第5話1-4:貝

「――で、話は少し戻るのだけど、あのゾンビは何なの?何でゾンビなんかいるの?あなたとはどういう関係なの?」

 私は矢継ぎ早に質問した。

「ゾンビはゾンビのことだ。ゾンビがいるのだから仕方ないだろ。俺とは敵対関係だ」

 矢継ぎ早に返答が来るが……

「何もわからないじゃない!」

 私は的に矢が当たらないようなもどかしさを感じていた。

「何もわからなくていい。お前が知る必要のないことだ」

ミイラ男は矢をへし折るような言い方だった。

「どうして知る必要がないのよ?」

「だって、危ないだろ?変に知ると」

「もう危ない目に遭っているのよ!」

「これ以上知ったら、もっと危ない目に遭うだろ?」

「もっと危ない目って何よ?こっちは死にかけたのよ!」

「だから、それよりも危ない目にだ」

「だから、死ぬより危ない目って何なの!」

私たちは言葉の矢の撃ち合い。事情を知らない人から見たら会話が盛り上がっているように見える状態。事情をしっている当人から見たら盛り上がっていない状態。

と、急にミイラ男の後ろの地面が盛り上がった。

そこからは10mは超える馬鹿でかい円盤のようなものが現れた。

それは触手をミイラ男に伸ばした。

「キャァァァー!」

 今回の異常事態では声が出た。慣れたのか、自分が狙われなかったからなのか。私の開いた口に大量の砂が入った。

「ぺっぺっ!ぎもぢわちー」

 私は口から砂を吐き出した。それでも口の中はジャリジャリしている。顔面全体にも砂が数多くあった。

「出てきたか」

私の横に着地した包帯男はつぶやいた。

「何よ、あれ?」

「あれは毒貝だ」

「毒貝?」

貝なの?

「看板に描いたはずだが」

「あの毒貝注意の看板はあなたが描いたの?」

「そうだ、上手だっただろ?」

「そうね、すごく上手だったわよ……って、そうじゃないでしょ!」

 私は状況に合わない褒め言葉を言いかけた。

「そうじゃない?」

「そうよ。看板が上手かどうかなんかどうでもいいじゃない」

「どうでもいいだと?あんなに頑張ったのに」

 ミイラ男はがっくりと肩を落とした。

「いや、どうでもよくない、どうでもよくないんだけど……うーんどうでもいいのよ!」

私は面倒くさくなった。

「どうでもいいのかよ」

「それはおいといて、とにかく、あれは毒貝なの?」

「そうだ」

「でも、毒貝って問題じゃなくない?大きすぎるでしょ?」

「まぁ、突然変異だ」

「突然変異過ぎるでしょ!」

 突然変異の中の突然変異。

「といっても、普通の毒貝ではないけどな」

「じゃあ何なの?」

「ゾンビだよ」

「ゾンビ?ゾンビで大きくなるの?」

私のゾンビ観にも突然変異が起きた。

「すべてがそうではないけどな。例えば、どざえもんって知っているか?」

「水死体のこと?」

「そうだ。江戸時代に実在した力士がモチーフになったと言われているが、今はどうでもいい。お前、水死体を見たことはあるのか?」

「ないわよ」

「そうか。でも、聞いたことはあるだろ。水死体は水分を含むから膨張すると、大きく膨らむと。聞いたことあるだろ?」

「あるわよ」

「この貝もそうだ。膨張して大きくなった。

「……それにしても大きすぎない?というか、中はともかく貝殻の部分は大きくなるのはおかしくない?」

 私は納得できそうでできなかった。ミイラ男の返答を待った。

「……突然変異だ」

「あなたもわからないの!」

 私は腰が砕けそうになった。

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