きたいわよ。でも、そう言われたら聞く気が起きないというか……」

「あいつは生前、真面目で正義感がある爽やかなやつだったらしい」

「私の話聞いてる?!」

 私を無視して白ミイラは続けた。

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