第20話2-8:黄ミイラ①


ゴロロロー!

 光とともにそのスミは全て空中で蒸発した。桃ミイラの頭は少し焦げていた。私は神が降臨したのではないかと思った。

「どーでもいいけど、わしは早く行きたい」

黄ミイラは面倒くさそうな口調で言った。

「ちょっと黄ミイラ、どうしてうちの頭も焦がすのよ?」

「腐敗するよりマシだろ?感謝される筋合いはあっても怒られる筋合いはないと思うんだけど。まぁ、どっちでもいいけど」

 さっきのはこの黄ミイラの能力?

「ねぇ、何の能力なの?」

「ん?説明するのが面倒だからパス」

 こいつも面倒くさい性格しているな。

「こいつは雷・電気の能力だ」

 白ミイラが説明してくれた。

「雷?」

「そうだ。気を付けないと桃ミイラのように焦げるぞ」

 白ミイラの頭の先端は黒く焦げていた。

「あなたも気をつけなさいよ!」

「俺だけじゃない」

 他のミイラも頭の先端が焦げていた。

「仲良しね!」

 私は焦げることから助かって良かったはずなのに、疎外感から嬉しくなかった。

「――助かったけど、この後はどうするのよ?船がなかったらあんな遠くまで行けないじゃない」

 私は遠くに小さく見える離れ小島のことを言った。

「うちの木にまたがって行きましょう」

 桃ミイラは海に乱雑している残骸のことを言った。

「たしかにそれがいいかもしれないけど、あんな遠くに行くにはしんどいわよ」

「面倒くさいが、わしの雷の力を貸そう」

 黄ミイラは言う。

「どうするのよ?」

「今の世の中、電力が1番だ。わしの雷で船を動かす電力を作る。電力で動く船に乗って行けばすぐに辿り着く」

 黄ミイラからは面倒くささのなかに自慢げを感じるが……

「モーターとかはどこ?」

 私は純粋に質問した。

「……」

「……」

「さて、どうしよか」

「ないんかい!」

 黄ミイラはなかったことにしようとした。

「いや、モーターはあると思ったから」

「どういう理由でよ?」

「船があると聞いていたから」

「……そう言われたら返す言葉はないわ」

 そういえば、白ミイラがきちんとした船を用意しなかったのが全ての元凶だった。

「面倒くさいから帰るか」

「ダメよ」

「じゃあ、どうすんだ?わしはこの面倒くさい状況は嫌じゃぞ」

「とりあえず、どうするのかをもう一度考えましょ……」

 と言い終わる前に、私は黄ミイラに顔面を海中に叩き込まれた。私は溺れるというよりも顔面を強打しら。皮膚が痛い。

「ヴぁにするのよ!」

 私は口から海水を出しながら浮上した。すると、たくさんの魚が宙を勢いよく飛んでいた。トビウオというものだろうか?

「危ない」

私は再び顔面を海面に叩きつけられたよ、黄ミイラに。すると、懐中にも大量の魚がいるのを確認した。それは飛んでいるように速かった。

「ぴゃは」

 私は再び顔を海水から出した。すると、身の回りを大量の魚が囲っているころに気づいた。そしてさらに気づいたのが、その魚がボロボロの様態だったことだ。

「これは?」

「ゾンビだ。魚のな」

 ゾンビ魚は空を海を飛び回っていた。その旋回するごとに空気や水が渦巻いていく。追い詰められたということかしら。

「これって、もしかしてピンチということかしら?」

 私は身震いした。

「お前はどっか言っとけ」

「きゃー!」

 私は黄ミイラに投げ飛ばされた。そう、それはまるでトビウオのように飛んでいった。そのまま海に沈んでいった。

「何するのよー!」

 私は水面からガバッと起きた。すると、投げ飛ばされた先で黄ミイラがゾンビ魚の大群に囲まれているのが目に入った。ゾンビ魚たちが次々と黄ミイラに突っ込み削っていく姿がそこにはあった。

「お前、今度は黄ミイラに助けてもらったな」

 横に白ミイラがズイっと現れた。

「あなた、いたの?」

「そりゃあ、いるだろ」

「――それで、なによ、助けてもらったって」

「見たらわかるだろ。お前も黄ミイラみたいに襲われるところだったんだ。それを黄ミイラに助けてもらったんだ」

 黄ミイラは雷を纏いながらも悪戦苦闘していた。多くのゾンビ魚が感電で沈んでいったが、いかんせん数が多い。

「でも、そういう風には見えなかったわ」

「それは、そういう風に見えないだけだ」

「なによ、その言い方」

「あいつは、言い方や態度は良くないが、基本的には相手のことを考えて行動している。だから、見た目や発言で判断するな」

 子供を叱るような言い方だった。

「そんなものなの?」

「そうだろ。面倒くさそうな態度とか、説明なく海面に叩きつけたりしてくるが、結果だけを見たらお前を助けているだろ?」

「そう言われたらそうだけど」

「そもそも、説明しないのも面倒くさいところが起因しているわけだ。まぁ、面倒臭がり屋なのは事実だが」

「生前もそんな感じなの?」

「それは言う必要あるか?」

 白ミイラは警戒してきた。

「必要はないけど、言ってくれなかったら、私、敵に捕まってやるわよ?」

「お前、桃ミイラの時も同じことを言っていただろ?」

「そうよ、だから、今度も教えて」

「お前、捕まる気がないだろ?」

「そんなに言うなら黄ミイラが嫌がる面倒くさいこと起こすわよ」

「わかったよ、言うよ」

 白ミイラは折れた。私は心の中でガッツポーズをした。遠くで黄ミイラがバリバリ働いていることを見て見ぬふりした。

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