第3話1-2:寄り道は危ない


ズシュアー!


「!?!?!?」

急に体が砂の中に引き込まれた。

「なにないなに?!?」

私は白い見せパンが丸見えになるくらいスカートが綺麗に丸く広がったせいで足元が見えなかった。

「ちょちょちょ?!?」

 沈む私は言葉もどうしようもなかった。

 そのまま視界が下がり、腰から下が砂にはまってしまった。スカートが遠足の敷物みたいに丸く広がり、パンツの中に砂が少しずつ圧をかけてくるのを感じた。私はあまりの出来事にポカーンとした。

 が、すぐに正気に戻り体をぬこうと手を砂についた。しかし、砂が柔らかく包み込んでいくので、思ったよりうまくいかなかった。おそらく、パニックになり焦っていたこともうまくいかないことに拍車をかけていたのだろう。

 じたばたすると、私の周りの砂から3つの影が出てきた。

 それらはぬるりと出てきた。そして、その姿もぬるりとしていた。溶けたような顔が目に入った。

 人間みたいな姿なのだが、ボロボロになった髪・服・ズボンの先に見える肌はボロボロであり変色していた。手足も欠損しているところがいくつもあり、ただれていた。さきほど見た顔ももう一度はっきり見ると、輪郭が定まっていないところもあり、目・鼻・口等のパーツが人間の成れの果てに見えた。

(ゾンビ!?)

 私は声を出すことができなかったが、頭の中ではその言葉を出した。創作物の世界でしか見たことのないゾンビが出てきた。私は体中のいろいろなところからからいろいろな液体を出した。

 ゾンビ……と言ってもいいと思うそれらは、自分たちの体にこびりついた砂など気にせずに動き始めた。まぁ、あんなボロボロの体や衣服だったら今更そんなことは気にしないのは普通なのだろう。いや、普通ってなに?

「「「ぞーびー!ぞーびー!ぞーびー!」」」

 声を出すゾンビの動きを見ていると、私の周りを時計回りにぐるぐる回っていた。その間、腕を上下に振ったり、体を左右に揺らしたり、足をスキップしていた。獲物を捕まえた狩人が宴をしているような光景に見えた。

 ということは、私は獲物ということになる。そうなるといよいよ危ない。私の寿命はここまでか……

 私は顔の穴から出る液体を全部出しながらゾンビも顔負けのぐしゃぐしゃな顔になっていた。それでも声は出ない、助けを呼べない、交渉できない。私は今日ここに来たことを後悔していた。

 ゾンビたちは少しずつ回転の輪を狭くしてきた。少しずつ私に近づいてきた。私は火がともされたロウソクが少しずつ短くなるように自分の寿命が少しずつ短くなるのを感じた。

 そんなゾンビたちの中にもう1体のゾンビが加わった。それは全身を白い包帯に包まれたものだった。同じように奇妙な動きをしていた。

 それはどちらかというとミイラ男といった印象だった。この場合、ゾンビもミイラも同じようなものだろう。そういえば、ゾンビとミイラの違いは何だろう?

って、この絶体絶命の状況下でそんなバカバカしいことを考えるなんて、私ってほんと馬鹿馬鹿。

ついにスカートを踏まれるくらいまで近づいてきた。私はもうダメだと思って目を瞑った。そして、鈍い音がした。


ザンッ!


その時、私の顔に血なまぐさいものがかかった。私は自分の体が血まみれになったと確信した。せめて、楽に死ねますように……


ザンッ!


 ――あれ?体が痛くない?でも、何かが裂かれる音がする。


 ザンッ!


 私は恐る恐る目を開けた。

すると、目の前に目玉が飛び出したゾンビの顔。

「きゃーー!」

 私が目の前のゾンビの顔に目玉を飛び出すくらい驚くとともに遠目に見えたのは、ミイラ男が仲間のゾンビを包帯で切りつけている姿だった。そして、その切りつけられたゾンビから吹き出した血しぶきが私の体に吹きかかる。私の顔にかかったのは自分の血ではなくゾンビの血だったらしい。

「ぐがー!」

 3匹目のゾンビも倒れた。そこに立っていたのは、1体のミイラ男だけだった。というか、ミイラ男だよね?

「だから危ないと言ったのに」

 そのミイラ男の声には聞き覚えがあった。

「あ、あなたは?」

私はミイラ男に問いかけた。

「さっきそこであった者だ」

「やっぱりー!」

 私の中で先ほど会った白い包帯の者と目の前のミイラ男が一致した。先程と違うのは、包帯の先に垂れているのが海水ではなくゾンビの血であることだった。私の顔についたゾンビの血は顎から下にボツリポツリと垂れていた。

「どうしてここに来たのだ?」

「いや、なんとなく」

「俺は忠告したはずだぞ」

あっ、男性なんだ。

「すみません。でも、どうしても来たかったんです」

「だから、どうしてだ?」

「だから、なんとなくです」

 私は反省の色を出したつもりだった。

 ミイラ男はピンと来なかったらしく、少し間を空けた。

「……だから、俺は危ないと忠告したはずだぞ」

「だから、すみません。どうしてもここに来たかったのです」

「……だから、どうしてだ?」

「だから、なんとなくです」

互いに静まり返った。どうやら会話は平行線を辿っているようだ。私たちの横では海と空とが水平線で区切られていた。

「……俺は危ないと……」

……

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