第7話1-6:不思議
ザッ!
ザザっ!!
ザザザっ!!!
毒貝はなぜか連続で私を狙ってきた。私は泣きべそをかきながらも死ぬ気で避け続けた。まだ死にたくないピチピチの中学生なのよ。
「諦めてないじゃないか」
「うるさいわね。あんたも見てないで何とかしなさいよ」
静かに佇むミイラ男に私は息を上げながら訴えた。
「何とかしろと言われても、あんなでかいやつは厳しいな」
「どうしてよ?さっきのゾンビの時みたいに倒してしまいなさいよ」
「簡単に言うけど、意外と難しいんだよ。さっきのゾンビは小さいから包帯で切り刻むことができたけど、あんな大きな貝、切り込んでも途中で止まってしまって切りきれない。逆に捕まってしまう」
「そんなー」
私はただ絶望するだけだった。
「じゃあ、逃げるしかないの?」
「逃げてもいいけど、追いかけてきたらどうするんだ?街の人たちを巻き込むつもりなのか、お前は?」
「そ、それは」
「まぁ、逃げるのも大変だけどな」
「じゃあ、どうしたら?」
「……仕方ないな」
ミイラ男はおもむろに前進した。それは、覚悟を決めた戦士のような佇まいだった。包帯が国旗のように風に靡いている。
「どうするのよ?」
「見てたらわかる」
そう言うと、ミイラ男は毒貝に向かって一直線に走った。
毒貝は触手を伸ばした。しかし、ミイラ男は熟練のパイロットが操縦する戦闘機のように躱わしていった。そして、包帯を毒貝に向けて伸ばした。
ガゥン!
毒貝は貝殻を閉じて中を守った。それにより、ミイラ男の包帯は貝殻によって弾かれた。毒貝の触手は貝殻にちぎられて、落ちたその場にヌルヌルとした液体を散らしながらピチピチと動いていた。
「うーわ」
私は触手の気持ち悪いミミズのような様子を見て嫌な顔をした。単純にミミズが苦手なこともあるが、たとえミミズが得意でもあんな大きな毒をまとっている触手を得意だという人はいないだろう。いや、いるかもしれないけど、ここは言葉のあやということで勘弁してもらいたい。
そんなことより、殻にこもられてはさすがの包帯男もどうしようもないだろう。あの大きさだけを見ても包帯で切るのが困難と言っていたのに、さらにあの貝殻である。切るのは絶望的だわ。
「無理……よね」
「あぁ、無理だ。流石にカラにこもられたらな」
「そもそも、カラにこもらなかったらいけたの?」
「やったことはないが、いけないことはないだろ。俺の包帯を舐めるなよ」
「いや、そもそも包帯でゾンビを切ることがよくわからないわ。いったいどういう力を使っているのよ?」
「なんも特殊なことはしていないさ。あれだ、たまに紙切れで指を切ることもあるだろ?それの延長戦だ」
「そんな延長戦はあるの?延長100回くらいまで行っているでしょ?再試合したほうがいいくらいの延長でしょ?」
「そんなに延長しなくても、意外と簡単だ。割り箸を紙で真っ二つに切ることも一般の人が遊びでしているらしい。だから、まぁ、延長と言っても延長10回くらいの浅い延長だと思う」
私は、自分がたまに言うよくわからない冗談に対して周りから不思議ちゃん扱いを受けるが、このミイラ男は真面目にその冗談に対して答えてきた。不思議ミイラ男ちゃんといったところか。いや、ミイラ男の時点で不思議だわ。
「それで、どうするの?」
「どうするも、殻が開くまで待つしかないだろ」
「でも、いつ開くのかわからないわ」
「じゃあ、帰るか?」
「追いかけてくるんでしょ?」
「いや、そうとも限らない。こう防御的になったら追っかけてこないだろう」
「そうなの?」
「そうだ。実際に俺は追いかけられなかった」
そうか。このミイラ男は逃げても追いかけられなかったのか……
「会ったことあったの?!」
「おう。1週間前にな」
「どうしてそのことを言わなかったのよ」
「言っても意味ないだろ?弱点とかを知っているわけじゃないのに。というか、毒貝のことを俺が知っている時点で気づくだろ」
真っ当な理屈を言われたらグウの音も出ない。
「……それで、前の時はどんな感じだったのよ」
「どうもこうも、今回と同じさ。ミイラ退治の後にやつが出てきた。まぁ、お前はいなかったがな」
「あなた、たまにここに来るの?ゾンビ退治のためなの?」
「ここに来ると言ったら来るし、来ないと言ったら来ない。ゾンビ退治すると言ったらするし、しないと言ったらしない」
またこんなわかりにくい言い方をする。秘密主義なのか天邪鬼なのか不思議ちゃんなのか、わかりにくいミイラ男である。
なんか、ゾンビの前にこのミイラ男に一泡吹かせたい気分である。そうだ、いいことを考えたわ。私は悪い笑みを我慢した。
「そうね。それを知ったところで何も変わらないわ。やめましょう」
「それは賛成だ」
「じゃあ、単刀直入に言うわ。あの貝を倒して」
「はぁ?」
ミイラ男の包帯がピクリと動いた。
「どうしたの?早く倒してよ」
「お前、何を言っているんだ?」
「だから、倒してと言っているのよ」
「だから、どうしてその提案になるんだ?逃げるという選択肢もあるだろ?」
「逃げたところで、また今回と同じことが起こるのでしょ?だったら、今解決するほうがいいじゃない」
「それはそうかもしれないが、何か解決策はあるのか?」
「ないわ」
――波の音が聞こえた。
「バ・カ・か・お・ま・え・は!」
ミイラ男に額を小突かれた。怒っているようだった。
「何よ。小突くことないじゃない!」
「お前、何も策がないくせに倒せとかどういうことだ?」
「別にいいじゃない?女の子だもの」
私は目を潤ませて上目遣いした。
「お前、急に女の子振るな!」
「ちっ、ダメか」
「女の子振るのを止めるの早すぎるだろ!」
「じゃあ、どうしたらいいのよ?代わりの策はあるんでしょうね?」
「お前が策を考えろよ!」
ミイラ男はさらに額を小突いてきた。
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