第11話1-10:6体
「何をしている?」
「何って、逃げようとしているのよ」
「お前に聞いていない。そっちの黒フードだ」
ミイラ男はぶっきらぼうに言い放った。私は開いた口を塞ぐのを忘れたまま黒フードのものを見た。そのものをよく見ると、黒い覆面が覆われていない口の部分が動いているのを確認できた。
「何をしているのか、お前たちに言う必要はあるのか?」
「あるさ。俺はお前を殺す」
ピーンと緊張の糸が貼られた。
「それは嘘だな」
「嘘じゃないさ」
「だったら、なぜ俺を狙わなかった?」
「……それは」
「そりゃあ無理だろう。お前では俺は殺せない」
「舐めるな」
ミイラ男は包帯を伸ばした。しかし、それは黒フードから大きく離れて、ドアから出てきたゾンビ祖母を真っ二つにした。それを見てにやける口の黒フードと紡ぐ口のミイラ男の対比が見えた。
「ほらな」
黒フードはシニカルな態度だった。
「くっそー!」
ドカドカドカ!
ミイラ男は海岸で見せなかったように冷静さを失い、包帯を黒フード目掛けて振り回し続けた。虚しいことにそれらの猛攻撃は全て外れて、黒フードの周りの壁などをを微塵切りのように刻むのみだった。灰煙が立ち込め、黒フードが少し茶色やねずみ色の装飾を施された。
「まだやるのか?」
「おらおらおらー!!」
ドカドカドカドカドカドカ!!
さらに加速される包帯による灰煙。冷静に動かない黒フードと熱心に動いているミイラ男がともに煙に包まれる。というか、私も煙に巻き込まれて何が起きているのか見えなくなって困っている。
っと、煙が消えて、ミイラ男が真っ二つになっている向こう側に少し前のめりになっている黒フードが見えた。
それは静かな出来事だった。
映画の1カットのようだった。
日が沈むより早くミイラ男の体は地面に沈んだ。その向こうにいる黒フードは着地の反動で前のめりだった体勢を立て直すと、こちらに覆面が見えるようにした。そして、砲丸のごとく私の方に跳躍してきた。
私は今度も生きることを諦めた。
だって、ミイラ男がやられたもの。
もう無理よ。
……
「いや、そうじゃないわ」
私は身を左に飛ばした。足の裏の先に何かが通過したことを感じた。でも、それだけだった。
私は上手に受身をしようとして失敗した。また顔面を擦りむいた。でも、今度は心は擦りむけなかった。
「あなたなんかに殺されない!」
「……」
私の啖呵に対して黒ローブは反応を示さなかった。普段からこうなのか相手にしていないのか、不気味であった。それが再び私を襲う。
「やぁあ!」
私はミイラ男の包帯を引っ張り伸ばした。そして、先端を黒ローブ目掛けて投げつけた。包帯は綺麗に飛んでいった。
しかし、綺麗によけられた。そもそも、当たっても効果があるかわからないものであった。目と鼻の先に黒ローブがかかりそうになった。
と、私は幾重にも包帯を両腕に引っ張り巻いて、それを黒ローブの顔面に向けて突っ込ませた。当たっても効果があるのかわからないものだった。それは黒ローブの顔面をクモの巣のように捕まえて、トランポリンのように跳ね返した。
「いったぁー」
私は腕が引きちぎれそうだった。でもまぁ、仮に引きちぎれても包帯を巻いているから先に治療をしているようなものだから大丈夫かなぁと思った。私は跳ね返した反動で体のバランスを崩して尻餅をついた。
目の前には後ろによろめいている黒ローブが立ちふさがっていた。倒れないあたり体幹が強いのだろうか、慣れているのだろうか?とりあえず、一矢報いることには成功したので、心の中で舌をべーと出した。
それでもやられそう。そう、もう手がないのでやられそうである。黒ローブは体制を整えて、もう一度標準を私に向けた。
と思いきや、その表準を定める向きが私から離れたのを感じた。私は恐る恐るその視線の先を探すために。顔を反転させながら上げた。そこは、先ほどミイラ男がいた屋根の上を指していた。
6体のミイラがいる。
ミイラがいる。
6体もいる。
それを確認した後に黒ローブの方向を向きなおしたら、もういなかった。私は驚きながら6体のミイラの方向を向きなおしたら、そちらももういなかった。そこには残されたものしか残っていなかった。
敵は逃げた……のだろうか?あの6体のミイラは追いかけたのだろうか?それとも何か別のことが?
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