第3話
「ここが悠くんの家なんですね」
「そうだな。両親はいないからくつろげるぞ」
学校から手を繋ぎながら一緒に帰り、今は悠の家の目の前にいる。
どこにでもあるような二回建ての一軒家で、悠が産まれた時にローンで購入したとのことだ。
でも、両親が仕事の都合で家にいないので、セフレである有栖を連れて来ても何か言われることはない。
妹が帰って来ているかのしれないが、兄が女の子を連れて来ても何か言うことはないだろう。
「ただいまー」
「お邪魔、します」
悠は玄関のドアを開けて普通に帰宅し、有栖は恥ずかしそうに家に入っていく。
異性の家に来るのは初めてだろうし、この家で初体験を迎えると思っているはずだから恥ずかしがっても仕方ない。
黒いローファーを丁寧に揃えた有栖は几帳面な性格らしい。
人の家に来たのだから自分の靴を揃えるのは当たり前だが、非常に丁寧に揃えていた。
「おかえり」
リビングの方から声が聞こえたので、既に妹は帰宅しているようだ。
今は十二時三十分、リビングで昼食を取っていても不思議ではないだろう。
ただ、有栖の声が小さかったからか、来客があるのには気づいていない様子。
しっかりと有栖の手を握り、悠は妹がいるリビングへと向かう。
思っていた通りコンビニで買ったおにぎりを食べており、もぐもぐと口を動かしながらこちらを見た。
だけどゴクリ、と食べ物を飲み込んだ瞬間、肩ほどまである黒髪を可愛らしいピンクのリボンでツーサイドアップにしている妹の
琥珀色の瞳をパチクリと開いたり閉じたりを繰り返しており、持っていたおにぎりをテーブルの上に落としてしまったほどだ。
「お兄ちゃんが、家に女の子を、連れて来た……しかも超絶美少女……」
ようやく発した梨華の言葉は、悠にとって心外だった。
思春期になってから異性を家に連れて来たことなどないが、年頃なのだから両親がいない時を狙って家に上げてもおかしくはないだろう。
「えっと……悠くんの妹さん、ですか?」
「はい。妹の、梨華です」
既に水色のティーシャツに短パンと部屋着に着替えている梨華は、少し緊張気味に自己紹介をした。
誰もが見惚れるような美少女相手なのだからしょうがないかもしれない。
「私は岸田有栖です。その……悠くんに骨抜きにされてしまいました」
確かに骨抜きにしてしまったのかもしれないが、もう少し言い方というのがあるだろう。
今の言葉ではエッチなことで気持ち良くさせてベタ惚れ状態、と思われても不思議ではない。
実際にそう思われてしまったようで、梨華の頬が一瞬にして赤く染まった。
今の梨華は悠たちが付き合っていると思っているだろう。
「母さんの部屋にあるYES、NO枕を持ってきて有栖に持たそうと思うけどどうかな?」
「いや、なくたって求めればお兄ちゃんにならいつでも抱かれるんじゃないかな? どう見ても有栖さんはお兄ちゃんにベタ惚れじゃん」
ベタ惚れされているのはそうで、際立ってイケメンじゃない自分にこんな美少女のセフレが出来ていいものか? と一瞬だけ思った。
不潔に感じないように短めにしている黒髪、ライトブラウンの瞳には視力が低いのでコンタクトを入れ、たまに梨華の乳液などを借りて肌のケアはりっかりとしているし、小顔で成人男性の平均以上の身長があるので、見た目が悪いわけではないはずだ。
なので全く釣り合わないと言われることはないだろう。
「あう~……」
梨華にベタ惚れと言われたからか、有栖は頬を真っ赤にさせた。
否定してこないということは、本当にベタ惚れ状態なのが分かる。
「いやぁ~、お兄ちゃんがこんなに可愛くて初々しい女の子をゲットするなんて世の中分からないものですな。お姉ちゃんと呼んでもいいですか?」
「あ、はい。悠くんのご家族とは仲良くしたいと思っていますので」
どうやら悠の家族と仲良くなって、自分から離れられなくする作戦があるらしい。
セフレだからいつ別れを告げられるか分からない状況と言えるため、悠の家族と仲良くすれば離れづらくなる。
これからどんどんと外堀を埋めていかれるだろう。
「そういえばご飯はいつもおにぎりとかなのですか?」
「うん。両親は出張で家にいないし、俺と梨華は料理が出来ない」
梨華が食べているおにぎりを見て言ったようだ。
作れないというよりかは、面倒だから作る気はないと言った方が正しいのかもしれない。
掃除や洗濯をして最低限の清潔さは家にあるが、炊事まで手が回らないのだ。
「良ければ私が作りましょうか?」
「本当に?」
「はい。悠くんには、きちんと栄養を取ってほしいので」
「きゃー、可愛い」
「何で梨華が反応するんだよ?」
確かに頬を赤らめて恥ずかしそうに言う有栖は可愛いが、明らかに悠より梨華のがテンションが上がっている。
いつか有栖が義姉になるかもしれないと思っているからだろう。
セフレだから先の関係なんて分からないが、いつか好きになって彼氏彼女になれたらいいな、と悠自身は考えている。
「いいじゃん。あ、お母さんに有栖さんの分の食費貰わないと」
「別にそこまでしなくても……」
「いえいえ、せっかく作ってもらうんですし、食費はこちらで出さないと」
早速両親に頼むためか、梨華はテーブルの上に置いてあるスマホを手に取って電話をかける。
母親は父親の出張について行っているだけなので、電話には出てくれるだろう。
「あ、お母さん、私私──違うよ。オレオレ詐欺じゃなくてあなたの娘の梨華だよ」
電話番号が表示されているはずなのに、オレオレ詐欺を疑う母親はかなり天然だ。
その内本当に詐欺に引っ掛からないか不安になるほどに。
「お兄ちゃんの知り合いが私たちの栄養を心配してくれてご飯を作ってくれるって話になったんだけど、食費出してくれないかなって」
きっと母親は電話越しで梨華に彼女? と聞いているのだろう。
「違う違う。ヘタレのお兄ちゃんに彼女なんて出来ないよ。お兄ちゃんホモだから可愛い男の子」
「おい」
若干というかかなり雲行きが怪しくなってきた。
ヘタレなのは否定出来ないが、ホモは否定したい。
それに有栖は男の子じゃなくて可愛い女の子なので、少なくとも彼女に失礼だ。
「え? お兄ちゃんは可愛いんだから相手はイケメンがいい? お母さんは相変わらず腐ってるね。後お兄ちゃんが相手を骨抜きにしちゃったらしいから、お兄ちゃんが攻めだよ」
梨華の会話を聞いて思い出したが、母親はBL大好きな腐女子と呼ばれる人種だった。
「それより食費を……OK? ありがとう」
それじゃあね、と言った梨華は通話を終了させる。
「り~か~、ちょっとお話があるんだけどぉ」
指をポキポキと鳴らし、冷や汗を流している梨華に近づいていく。
有栖の食費を貰えるようになったのは嬉しいことだがホモではないため、悠は梨華に説教をした。
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