第10話1-9:帰宅
――私はトボトボと家に向かった。
「なんだったのかしら、あれは?」
そう過去を振り返る私の足乗りは重かった。それは気持ち的なものなのか、精神的なものなのか?私の歩く後は海水の靴跡で湿っていた。
「っていうか、こんなボロボロの格好で帰って、親に何て言おうかしら?」
私は半泣きだった。ただでさえ顔は濡れているのに、さらに濡れていた。体中に貯めた水分が滲み出ていた。
「もう嫌だ。何でこんなことになったのよ?」
私は力なく家の外ドアを引いて中庭に入った。砂利を蹴飛ばしながら歩いていると、湿った靴に砂がくっつく。気持ち悪くてどうも嫌な気分である。
空は曇っていた。雨が降りそうな黒さであったが、何とか雨が降る前に家に帰れた。まぁ、雨がどうとかという問題ではなかったが……
私は木造二階建ての一軒家に家族6人で暮らしている。祖父母・父母・姉と私である。この時間帯なら祖父母と母はいるだろうが、姉は微妙なところだった。
私は家のドアを開けた。そこはキッチン兼ダイニングとなっており、だいたい祖父母と母はいる。そこで帰宅の挨拶をする。
しかし、今日はどちらもいなかった。珍しいこともあるものだと思った。私は家に上がると廊下まで顔を出した。
しかし、誰もいる気配がなかった。私は首をかしげた。鍵が空いていたから、誰もいない訳はないはず。
とりあえず私は自分の部屋がある2階に上がった。ギシギシと一歩一歩歩いて行った。まるでなにかのカウントダウンかのように……
ドアを開けると、血を噴き出し倒れようとする母の姿があった。
その横には見知らぬ者が黒いフードで顔までを隠していた。
母の倒れた音がした瞬間、私は階段を100m走くらいの勢いで駆け下りた。体が浮きそうになる感覚に堪えながら、重力のある方向に向かった。直感で動くわけだが、無我夢中というものだった。
と、階段の降り口に影が見えた。それは祖母だった。私は祖母を避けるためにバランスを崩してコケた。
ドカッ!
「いったーい」
私は少し足首をひねった。しかし、今はそれどころではない。早く祖母にさっき見たことを伝えないと。
「おばあちゃん。たいへん。逃げないと」
私は膝ま付きながら訴えた。しかし、祖母からの返事がない。耳が遠くなってしまったのだろうか?
「おばあちゃん。さっき変な人がいた。逃げないと」
私は足首の痛みで涙を流しながらも訴えた。しかし、祖母からの返事がない。意識が遠くなってしまったのだろうか?
「おばあちゃん。母さんが殺された。逃げないと」
私は訴えた。
祖母からの返事があった。
「オヴァー!」
私は反射的に遠のいた。
祖母の体は少し青く変色しており、視線は定まっていなかった。奇声をあげながら千鳥足で寄ってくる姿はどこかで見たことがあった。それは、今日の浜辺で見たものとクリソツだった。
「ゾンビー!」
私は玄関に向かって再度走る。靴は慌てて片方が脱げたのを奇跡的に外に蹴り出して、外に出ながら履くことができた。私はそのまま家から出ることしか考えることができなかった。
と、何かに背後から両腕を掴まれた。私は首を後ろに向けて睨んだ。そこにはゾンビ顔になった祖父な顔があった。
「この、はなせ!」
私が無我夢中に振りほどこうとじたばたしていると、前から何者かが近づいてきた。私はゾンビ仲間がきたと思って、その場で絶望した。恐怖から目を閉じて、現実から目を逸らそうとした。
「あんた、なにしているの?」
聞いたことのある声。私は目を開けた。そこには、姉がいつもと寸分変わらぬ容姿で姉が立っていた。
「お姉ちゃん!」
「どうしたのよ?っというか、おじいちゃんと何しているの?」
「お姉ちゃん、助けて。大変なの!」
「大変って、いったいなにが……」
そう言っている姉の顔が視界からズレていった。頭が地に落ち、開かれた首の断面図から勢いよく血が地に落ちた。私の体は姉の血でビショビショに濡れ、塩分と鉄分で栄養素が濃くなってしまった。
「お姉ちゃーん!」
私が絶叫すると、その横には先ほどの黒フードがいた。それは静かに私に近づいた。私は今度こそ死を覚悟した。
体が真っ二つになった。
それは、私を抑えるゾンビの体だった。
私は自由になった反動でそのまま反転すると、屋根の上にこれまた先ほどに見たものがあったので、目から涙が出た。
「どこに行ってたのよー!」
私は嬉し涙を流しながら、海岸で会ったミイラ男を確認した。それは困ったときに颯爽と現れる白いヒーローのようだった。時代が時代なら、月光仮面と騒いでいたかもしれない状況だった。
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