第4話1-3:ミイラとゾンビ
――私は疑問に思ったことを聞くことにした。
「あなた、何者なの?」
「俺が何者かと言われてもなぁ」
「どうしたのよ?言えないの?」
「言えないというか、自分でもよくわからないところがあるんだ」
「ミイラ男じゃないの?」
「うーん。まぁ、そんなものだ」
「何よ、その言い方?」
言葉を濁すミイラ男らしき者に対して、私は清廉潔白なようには見えなかった。でも、私を助けてくれたからシロだと思いたい。そう思えなければ、私が困ってしまって頭が真っ白になりそうだ。
「ミイラ男でいいよ」
「そんな言い方じゃ信用できないでしょ?」
「それもそうだが、だからといって他のこと、例えば宇宙人と言っても信用できないだろ?」
「そうだけれども、あなた、宇宙人なの?」
「それは例えで言っただけだ。とにかく俺が言いたいことは、俺が何者か言ったところで何も信用できないということだ」
「そうかもしれないけど」
「とりあえず、人間ではないことは確かだ。それだけは言っておく」
そういえば人間じゃなかったんだ。気が動転していてそのことは考えていなかった。包帯を巻いた重傷者じゃないんだ。
「まぁ、ミイラ男でいいわ」
「それはありがたい」
「でも、さっき倒したこいつらは味方じゃないの?」
私は近くに倒れているゾンビを指さした。
「どうしてだ?敵だよ」
「でも、同じようなものじゃないの?」
「……?何が一緒なのだ?」
「いや、だって、ゾンビでしょ?そいつら、たぶん」
私は話しながら自信がなくなって声が後半小さくなった。
「あぁ、ゾンビだ」
ミイラ男は自信満々に応えた。
「でしょ?だったらミイラ男と同じようなものじゃないの?」
私もついでに自信がついて声が大きくなった。
「お前、人間と猿が同じだと思っているのか?」
ミイラ男は少しイラっとした言い方だった。
「それは違うわ。私は猿じゃないわ」
「そうだろ?俺もゾンビじゃない」
「なるほど」
「仮に同じだとしても、人間同士は争わないのか?」
「そう言われたら」
「だろ?どっちみち同じさ。お前の質問の先は」
なるほど、このミイラ男のことが少しわかった。こいつ、口が悪いんだわ。私は少しイラっとしてきた。
「そもそも、ミイラとゾンビの違いって何なの?」
「それな。みんなそこを分かっていないんだよ」
みんなって誰よ。
「同じじゃないの?」
「違う。ミイラは死体のことなんだ。保存状態がいい死体なんだ」
「じゃあ、ゾンビは保存状態の悪い死体なの?」
「へっ」
ミイラ男の明らか馬鹿にした笑いにイライラした。
「きちんと説明してよ。私の言ったことが正しいの?」
「それも違う。ゾンビは死体が生き返ったものなんだ」
「ミイラもそうでしょ?」
私は眉をひそめた。
「違う。ミイラは死体なんだ。生きていないんだ」
私の眉は私の表情筋によってさらにひそめられた。
「でも、創作物では生きている」
「お前の見た創作物が何かは知らないが、映画や小説や漫画では生きたミイラ男が出てくるらしいな。だが、それはあくまでその作品の中の話だ。正確に言ったらゾンビだよ、あれは。そもそも男しかいないのはおかしい。ミイラ女もいるべきだ」
なにやら、創作物上のミイラに不満を持っているらしかった。
「じゃあ、ミイラ男ってゾンビなの?」
「知らないよ。作った人たちに聞いて。ただ、俺が聞いた限りだとミイラ男と言われているものはゾンビのことだな」
「でも、おかしくない?」
「何が?」
私の眉はさらにさらに深くひそんだ。
「だったら、あなたは何なの?」
「何と言われても、お前はミイラ男とすることにしたんだろ?」
「さっきはそうだけど、説明を聞いたらわからなくなったわ。だって、あなたゾンビじゃないんでしょ?」
「違うよ」
「でも、ミイラなら生きていないんでしょ?」
「生きていないよ」
「じゃあ、ミイラ男ということになっているあなたは何なの?ミイラでもゾンビでもないいんでしょ?」
「どっちでもないよ。でも、説明してもよくわからないから、ミイラ男でいいよ」
「あなたが良くても、私はよくないの。なんなのあなたは?」
ミイラ男らしき何かは言葉を少し閉じた。
「……お前、人間って何だと言われたらどう答える?」
「何よ急に?」
「たぶん答えられないと思う。実際、そんなものは誰にもわからないと思う。それっぽいことを言ってはぐらかすことくらいしかできないと思う」
「はぁ?」
「だから、俺のことはそれっぽいことを言うことはできるかもしれないが、きちんとしたことは言えないしわからない。それだったら、同じくらいそれっぽいものであるミイラ男ってことでいいと思っている。それだけだ。変なことを言ったら相手に失礼かもしれないと思っている」
私はイライラの感情もひそめすぎた眉もともに揺れたが、大きく深呼吸をしてともに落ち着かせた。
「オーケー。わかったわ。ミイラ男ね」
私は妥協点に落ち着いた。相手がそれを求めるのなら深追いはしないことにした。だって、相手に失礼だもの。
「お前、考えるのが嫌になっただろ」
「あなた失礼ね!」
私は妥協点から飛び跳ねた気分だ。
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